人通りの少ない早朝。 店のシャッターを上げ、まだ誰もいない店内を見渡す。 かつてはゴミ一つなく、掃除の行き届いていた店内と店先。棚には整然と一升瓶が並べられ、客や出入り業者と昭吉が交わす威勢の良い挨拶の合間を縫って、スタッフがキビキビと動いていた。 …
日差しが少しずつ柔らかくなり、冬の名残が路傍に吸い込まれ消えていく頃。 リツ子に加わっていく様々な変化に、涼子は驚きと焦りを感じていた。 「ねぇ、お義母さんまたお味噌買ってきてたよ。これでもう四つ目」 夕食の片付けをしながら、テレビを観ている裕一に声…
昭吉が息を引き取ったのは、冬の終わりだった。 その朝、雲一つない空が広がっていた。庭の蝋梅が黄色い小花をつけ、まだ冷たい風に揺れていた。老いた身体はいつかの夕暮れのように静かで、最期の吐息は、まるでその風に紛れて消えていくようだった。 「よく頑張っ…
お会いして9年経ったAさんが、訪問診療に移行するまでの経過を紹介する。 来院1年前に、直近の家族旅行のことを全く覚えていなかったという出来事があった。 それ以外には日常生活で気になることはなかったが、念のための受診ということだった。
施設入所中の90代女性Aさんが、2ヶ月続く夜間せん妄を主訴に来院した。 主治医に対応を求めるも、「もう年だし、これ以上は・・・」という反応の鈍さに業を煮やした施設スタッフが連れてきたのであった。 副作用を懸念してであろう、超高齢者への積極的薬物療法を厭うか…
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