鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症初期集中支援チームの在り方について。

「今年度もまた、よろしくお願いします。」

 

依頼があって引き受けた認知症初期集中支援チームのチーム医となって4年近く経つが、継続の意思確認がないまま、自動的に更新され続けてきた。

 

www.ninchi-shou.com

 

認知症初期集中支援チームとは、厚生労働省が策定した「オレンジプラン」という認知症施策推進5カ年計画の中に盛り込まれた施策の一つである。

 

認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けられる ために、認知症の人やその家族に早期に関わる「認知症初期集中支援チーム」を配置し、早期診断・ 早期対応に向けた支援体制を構築することを目的とする。(厚生労働省HPより引用)

 

自分の他にも16名のチーム医がいるようだが、チーム医同士の連携はなく、従ってお互いの活動実態は分からない。

 

ただ、頻繁に当院にケースを持ち込むチーム員(地域包括支援センターの保健師、介護福祉士、精神保健福祉士など)に聞いたところによると、各チーム医に平等にケースを振り分けるような仕組みは存在せず、相談を持って行きやすい医師に依頼が偏る傾向はあるようだった。

 

初期集中支援チームの実際

 

「地域包括支援センター(以下、包括と略す)から受診を勧められたので」と、当院を受診する方達が少なからずいる。

 

包括に日々持ち込まれる相談案件を初期集中支援チーム預かりとするのか、それとも、どこか病院を受診するよう促すに留めるのかを、何らかの規準の元に決めているのか以前から疑問に感じていたのだが、このことをチーム会議で当院を頻繁に訪れる包括スタッフに訊いてみたところ、「規準はないと思います。」とのことだった。

 

よく言えばケースバイケースだが、要は場当たり的ということだ。

 

物忘れの相談(仮にAさんからとする)がチーム対応となった場合の流れを簡単に説明すると、当院の場合だと以下のようになっている。

 

  1. 担当スタッフがAさん宅を訪問し、種々の情報を得て会議に持ち込む資料を作成する
  2. 日程調整後、昼休みに包括スタッフ3名前後が当院に集合し会議を行う
  3. 会議の結果当院受診の方針となれば、後日診察の際に包括スタッフも同伴する
  4. その後、半年以内に終了会議をして、Aさんのために組まれたチームは一旦解散となる

 

3で「会議の結果当院受診の方針となれば」と書いたが、実際にはほぼ全てのケースが受診となる。

 

包括スタッフも(恐らく)最初からそのつもりで資料を作成して会議に臨んでおり、ファシリテーターが「では、専門医療に早期に繋げ、その後は早期に適切なサービスに接続できることを目標としましょう」とまとめて会議を終えることが殆どである。

 

会議に持ち込まれる情報シートは、いつも有り難く思いながら目を通している。通常の物忘れ外来初診の際に得ることは困難な量の情報が満載されているからである。

 

ただ、普通に物忘れ外来を受診するのと、多職種が3~4名集まりチームを組んで物忘れ外来に臨むのとで、後者の方が患者さんを初め関係者全員にメリットが大きいのかと言えばそんなことはなく、効率の面で言うとむしろデメリットの方が多いのではないかとすら感じている。

 

情報を集めて持ってきてくれる包括スタッフには申し訳ないが、人手不足のこのご時世に、医師以外に3~4名も集まって一人の事例に時間を割くのは勿体ない。

 

誰か一人が情報を取りに行き、その情報を元に医師が診察を行う際に情報取得者も同伴し、自分の上げた情報がどう活用されたかを確認し、その後しばらく経過をみて一旦フォローを終了する。

 

このようなやり方であれば、今の2〜3倍のスピードで案件を処理出来るだろう。

 

複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6ヶ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームをいう。(厚生労働省)

 

厚生労働省が決めたチームの定義に「複数の専門職が」と銘記されているから、というだけの理由で集められているとしたら残念なことだが、恐らく実情はそんなところなのだろう。

 

このように、認知症初期集中支援チームについては普段から思うところがあったのだが、先日、市の主催で新年度からのチームの在り方について説明会が開催されたので参加した。

 

そして、失望した。

 

「会議を増やします!」という新たな方針

 

説明会は19時からだったので、当日は夕方の外来時間を調整して臨んだ。この時点で多少なりともクリニックには損失が出ている。医者一人のクリニックの辛いところである。

 

