鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【2019年まとめ】7年間の認知症外来診断結果報告。

 

今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2019年11月30日までの、約7年間の「認知症外来初診時における臨床診断結果」を報告する。

 

「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患、てんかん、発達障害、そのほか病型診断困難な症例などは【Other】に分類した。

 

全例で頭部CTを撮影し(一部、他院の画像持ち込みあり)、長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査は行っている。頭部MRI、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は必要に応じて適宜行っている。

 

昨年のまとめは以下。

 

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主要病型比率は横ばい、ATDの占める割合の伸びは止まった

 

認知症外来患者数

 

7年間の認知症外来受診患者総数は2056名。

 

そのうち、正常と診断した方が454名で、軽度認知障害(MCI)と診断した方は269名だった。


2056名から正常とMCIを引いた1333名を、病型別に分類したグラフが以下。

 

認知症外来患者数グラフ


ATD+DLB+FTLD=53.2(%)。

 

昨年の54%とほぼ横並びという結果だった。

 

この比率は、病型診断の統計を取り始めてから大きくは変わらないが、少しずつ伸びてきていたアルツハイマーの比率が今回初めて横ばいとなった。

 

自分の診断精度は僅かながらも向上し続けていると思っているが、「他を除外した結果で残るのがアルツハイマー(かもしれない)」というルールは変わらず守り続けているので、今年は「他」が多かった年だったのだろう。

 

DLBとFTLD、NPHで多少の増減があり、pureな脳血管性認知症は今年はほぼ来院がなく、他の認知症と混合しているケースばかりであった。

 

初診時点で既に混合型認知症を呈している方が多いのが当院の特色で、このことは今後も恐らく変わらない。

 

開業してからは自分で手術をすることがなくなったので、外来で見つけた正常圧水頭症の方の手術は他院に依頼している。これまで少なくない数の方をLPシャント手術目的で紹介し、皆さんの術後の改善率には概ね満足している。

 

「変性疾患+正常圧水頭症」という状況でも、手術を含め積極的に介入してきた自分の診療スタイルは恐らく独特だと思うが、自分で手術をしなくなった分「頑張って手術しましょうよ。その後もしっかりフォローしますよ」と、患者さんや家族の背中を押すことに躊躇いを覚えるようになった。その結果、勧める声に熱が籠もらず手術に至らなかったケースが少なからずある。

 

自分で行った手術であれば、術後の好変化が思ったより得られなくても言葉のかけようはあるが、他人に頼んだ手術だと同じようにはいかない。

 

この辺りの心理的機微は微妙なものだが、外科医であれば分かってくれる人はいると思う。

 

発達障害の診断がじわじわ増えてきた一年

 

27名。

 

これは、もの忘れの相談で当院の認知症外来を受診し、診断が「発達障害」だった方達の数である。分類は「other」とした。

 

ちなみに、認知症外来受診という形を取らずに頭痛その他の相談で来られて発達障害と診断された人たちの数は、更に多くなる。

 

先日もの忘れ外来を受診された80代のADHD女性は、サプリメントのカーミンを服用するようになってから「普通の人になった」と、お嫁さんから高く評価された。

 

その変化は、診察室で自分に分かるほどのものではなかったが、20年もの間近くで見てきたお嫁さんの評価なので疑いようもない。この年齢でもサプリメントで修飾できる余地が残されていたことに驚く。

 

当院でフォローしている発達障害の方は、下は小学生から上は88才と幅広い。特定の年代で好発するような疾患ではなく、生来の脳の癖のようなものなので当然ではある。かく言う自分も、発達障害診療に足を踏み入れるようになってから、これまで以上に自分の自閉傾向を意識するようになった。

 

ストラテラやコンサータで抜群の改善が得られる人もいれば、全く無反応のこともある。印象としては無反応の人の方が多いが、そのような人はカーミンにも反応が薄い。

 

では、栄養療法はどうか。

 

発達障害の程度が重度なほど、本人だけではなく親も発達障害である頻度が高くなり、従って栄養療法導入は困難となる。字義通りにしか解釈できず、体感に従って調整できない人たちへの栄養療法の積極導入は、勿論勧める側には悪意はないことだが、時に凶器となり得るため要注意である。

 

