鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症や変性疾患で使われる専門用語について。

 

認知症の用語説明

 

このブログでは多くの略語が使われています。また、疾患に関する専門用語も多数登場します。

また、一部には著者の個人的な呼称や、コウノメソッドにおいて使われる呼称なども含まれています。

 

略語集

 

  • ATD)アルツハイマー型認知症
  • DLB)レビー小体型認知症
  • FTLD)前頭側頭葉変性症
  • VaD)脳血管性認知症
  • iNPH)特発性正常圧水頭症
  • CBS)大脳皮質基底核変性症候群(狭義のCBD、PSPを含む)
  • CBD)大脳皮質基底核変性症
  • PSP)進行性核上性麻痺
  • AGD)嗜銀顆粒性認知症
  • SD-NFT)神経原線維変化型老年期認知症
  • DNTC)石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病
  • FTD-MND)運動ニューロン疾患型前頭側頭型認知症
  • MSA-P)パーキンソン型多系統萎縮症
  • MSA-C)小脳型多系統萎縮症
  • MCI)軽度認知機能障害
  • CSDH)慢性硬膜下血腫
  • HDS-R)改訂長谷川式簡易知能評価スケール
  • ADL)日常生活動作
  • LBD)レビー小体病
  • RBD)REM睡眠行動異常
  • DESH)Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalusの略。正常圧水頭症を疑う画像所見のこと。
  • AVIM)Asymptomatic Ventriculomegaly with features of Idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRIの略。MRIで正常圧水頭症のような脳室拡大をきたしているが、無症状の場合をAVIMと呼ぶ。将来的に水頭症症状を呈してくる可能性があるため、慎重な経過観察が望ましい。
  • ピック感)ピック病の患者さんによくみられる雰囲気。声の抑揚がつけられず、目を見開いて相手を凝視し、傍若無人に振る舞う、など。
  • レビー感)レビー小体型認知症の患者さんによくみられる雰囲気。暗く、小声で話し、目線が合わず、ぎこちない動きで小刻みに歩く、など。
  • 陽性症状)怒りっぽい、大声を出す、徘徊するなど、エネルギーが溢れている状態。
  • 陰性症状)活気が無い、寝てばかりいる、食欲が無いなどの、エネルギーが少ない状態。

 

認知症の中核症状

 

認知症とは、神経細胞が変性して本来の働きが出来なくなることで起きる、後天的な病気である。

 

様々な症状を呈するが、「中核症状」と「周辺症状」に分けて考えると整理しやすい。

 

中核症状と周辺症状

 

記憶障害

 

体験したことや、過去の記憶が抜け落ちていくこと。

 

直近のことから忘れていくことが多く、また、そのことに自覚がないことが多いため混乱が生じる。記憶は、以下の5つに分けられる。

 

短期記憶

 

短時間だけ脳にとどまる記憶。必要な記憶は長期記憶へと移行されるが、認知症の方は短期記憶が衰えるため、特に新しいことを覚えるのが難しくなる。

 

  • 今日の日付を覚えておれず、何度も確認する
  • ものを何処に置いたかを忘れる
  • さっき訊いたことを、数分後にまた訊ねる

 

長期記憶

 

何かのことをきっかけに呼び起こされる記憶。長期記憶が失われると、以下のことが起こる。

 

  • 生年月日を忘れる
  • 家族のことを忘れる

 

エピソード記憶

 

体験したことの記憶。認知症なのか、ただのもの忘れなのかを判断する際に、「体験がごっそり抜け落ちていないか」の確認は大切。

 

  • 昨日一緒にレストランに行ったことを、全く覚えていない

 

手続き記憶

 

繰り返し繰り返し練習し、身体で覚えた記憶。認知症になっても、身体で覚えた記憶は長期間保たれていることが多い。

 

  • 料理
  • 車の運転
  • 家事動作

 

意味記憶

 

言葉の意味の記憶。マヨネーズを見て、「マヨネーズ」と言えるのは、マヨネーズが何を意味するかを知っているからである。特に意味性認知症では初期から失われやすく、こそあど言葉が増えてきたときに気づくことが多い。

 

