鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【2020年まとめ】8年間の認知症外来診断結果報告。

今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2020年11月30日までの、約8年間の「認知症外来初診時における臨床診断結果」を報告する。

 

「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患、てんかん、発達障害、そのほか病型診断困難な症例などは【Other】に分類した。

 

全例で頭部CTを撮影し(一部、他院の画像持ち込みあり)、長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査は行っている。頭部MRI、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は必要に応じて適宜行っている。

 

昨年のまとめは以下。

 

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主要3病型の合計は51.4%。ATDの占める比率がやや低下

 

認知症外来データ

 

8年間の認知症外来受診患者総数は2387名。(直近1年間は337名。)

 

そのうち、正常と診断した方が495名で、軽度認知障害(MCI)と診断した方は335名だった。


2387名から正常とMCIを引き、認知症含め「何らかの問題あり」と判断した方が1557名。その方達を病型別に分類したグラフが以下。

 

認知症病型別グラフ

 

ATD+DLB+FTLD=51.4%。主要3病型が全体に占める比率は、今回も50%程度で大きな変化は無かった。

 

昨年までのデータとの比較が以下。()内は昨年の比率だが、ATD比率が減り、Other比率が増えていることが分かる。

 

  • ATD:27.5(29.1)
  • DLB:14.2(14.4)
  • FTLD:9.7(9.7)
  • NPH:6.4(7.2)
  • VaD:4.7(4.9)
  • Other:37.6(34.7)

 

認知症病型のうちATDが占める比率は約67%(厚生労働省)と言われているが、自分の外来データでは常に30%未満である。

 

うつや発達障害、パーキンソン病なども診ている自分の外来は恐らく特殊なので、数字の単純な比較に意味はない。

 

ただし、抗認知症薬不適切投与の後始末をしている身としては、「認知症の約7割はアルツハイマー」という認識で認知症外来に臨むのは危険だということを、これから認知症外来開設を考えている若い先生達には知って欲しい。

 

開院から5年、法人化を果たした節目の年

 

10月にクリニックを法人化し、「医療法人結縁会」として新たなスタートを切った。

 

スタッフが1人産休に入ったが、新たに2人加わり看護師は常勤3人体制となった。年明けからは医療事務スタッフを1人募集する予定だが、良い人材が来てくれるまで永遠に面接を続けるつもりでいる。

 

1日平均で70~75名、最高90名。

 

外来は以前にも増して混沌の様相を呈している。 

 

最大2時間待ちが頻発するようになり、「流石にこれはもう無理だな」と感じたので、1年かけて少しずつ初診と再診の予約枠を縮小してきたのだが、それでも上記のような数である。予約枠を縮小していなかったら・・・と考えるだに恐ろしい。

 

枠があればあるだけ予約は入ってくる。既存の患者さんには申し訳ないが、飛び込みで来られる「目茶苦茶困っている人たち」のためなのでご理解頂きたい。

 

今年は更年期障害の女性を診る機会が増えたためプラセンタ注射を導入し、併せて3台目のスーパーライザーも購入した。使用する漢方の幅も増え、更年期・自律神経障害の治療効率は向上した(はず)。

 

うつの患者さんも、多く診た。

 

老若男女問わなかったのは、明らかに昨今の世相が影響していたと思われる。

 

コロナに関して、思うところを少しだけ述べる。

 

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自粛警察に石持て追われた方、コロナで世を去った方、そして、「お願い」という名の自粛が社会に強要された結果、生業を失い絶望し世を去った全ての同胞に哀悼の意を捧ぐ。

 

自分にとって都合の良い「エビデンス」で未熟な己の死生観を糊塗し、無自覚に他者の人権や自由を制限しようとする専門家(自称含む)。そして、そのような専門家に、自分の人権や自由を積極的に制限して欲しいと望む人びと。

 

彼らと共に棲むこの社会は紛れもなく「大衆社会」だが、オルテガが予言し実現してしまったこの難儀な大衆社会を、それでも我々は生き抜いていかなくてはならない。絶望し、去ってしまった同胞たちの目を背中に感じながら。

 

より良い生を願うことと、ただただ死にたくないと願うことは等価ではない。他者の死生観が、自分のそれと同じとは限らない。

 

グローバリズムが跋扈するこの時代、"危機の喧伝"にナイーブでいると自身の生が危うくなる。

 

恐怖は人の判断を誤らせ、目の前の現実を歪める。世の中には、悪びれることなく、むしろ良かれと思って恐怖を煽る人びとがいることを忘れないでいたい。

 

新しい年が、当ブログを読んで下さる皆さんにとって良い年でありますように。

 

来年も引き続き、宜しくお願いいたします<(_ _)>

 

(☆脳外科医の自分にとって非常に興味深かった本。タイトルで損しているが、とても面白かったのでお勧めする。)