くも膜下出血後の方を1年間フォローした経過を紹介する。
経過中に圧迫骨折があったりパーキンソニズムが目立つようになったりなど色々あったが、何とか入院することなく、かつ介入当初よりも改善に持っていくことが出来た。
このような症例は恐らく、診療科を分けずに脳外科医が全てフォローするのが理想的だと思う。
70代女性 くも膜下出血後遺症
娘さんよりTEL
9ヶ月前ににくも膜下出血で手術、その後リハビリを経て2ヶ月前に退院した。
高次脳機能障害と診断され現在は週に5日デイを利用している。デイの準備がうまく出来なかったり着替えやいろんな事の段取りが出来なくなった事に本人もショックとイライラする事が多くなった。
家族もどう対応してよいか分からない。退院後、検査の為に手術を受けた病院を受診したが、「特に異常ないので半年後にまた来て」と言われただけで、今後についてのアドバイスや詳しい説明はなかった。
入院中もほとんど詳しい説明がないまま転院となったため、不安しかないと。どこに相談してよいか分からず、口コミを頼りに当院に電話を下さったとの事。(受付〇〇記載)
初診時
9ヶ月前に仕事中にSAH(くも膜下出血)で倒れた。同日に〇〇病院にて開頭クリッピング術施行。10時間以上の手術だった。
リハビリ後に自宅復帰。地元の内科医がかかりつけ医になったが、家族や本人の混乱にどう対応していいか分からず困惑しているとのこと。
同伴した御家族は多弁で抑揚少なめの大声で話をループさせ続ける人たち。今後変化してくるかどうか。
ご希望はひとまず夜間良眠なのかな。
既に処方されている眠前クエチアピン25mgを増量。更に安定を狙って夕方に抑肝散加陳皮半夏を入れる。
左上肢にはハッキリと固縮を認めるが、右前頭葉底面は手術により大きく損傷し、右尾状核から視床にかけては脳梗塞痕(spasmあるいは術中操作の影響)があるので、その影響も考慮する。パーキンソン病合併は忘れずに。
御家族には、「否定的な発言から入らないように。これは練習が必要です。」と説明。
次回は余裕があればHDSR。当院かかりつけになるのかな?
2週間後
デイケア先から「頭痛、嘔吐、血圧が高いから迎えに来て欲しい」と連絡あり、御家族が迎えに行きそのまま連れてきた。
デイの朝に入浴中に排便あり。その後、昼食中に嘔吐して血圧上昇。その後、頭痛を訴えていると。
来院後にSL(スーパーライザー)で症状軽快。緊張型頭痛かな。「頭痛」と聞けば、御家族はくも膜下出血再発に結びつけてしまうのだろう。仕方なし。
前回処方の工夫で夜間睡眠は良さそうだが、日中の怒りっぽさ・言うことを聞いてくれない・一時も待てない、という状況は変わらないとのこと。
睡眠対策は抑肝散+クエチアピン31.25mg。昼にチアプリド25mgを開始。その他は引きつぐ。やっぱり当院かかりつけになるのかな。
2週間後、娘さんより電話
昨日デイにて、37度台の熱があった。
感冒症状等なく帰宅後熱もなし。熱が出た翌日はデイを休むように言われ本日休んだ。本日も36度台で元気だが、デイから連絡がありインフルエンザの検査をして異常ないとの診断書がないとデイの再開は無理と言われたとの事で、予約。(受付〇〇記載)
インフルチェック陰性。
メモの形で施設に連絡。陰性証明書のような診断書は出せない。お金も勿体ない。
クエチアピン1.5Tで夜間良眠も便失禁があったとのことで0.5T減量。
5日後
今朝、自宅内段差で躓き転倒。当初は心窩部を痛がっていたが、今は背中を痛がる。
CTで確認したところ、圧壊はないがTh7の新鮮骨折が疑わしい。Th12は陳旧性骨折かな。
カロナール定期内服とエディロール開始でひとまず対策。これで入院したら全般的statusは相当悪化してしまうだろう。
夜間は良眠。しかし、日中の易怒性亢進とデイから言われていると。ただし、それを言ってくるのは常に特定のスタッフだと。ちなみに、前回陰性証明書を貰ってきてと言ってきたスタッフ。これは気をつけておく。