  • 娘「お母さん、そこの醤油をとってくれない?」  母「醤油って、なに?」 

 

見当識障害

 

自分がどのような状況下にあるのかを認識する力を、「見当識」と呼ぶ。見当識が失われると、以下の様なことが起こる。

 

  • 自宅にいるのに、自分がどこにいるのか分からなくなり出ていこうとする
  • 今日が何月何日何曜日か分からない
  • 季節が分からないため、冬に夏の格好をしてしまう
  • 自分がどこにいるのかわからず、外をさまよい歩く(徘徊)

 

失語

 

言語機能が失われ、読み書きの能力や、聞いたり話したりする能力が衰えること。

 

例えば、「16時に駅前で待ち合わせをしましょう。私は、赤い服に青いズボンを履いて行きますので、見つける目印にして下さい。」など、複数の要素を一会話に盛り込んでも、失語のある認知症患者さんでは、まず理解できない。

 

何かを伝えるときには、複雑な内容を避けて「一文に一意味」を心がけたい。

 

失認

 

人は、視覚や聴覚、嗅覚といった五感を動員して外界を認識している。外界から入力された情報を処理して「認識」に至るが、処理する脳の箇所が故障していると、視力や聴力には問題はなくても、「認識」が出来なくなってしまう。これを失認と呼ぶ。

 

脳の右半球が脳梗塞を起こしたため、「身体の左側」に対する認識が出来なくなり、しょっちゅう左側のものを見落としたり、身体の左側をぶつけたりする

お嫁さんが捜し物をしているところをみかけ、「誰か知らない人」が「ウチのものを勝手に持っていこうとしている」と思い込んでしまう

 

失行

 

 身体を動かすことは問題なく出来るのに、目的に見合った適切な行動が出来なくなること。

 

  • シャツを渡しても、いつまでも袖を通すことが出来ず、ボタンも嵌められない
  • 歯ブラシを渡しても、どのようにして歯を磨けばよいのか分からない

 

認知症の周辺症状

 

準備中

 

画像検査

 

SPECT

 

Single Photon Emission Computed Tomographyの略称で核医学検査の一種。放射性医薬品を静脈注射した後に、その体内分布をシンチカメラで撮影しコンピュータで合成する。

 

血流や代謝の状態を確認することが出来る検査。例えば、脳においてSPECTで後頭葉の血流が低下していると、レビー小体型認知症の可能性を疑うことが出来る。

 

脳SPECT画像

脳SPECT画像。血流の状態を視覚的に確認することが出来る。

 

妄想

 

妄想とは、「訂正することが不可能な」思い込みのことである。

 

注察妄想

自分が誰かに見張られている、といった妄想。例えば、「隣に住んでいるおばさんが、ことあるごとに自分の家を覗いている」、「テレビの画面の向こうから、誰か自分を見張っている」など。

 

関係妄想

 

周囲で起きていることが、さも自分に関係があるかのように結びつけて考えてしまう妄想。

 

罪業妄想

 

「自分は年ばかりとって役に立たない。家族に迷惑ばかりかけて申し訳ないから、早くあの世に逝きたい」という高齢者は多いが、これは一つの罪業妄想と言えるかも。

 

心気妄想

 

実際そうではなくても、「自分は病気に違いない」という思い込み。

 

被害妄想

 

他人から悪意を持って害されている、という思い込み。認知症で最もよく聞かれる「もの盗られ妄想」は、被害妄想の一種である。

 

財布などが見当たらない場合、「自分がどこかにしまったのかも」と考えることが出来ず、「誰かが盗ったに違いない!」と短絡する。短絡先は、大抵は身近な家族である。

 

その背景には、「自分も年を取ってきた・・・」とか「老後のお金が足りるのだろうか?」といった不安があることが多い。

 

もの盗られ妄想の矛先になった時に、「盗るわけないでしょ!!」と言い返すと、その表情をみて「こんなに怒るなんて、やっぱり盗ったに違いない!!」となってしまう。

 

