鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

スーパー糖質制限で5kgのダイエットに成功するも・・・。

 

ダイエット目的で糖質制限を始めたという50代女性のAさん。

 

3ヶ月で5kgの減量に成功して喜んでいたのだが、最近夕方頃に気が遠のくような感じがし、以前よりも疲れやすくなったとのことで相談に来られた。

 

聞くと、Aさんが行っていたのはスーパー糖質制限だった。

 

その食事内容だが、朝はコーヒーだけ。ただし、これは昔からとのこと。

 

職場に持参する昼の弁当にいつも入れていた米を抜いて、かわりにオカズを増やした。卵は毎日3〜5個ぐらい食べる。夕食は炭水化物抜きでオカズのみだが、豆腐をよく食べているとのことだった。

 

採血をしてみたところ、以下のような結果だった。

 

  • 血色素量(HB):12.2g/dl
  • MCV:95.2fl
  • HbA1c(NGSP):4.9
  • AST(GOT):17IU/l
  • ALT(GPT):10IU/l
  • A L P:117IU/l
  • γ-GTP:11IU/l
  • LD(LDH):155IU/l
  • 総 蛋 白:7.3g/dl
  • 中性脂肪:36mg/dL
  • 尿素窒素:15.6mg/dl
  • LDL-CHO:129mg/dL
  • HDL-CHO:88.0mg/dL
  • フェリチン定量:46.3ng/ml
  • T S H:2.43uIU/ml
  • F-T3:2.1pg/ml
  • F-T4:1.05ng/dl

 

HbA1cは、健常人スーパー糖質制限者ではしばしば5以下となる。Aさんも4.9と低値だった。自分のHbA1cも長い間4.7~4.9である

 

FT3が2.1(基準値は2.2~4.1)というのは明らかに低すぎで、中性脂肪も36とかなり低かった。(基準値は30~149)。

 

糖質制限前後でデータを比較できた訳ではないが、恐らくスーパー糖質制限によるLow T3と思われた。

 

Low T3は、栄養に無自覚無配慮で認知機能の衰えた高齢者ではしばしば経験するが、一般的な食生活を送る健常人でお目にかかることはそうそう無い。

 

Aさんの話を伺う限りは、糖質制限前と比較して明らかにカロリー摂取が減った様子はなかった。よって、カロリー不足によるLow T3の可能性は低いと考えた。

 

ちなみにLDL-Cは129と基準内で、総コレステロールも計算したら224と基準内であった。通常、甲状腺機能低下症とはコレステロール上昇を伴うが、Aさんは「F-T4は基準内で高コレステロール血症を伴わないLow T3」ということになる。

 

Aさんの体調不良と糖質制限は関連するか?

 

糖質制限とLow T3の関係については、以前の記事を参考までに置いておく。

 

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「気が遠のく感じがする」という体調不良、そして36という中性脂肪の超低値が物語るのは、

 

【中性脂肪が分解され恐らく遊離脂肪酸は豊富にあるにも関わらず、TCAサイクルが錆びついているので遊離脂肪酸が上手く使えない状態】

 

である。

 

糖質制限前にフェリチンとBUNが高ければ糖質制限はうまくいきやすいというイメージが自分にはあるが、 

 

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AさんのBUNは15.6でフェリチンは46.3とで、高すぎず低すぎず。このことは体調不良とはあまり関係が無さそうであった。

 

ALPは117と低く、マグネシウムや亜鉛といった栄養の欠乏は想像された。

 

特にマグネシウムは、ATP産生や解糖系および神経や筋などの興奮性細胞の活動、細胞内シグナル伝達などにおいて重要な役割を果たす重要なミネラルである。

 

体内のマグネシウムのほとんどは骨や細胞内に存在するため、その欠乏を知るのに血中マグネシウム濃度は参考にならないと言われおり、ALPなどから推測する他ないが、Aさんの体調不良の原因をマグネシウム摂取不足にのみ求めることは困難であろう。

 

また、

 

「夕方頃に気が遠のくような感じがし、以前よりも疲れやすくなった」

 

というAさんの訴えから、昼食後2〜3時間で低血糖を起こしている可能性も考えられた。

 

備蓄していた中性脂肪が減って体重は落ちたが、中性脂肪を分解して得られる遊離脂肪酸を上手く使えないので疲れやすくなった、ということもあるだろう。

 

食後2〜3時間で起きる低血糖のことを機能性低血糖症と呼び、通常は糖質摂取過多によりインスリンが過剰に分泌されて起きるとされているが、よく噛まずに食べる・急いで食べる・食物繊維不足などの悪条件が揃えば、低糖質高たんぱく食であっても高インスリンが惹起されたら低血糖をきたす可能性は十分にある。 

 

体重は敢えて聞かなかったが、そもそもダイエットの必要などないぐらいAさんは痩せて見えた。

 

女性が持つ理想の身体イメージはそれぞれだろうからあまり野暮なことは言いたくないのだが、美容目的での過度の糖質制限によるダイエットで体調不良をきたしたことは明白だった。

 

 

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スーパー糖質制限によってもたらされた-5kgの体重減少で得られた達成感と、スーパー糖質制限によってもたらされた今の体調不良を天秤にかけて考えて下さいね、と前置きした上で、

 

「夜の炭水化物抜きはそのままでいいと思いますが、豆腐以外に動物性タンパクをもっと摂りましょう。

 

朝がコーヒーだけというのは止めて、少量ずつでいいので炭水化物とタンパク質を摂りましょう。コーヒーの過剰摂取には気をつけて下さいね。副腎疲労に繋がるか、または副腎疲労が悪化します。

 

昼のお弁当には米を戻しましょう。水溶性食物繊維を多く含む麦ご飯はどうでしょう。恐らくですが、急激な体重のリバウンドを来すことはないだろうし、気が遠のく感じも無くなると思いますよ。」

 

とお伝えしたら、あっさりと了承され笑顔で帰って行かれた。体調不良の原因がわかってホッとしたのかもしれない。

 

「また何かあったら相談して下さいね」と言葉を添えたが、あれから相当時間が経ったにも関わらず未だに相談はない。

 

うまくやれているのだろう、と思いたい。

 

糖質制限ダイエット

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