最初に、チームによる案件処理件数や鹿児島の高齢者要介護者数の推移などについて簡単な報告があったが、これまでの初期集中支援チームの取り組みがどのような実を結んでいるのかという報告はなかった。

 

そして、肝心の「認知症初期集中支援チーム員会議の形態について」の発表があった。

 

鹿児島市 認知症初期集中支援チーム


これまでは案件ごとに随時開催だった会議を、令和2年度からは複数チーム合同の定例会にするとのことで、その後ろになぜか小さく(随時開催はこれまでどおり)と書いてあった。

 

では、定例会の回数はどうなるのかというと、

 

鹿児島市 認知症初期集中支援チーム

年に約30回を想定しているらしかった。

 

実は説明会に先立って、認知症施策に関わる市の職員が事前告知目的で当院に面会に来たのだが、その際に

 

「定例会は年間36回ほどを考えています。随時開催の会議もこれまで通り行うことで、事案にスピーディに対応出来るようにします」

 

と言っていた。

 

それに対して自分は、

 

「それだと恐らく、自分は今後協力出来ない。チーム医を降りることになると思う。今でも昼休みを潰して会議をしているので、これ以上の持ち出しは困難だ。」

 

と告げた。すると市の職員は、

 

「お忙しいのは分かりますが、先生にも休診の日がありますよね?そこを当てて頂けたら・・・」

 

と言いだしたので、これは話にならないと考えてお帰り願った。

 

もう少し捕捉すると、36回の会議数を17~18名のチーム医で分担し、一人当たり年間2回ほど会議に出て貰えばそれでよいとのことだが、そう単純計算は出来ないだろう。

 

担当職員は「医師各々で都合があるだろうから、都合の付かない医師がいた場合には他の医師が代わりに会議に出席することもあり得る」とも言っており、責任感の強い特定の医師にしわ寄せがいく可能性がある。また、今回の決定に賛同しない医師がチーム医を降りたら、一人当たりの担当回数は当然増えることになる。

 

そもそも、過去4年間の初期集中支援チームの取り組みで、どういう実績があり、どういう課題が残ったのだろう。

 

その総括がないまま、チームに4年間関わり続けてきた医師達へのヒアリングもなく、いきなり降ってきた年間36回の定例会開催の決定。そして、(随時開催はこれまで通り)と小さな字で書くところに感じざるを得ない姑息さ。

 

担当職員は、「時間的余裕のあるケースは定例会まで待って一気に5例ほど検討することで、結果的に随時開催の会議が減って先生方の負担も減ると思います」と根拠薄弱な予想を述べていたが、包括に相談が持ち込まれた時点で悠長に待っていられない可能性があると考えて欲しい。

 

要は、厚生労働省から「(我々が仕事をしているということをアピールするため)年間36回の定例会を開催せよ」というお達しが届き、その命令を着実に実行するために「先生達が楽になりますよ?」と明らかに取って付けたような理由で医師達に協力を迫っている、というだけのことではないのか。

 

そうだとすると、「手段の目的化、ここに極まれり」である。年36回の定例会など、認知症の現場にいる人間から出てくる発想ではない。何やら既視感たっぷりだが、

 

【認知症サポーターを〇〇人育成し、認知症サポート医を〇〇人増やそう。そうすると、何かいいことがあるかも♪】

 

これと全くおなじである。

 

机上の空論に付き合っている暇はないので、説明会終了後のアンケートに「忙しいので、チーム医はこれ以上続けられません」と書いて投函した。市の職員曰く、認知症サポート医も専門医も増えているらしいので、敢えて自分が関わり続ける個人的意義、また社会的意義は低かろう。

 

文句を言うだけで去るのは後味が悪いので、曲がりなりにも4年間関わってきた人間として以下の提案をしておく。聞き入れられることは、まずないだろうが。

 

  • 医師一人クリニックのチーム医には、随時開催の会議で協力を願う
  • 人的余裕のある病院に勤務するチーム医には、定例会への参加で協力を願う

 

現場で頑張っている包括スタッフをくさす気は毛頭ないので、これまで通り必要に応じて気軽にご相談下さい。認知症救急外来という当院の役割は、これまで通り変わりはありませんから。