理解力が低下しているため、言葉で説明して納得してもらうことは難しい。しかし、相手の表情はよく見ている。これは、本能の領域である大脳辺縁系が活発になっているからである。なので、努力して笑顔を見せながら「一緒に捜してみようか?」と不安に寄り添う行動を取ってあげると、気分が落ち着くことが多い。

 

カプグラ症候群

 

人物誤認妄想の一種。

 

「自分の夫がいつの間にか、知らない相手と入れ替わっている」など。毎日会っている見慣れた家族に向かって「お宅はどちら様・・・?」などと言うことがある。

 

鏡徴候

 

鏡に映る自分を自分と認識できず、他人と思って話しかけたりする現象。進行したアルツハイマーで見られることがある(個人的印象)。似たような現象で、「テレビに向かって話しかける」こともある。

 

これらも一種の人物誤認妄想なのかもしれない。

 

その他の専門用語

 

言葉や話し方の特徴。パーキンソンの特徴的な症状など。

 

滞続言語

 

質問の内容とは無関係に、何を聞いても同じ話を繰り返すもので、他動的に誘発され、持続的で制止不能である。ピック病によくみられるといわれているが、前頭葉機能低下を示すものと思われる。

 

医者「お仕事は何をしていましたか?」

患者「昔戦争に行ってね、大変だったよ。」 

医者「それは大変でしたね。ところで、今日の朝ご飯は何を食べましたか?」

患者「昔戦争に行ってね、大変だったよ。」

 

語義失語

 

言葉を聞き取り復唱することができるが、その言葉の意味がわからない状態。側頭葉、特に左側頭葉前方の萎縮により起きやすい。前頭側頭葉変性症の意味性認知症で強く認められる症状。

 

医者 「桜、猫、電車、と言って下さい。」

患者 「桜、猫、電車。」

医者 「ありがとうございます。ところで、普段使う"利き手"はどちらの手ですか?」

患者 「"利き手"って何ですか?」

 

保続

 

同じ観念にとらわれて、思考の切り替えが出来ないために同じ返事をしてしまう。アルツハイマー型認知症によくみられる、といわれている。

 

医者「犬を飼っているんですね。名前は?」

患者「タロウといいます。」

医者「いい名前ですね。ところで、好きな野菜の名前を10個あげてみてください。」

患者「ジャガイモ、ピーマン、ニンジン・・・」

医者「ありがとうございます。そう言えば、飼い犬の名前は何でしたっけ?」

患者「え?ジャガイモ?」

 

錯語

 

言いたい言葉が、異なる言葉となって出てくること。

 

  • 音韻性錯語・・・単語の音を誤って話してしまう錯語。例えば、みかんを「みたん」と言ってみたり。
  • 語性錯語・・・言いたい単語と異なる単語を話してしまう錯語。例えば、みかんを「りんご」と言ってみたり。

 

遅延再生

 

3単語を覚えてもらい、数分後に再度聞き直す(桜、猫、電車など)。この点数が低い場合、それは近似記憶の低下を示唆する。アルツハイマー型認知症では低下(0〜1点)していることが多い

 

見当識障害

 

日にちや時間の感覚、今の季節、今自分がいる場所といった、自分を規定する周囲の状況把握が困難になること。アルツハイマー型認知症では、日にち感覚の衰えが先行することが多いと言われている。

 

他人の手徴候

 

手が他人の手のように、不随意で無目的な動作を行う現象。この他人の手徴候の病巣、機序には他説があり、右側(劣位側)前頭葉内側面病変による半球症状として考えられる場合と、脳梁病変による半球間離断症状として考えられる場合とがある。

 

アパシー

 

抑うつ気分や悲壮感、感情の偏りが認められず、意欲の低下のみが目立つ病態である(認知症-神経心理学的アプローチより抜粋)

 

ウェアリング・オフ

 

薬の持続時間が短くなり、薬の効果が切れてくると症状が悪くなる現象。

 

オン・オフ

 

薬をのんだ時間に関係なく、スイッチがオン、オフになるように症状がよくなったり悪くなったりする現象。

 

ジスキネジア

自分の意思とは関係なく、身体の一部が動いてしまう現象。

 

 

ジストニア

持続的または不随意的に筋肉が収縮したり固くなったりする現象