鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「インフルエンザではない、という診断書を貰って来て下さい」とデイサービス事業所から言われた利用者さん。

 

当院通院中のAさんに起きた話。

 

ある日の朝のこと。デイサービスに行ったAさんは検温で37.2度の熱が確認された。

 

咳や咽頭痛、鼻汁などの感冒症状が何もなかったにも関わらず、Aさんは家に帰るようデイサービスから言われ、Aさんの家族が迎えに来させられた。

 

Aさんが通うデイサービスは、利用者が熱発したら休まなくてはならず、熱発の翌日に熱が下がっていても休まないといけない決まりがあるらしい。

 

ちなみに熱発の規準は37度で、感冒症状の有無は問わないとのことだった。自律神経調整機能の衰えた高齢者や認知症患者では、感染を伴わない熱発など普通にあることなのだが、そのあたりの判断はどうしているのか気になった。

 

翌日、37度未満に熱が下がったAさんがデイサービスに行こうとすると、スタッフから

 

「昨日熱が出ているので、今日は解熱していてもダメです。決まりです。」

 

と言われ、更に、

 

「病院で検査を受けて、インフルエンザではないという診断書を貰ってきて下さい。そうでないと、デイサービスは再開できません。」

 

とも言われた。

 

世の中は広いから、「インフルエンザです」ではなく、「インフルエンザではありません」と医学的に証明して診断書を書ける医者が一人ぐらいはいるのかもしれない。自分には無理だけど。

 

インフルエンザについて、ここでおさらい。

 

感染から約3日ほどの潜伏期間のあとに発熱や頭痛、倦怠感や関節痛などが出現し、その後に上気道炎症状が続発し、約1週間の経過で終熄していくのが典型的なインフルエンザである。

 

一般的な流行シーズン(11月〜3月)で、

 

  1. 突発発症
  2. 高熱
  3. 上気道の炎症症状(咳・鼻汁・咽頭痛など)
  4. 倦怠感や関節痛などが全身に及ぶ

 

この4点を満たしていれば、その時点でのインフルエンザ診断キットの結果は関係なく臨床的にインフルエンザと診断する。

 

ただし世間的には、臨床症状よりも診断キットの結果に重きが置かれているようで、

 

補助的な検査であるインフルエンザキットで陽性ならインフルエンザの可能性が高いですが、陰性だからといって、その時点で絶対にインフルエンザではないという証明にはなりませんよ

 

という常識的な説明は、往々にして理解されない。

 

現時点では臨床的にインフルエンザとは診断出来ないが、インフルエンザではないことを「証明」診断書を書くことは、自分の医師としての職業倫理に抵触するし、また、そのような診断書を発行して診断書料を頂くことは一種の詐欺のように感じる。

 

しかし、何らかの対処をしなければAさんはデイサービスに行けない。 

 

そこで、ひとまず測定キットでインフルエンザチェックを行い陰性であることを確認し、付箋に手書きで「測定キットではインフルエンザ陰性でした」と書き、当院の印鑑を押してご家族に渡したのだった。 

 

結局、これでAさんはデイサービスには行けることになった。

 

本人も行きたがっていたし、また、家族もAさんにデイサービスに行ってもらわないと、自分達が仕事に行けない状況だったので、ひとまずは良かった。

 

介護事業所の運用ルールに診断書を持ち込むのであれば、安易に「診断書を貰ってきて」という前に、診断書が発行される要件について把握しておいて欲しい。

 

主として、診断された結果や診断内容等を証明するために用いられる。例えば、患者が生命保険や入院保険に入っている場合、保険料を請求するにあたって、支払いの要件を満たしていることを立証するために用いられる。また、業法等において、申請者等の当事者が一定の疾病に罹患していないことの証明が必要な場合があり、その証明のためにも用いられる。例として、薬事法に基づく各種の許可申請において、個人たる申請者もしくは申請者が法人の場合における取締役が精神疾患・麻薬中毒等でないことを証明する必要があり、この場合に診断書を許可申請書に添付して証明する。その他、諸々の場面で証明が必要な場合に、事実を証明するものとして利用される。(Wikipediaより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

例えば、医師や薬剤師が麻薬施用者、管理者免許を取得する際には、

 

  • 精神機能の障害をきたしていないか
  • 麻薬及び覚醒剤の中毒者ではないか

 

といったことを別の医師が確認し、「そうではない」という診断書が発行される。

 

この診断書はほぼ自己申告に基づいてのようなものではあるが、公的に「病気ではない」という診断書が必要な状況はそうそうないのである

 

また、我々医師は無理筋な依頼に対して医学的根拠に欠ける診断書を書くと、最悪の場合「虚偽診断書等作成罪」という罪に問われる可能性があることは是非、知っておいて欲しい。

 

なお、インフルエンザに罹患した後に「治癒証明書(陰性証明書)」なるものを求める組織が未だにあるようだが、厚生労働省の公式見解は以下のようになっているので参考にして欲しい。

 

赤文字強調部分は筆者によるものであるが、従業員に対して求めることが望ましくないものを、自サービス利用者に求めるのは如何なものかと思う。

 

 

Q インフルエンザにり患した従業員が復帰する際に、職場には治癒証明書や陰性証明書を提出させる必要がありますか?


A 診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が身体症状や検査結果等を総合して医学的知見に基づいて行うものです。インフルエンザの陰性を証明することが一般的に困難であることや、患者の治療にあたる医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません


(2018年9月27日 第26回厚生科学審議会感染症部会報告資料)

 

 

 

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インフルエンザ治癒証明書

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