鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

ある家族のストーリー

(第3話) 見たくなかった現実。

人通りの少ない早朝。 店のシャッターを上げ、まだ誰もいない店内を見渡す。 かつてはゴミ一つなく、掃除の行き届いていた店内と店先。棚には整然と一升瓶が並べられ、客や出入り業者と昭吉が交わす威勢の良い挨拶の合間を縫って、スタッフがキビキビと動いていた。 …

(第2話) 踏み出した一歩。

日差しが少しずつ柔らかくなり、冬の名残が路傍に吸い込まれ消えていく頃。 リツ子に加わっていく様々な変化に、涼子は驚きと焦りを感じていた。 「ねぇ、お義母さんまたお味噌買ってきてたよ。これでもう四つ目」 夕食の片付けをしながら、テレビを観ている裕一に声…

(第1話) 静かな別れ。

昭吉が息を引き取ったのは、冬の終わりだった。 その朝、雲一つない空が広がっていた。庭の蝋梅が黄色い小花をつけ、まだ冷たい風に揺れていた。老いた身体はいつかの夕暮れのように静かで、最期の吐息は、まるでその風に紛れて消えていくようだった。 「よく頑張っ…

手遅れ。

「早く何とかしないと手遅れになる」 息子からそう言われるたびに、リツ子は考え込む。

誰がためにワクチンは打たれる

新興感染症で世界が混乱している。 死者数が他の国と比べて桁違いに少ない日本でも、それは例外ではない。 テレビを付けると毎日のように「今日は○○人の感染者が報告されました。2週間後には・・・!!」と、ワイドショーのコメンテーターが声を張り上げている。