「この人とは噛み合わないな」と感じた時には、以前よりもよほど素早く撤退するようになった。その人のことを諦める訳ではないが、当院の事情が一人の患者に時間を使いすぎることを許さなくなっている。

 

時間に追われ、効率性を重視しようとするあまり、自分の物言いや表情がキツくなっていないかどうかは気になっている。時には気分を害する患者さんやご家族もいるかもしれない。申し訳ないと思う。

 

今後の展望

 

講演依頼について

 

自院階上で年に3回開催している地域の方たち対象の勉強会以外に、依頼して受ける講演は年に3回までと決めているのだが、何を血迷ったか今年は3ヶ月連続で受けてしまった。

 

完全に自分の責任ではあるのだが、断るのが気の毒なほどの熱意を持って依頼された案件がたまたま同時期に重なってしまい、難儀な想いをした。来年は多分、もっと絞ると思う。

 

やりたくて講演をしているのではなく、断れずに受けているだけということに改めて気づかされた。講演を通じてmassにreachすることに興味がなく、人が大勢集まることで承認欲求が満たされることもない。このことは、500人ほどの前で講演した時にはっきりと分かった。

 

人より恐らく少なめの承認欲求は、ブログがある程度拡散した時点で満たされてしまった。

 

こういう人間の話にどういう面白みがあるのか分からないが、話す内容が定型的なものではないからなのか、その手の話を聞き飽きている人たちには一定のニーズがあるようだ。

 

資料作成について

 

患者さんに渡す資料、院内で利用する問診票、いずれも開業時に準備したものを定期的に見直し、足りないものは新たに作成し、効率よい診療と効率よい患者理解度向上に努めている。

 

資料の質については概ね満足しているが、今年の目標に掲げていたパーキンソン病の資料作成に手間取っている。長年付き合っていくことになる変性疾患について、大部にならず、かつ、簡潔で要領を得た内容にすることが思いのほか難しい。

 

既存のものを利用する手はあるが、自分が行っている治療からして恐らく既存のスタイルからかけ離れており、また、グルタチオン点滴のことや他剤併用の問題についても理解して頂く必要があるため、やはり自作する他ない。

 

なんとか来年中には満足いくものを作りたい。

 

スタッフの顔ぶれの変化

 

開業して3年半以上経過し、来院患者数は前年同月比を全て上回り続け、現在平均で一日60名を診察している。プラトーに達した感じは未だないが、恐らく今の診療スタイルで診ることの出来る上限に達している。

 

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今年は、開業後初めてスタッフの退職と新しいスタッフの入職があった。

 

この過程で少なからず現場には混乱があり、患者さんやご家族には迷惑をかけ、今でも待ち時間のことなどで迷惑をかけ続けている。この場を借りてお詫び申し上げます。

 

患者増でも診療の質を落とさずに対応し続けることは試練という他なく、待ち時間や対応についてお叱りの言葉を頂く度に頭を抱えるが、結局はクリニックの理念の元にスタッフ一同結束して頑張るしかないと思い定めている。

 

カエサルが遺したとされる言葉を念頭に置き、開業時に作成した当院の理念を紹介する。

 

 

「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない。」

我々は、当院を受診する患者や家族が見たいと欲する現実を提供すべく、日々研鑽に努める。自身の専門性を高めると同時に他職種の専門性も貪欲に吸収し、獲得した総合力で患者と家族に向き合う。また、自身の健康と家族の健康に責任を持つことも忘れてはならない。

病気や人生が持つ不確定性に患者や家族は不安を持つ。我々は医療を提供する側ではあるが、不確定性に不安を持つという点では、患者や家族と何ら変わりはない。この視点を忘れずに、そして多くの人達が見ようとしない現実から目を逸らすことなく、当院を訪れる全ての人達に寄り添い続ける。

 

 

年明けからは看護師が1名増えるので、その分だけ現スタッフの抱える負荷は少しずつ分散されるだろう。新しい人が増えることは、組織のマンネリ化を防ぎ新風を吹き込むことになるだろうから、今から楽しみなことである。

 

新しい年が、当ブログを読んで下さる皆さんにとって良い年でありますように。

 

来年も引き続き、宜しくお願いいたします<(_ _)>