人通りの少ない早朝。 店のシャッターを上げ、まだ誰もいない店内を見渡す。 かつてはゴミ一つなく、掃除の行き届いていた店内と店先。棚には整然と一升瓶が並べられ、客や出入り業者と昭吉が交わす威勢の良い挨拶の合間を縫って、スタッフがキビキビと動いていた。 …
日差しが少しずつ柔らかくなり、冬の名残が路傍に吸い込まれ消えていく頃。 リツ子に加わっていく様々な変化に、涼子は驚きと焦りを感じていた。 「ねぇ、お義母さんまたお味噌買ってきてたよ。これでもう四つ目」 夕食の片付けをしながら、テレビを観ている裕一に声…
昭吉が息を引き取ったのは、冬の終わりだった。 その朝、雲一つない空が広がっていた。庭の蝋梅が黄色い小花をつけ、まだ冷たい風に揺れていた。老いた身体はいつかの夕暮れのように静かで、最期の吐息は、まるでその風に紛れて消えていくようだった。 「よく頑張っ…
「早く何とかしないと手遅れになる」 息子からそう言われるたびに、リツ子は考え込む。
新興感染症で世界が混乱している。 死者数が他の国と比べて桁違いに少ない日本でも、それは例外ではない。 テレビを付けると毎日のように「今日は○○人の感染者が報告されました。2週間後には・・・!!」と、ワイドショーのコメンテーターが声を張り上げている。
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