10日後
疼痛は消失した。
デイで「スタッフを叩くので、落ちつく薬を貰ってきて下さい」と家族がスタッフから口頭で、かつ連絡帳記載で指示されて困惑。これも前回と同じスタッフ。
朝にチアプリド追加。夜はクエチアピン1Tで抜群に落ちついている。朝の失禁は週1ぐらい。御家族的には受け入れは出来ていると。
4週間後
デイサービスで37.4度→38.5度と熱発ありとのことで来院。
左へ体幹傾斜。熱でキツそうだ。
カロナール処方。視床を損傷しているので自律神経障害で体温調整困難は起きうる。
前回の朝チアプリド追加で「抜群に落ちついている」と施設から言われたとのこと。
4週間後
オムツかぶれにアズノール。
小刻みすり足歩行で大変と。市営住宅の2階に住んでおりエレベーターがないため、デイサービスへの行き来が大変とのこと。
ドパコール50mg起床時に開始。
4週間後
起床時ドパコール著効。階段移動が可能となった。
診察室までの歩みは左へ体幹傾斜し小刻みの正にパーキンソン歩行。15時にもドパコール50mg追加。
活気も明らかに上がっているようだが、デイでは少し易怒性が上がったかもとのこと。
介入から半年
ドパコールの効果が薄らいでいるようだと。起床時75mgに増量。
将来の施設入所に備えて諸検査をしておく。
5週間後
- 朝はパーキストン1T(100mg)
- 15時はドパコール1.5T(75mg)
LDOPAを少しずつ増量。
デパケンRが大きくて飲みにくいとのことでシロップに変更。
施設入所に備えた胸部レントゲン結果は特記所見なし。採血結果も特に問題なし。
4週間後
LDOPA増量は良さそう。維持。
薬の多さに本人ウンザリしていると。剤数は確かに多い。
気が紛れるかもしれないので粉砕お試し5日間。良さそうなら継続。
5日後
粉砕はうまく内服出来なかったようだ。残念。錠剤に戻す。
減薬希望あり。昼のチアプリド撤退。バルプロ酸(デパケン)を朝と眠前に分散。夕の抑肝散加陳皮半夏中止。易怒性は一時期ほどはないとのこと。
3週間後
朝の起きだしが弱い。深く寝ていると。
SAHで入院中の時も含めてこれまで一度も痙攣のエピソードなく、眠前のバルプロ酸を中止してみる。
他は維持。声に元気はある。
5週間後
インフル予防接種。
眠前バルプロ酸中止で調子は向上。眠気が朝に持ち越されていたのかな。
ただし寝言は増えたかも、と。これはRBD的か。抑肝散加陳皮半夏再開。これで変化なければリボトリール開始かな。
朝のバルプロ酸も中止。
4週間後
デイの報告書では概ねまとまっている。階段昇降も出来ている。
時折の感情の起伏は元々のキャラと御家族は理解している。受けとめ方、声かけの仕方、家族の対応力は以前よりも向上している。
体幹傾斜は軽度となり、今日は小刻みだがほぼ独歩で入室。
RBD(レム睡眠行動異常)は抑肝散加陳皮半夏では制御不可のようだ。バルプロ酸を眠前で戻す。朝への持ち越しがあれば、次回で減量する。他は維持。
介入から1年
バルプロ酸再開でRBD減少。
ハキハキ喋り調子は良さそう。体感を右にやや傾斜させながら軽介助で歩行入室、着席。右上肢にわずかに振戦を認める。
処方は維持で良さそうだ。
(前医処方)
- クエチアピン(25)1T1X眠前
- ゾルピデム(5)1T1X眠前
- アムロジピンOD(2.5)1T1X朝食後
- ビソプロロールフマル酸(2.5)1T1X
- ランソプラゾールOD(15)1T1X
- バルプロ酸Na(200)2T2X
(最終処方)
- クエチアピン(25)1T1X眠前
- バルプロ酸Na(200)1T1X眠前
- アムロジピンOD(2.5)1T1X朝食後
- ビソプロロールフマル酸(2.5)1T1X朝食後
- ランソプラゾールOD(15)1T1X朝食後
- チアプリド(25)1T1X朝食後
- エディロール(0.5)1C1X朝食後
- パーキストン(100)1T1X起床時
- ドパコール(50)1T1X15時頃
(引用終了)