鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

抗認知症薬レカネマブ(レケンビ®)販売開始。

 

2023年12月20日、レカネマブが販売開始となった。

 

レカネマブとは、アルツハイマー型認知症の発症に関わるとされるAβ(アミロイドβ)を除去する薬である。

 

費用は年間298万円。患者自己負担額は恐らく年間15万円前後。

 

対象は早期のアルツハイマー病だけで、進行したアルツハイマー病や、ほかのタイプの認知症には使用出来ない。

 

早期のアルツハイマーであることを確定するためのPET検査や脳脊髄液検査、また、MRIで微小出血の有無を確認する等々、レカネマブ適応のハードルは高い。レカネマブ投与が禁忌に該当するのは以下の条件の場合である。

 

  • レカネマブの成分に対し重篤な過敏症の既往歴がある患者
  • レカネマブ投与開始前に血管原性脳浮腫、5 個以上の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症又は 11cm を超える脳出血が認められる患者

 

厚生労働省からレカネマブに関するガイドラインが出ていたので紹介する。

なお、重要と思われる箇所は赤文字で強調した。

 

投与対象となる患者

 

投与の要否の判断にあたっては、以下のすべてに該当するアルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の患者であることを確認する。無症候で Aβ 病理を示唆する所見のみが確認できた者及び中等度以降のアルツハイマー病による認知症患者には投与開始しないこと。


① 患者本人及び家族・介護者の、安全性に関する内容も踏まえ本剤による治療意思が確認されていること。
② 本剤の禁忌に該当しないこと。
③ MRI 検査(1.5 Tesla 以上)が実施可能であること。(例:金属を含む医療機器(MR 装置に対する適合性が確認された製品を除く)を植込み又は留置した患者は不可)
④ 認知機能の低下及び臨床症状の重症度範囲が以下の(a)及び(b)の両方を満たすことが、投与開始前 1 か月以内の期間を目安に確認されていること。
(a) 認知機能評価 MMSE スコア 22 点以上
(b) 臨床認知症尺度 CDR 全般スコア 0.5 又は 1
独居者の場合は、患者の周囲の者、地域包括支援センター、医療ソーシャルワーカー等の協力を得て、独居者の日常生活の様子を聴取することにより客観的な評価を行い、CDR 全般スコアを評価すること。
ただし、患者の周囲の者、地域包括支援センター、医療ソーシャルワーカー等からの情報が得られない等、CDR 全般スコア評価が困難な場合は、他の評価方法により、認知症の重症度の範囲が同等であることを確認した上で用いること。
⑤ ①~④を満たすことを確認した上で、アミロイド PET 又は脳脊髄液(CSF)検査を実施し、Aβ 病理を示唆する所見が確認されていること。

(「最適使用推進ガイドライレカネマブ(遺伝子組換え)」より引用改変)

 

MMSEスコア22点以上(30点満点)、かつCDR0.5または1という条件で、早期アルツハイマーか否かの線引きをし、この条件に一致した患者をアミロイドPETまたは脳脊髄液検査で更にふるいにかける。

 

アミロイドPET 保険適用

日本メジフィジックス株式会社プレスリリースより引用

 

アルツハイマーにおけるAβの脳脊髄液検査

SRLより引用

 

レカネマブ治療が出来る病院、クリニックとは?

 

(2)投与施設
① 初回投与~6か月まで
(1)の患者に対して初回投与する際には、以下のア~ウを満たす施設で対応すること。また、初回投与後 6 か月までは、同施設で投与すること。
ア 初回投与に際して必要な体制
認知症疾患医療センター等の、アルツハイマー病の病態、経過と予後、診断、治療(参考:認知症疾患診療ガイドライン(日本神経学会監修))を熟知し、ARIA※のリスクを含む本剤についての十分な知識を有し、認知症疾患の診断及び治療に精通する医師が本剤に関する治療の責任者として配置され(以下の「(ⅰ)施設における医師の配置」)、かつ、投与に際して必要な検査体制(以下の「(ⅱ)検査体制」)及びチーム体制(以下の「(ⅲ)チーム体制」)が構築されている医療機関であること。
※アミロイド関連画像異常。ARIA-H:ARIA による脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着、ARIA-E:浮腫/浸出。

~中略~

② 初回投与後6か月以降
初回投与後 6 か月以降は、「(3)投与期間中の対応」に掲げる患者の評価・検査、本剤の投与継続・中止の判定時の投与は本剤の初回投与を行った施設(以下、「初回投与施設」という。)での実施が必要であるが、それ以外の期間の投与は、以下の要件をすべて満たす施設で投与することができる
 初回投与時の患者情報等の共有も含め、初回投与施設と連携がとられていること。
 下記の要件をすべて満たした医師が当該施設の本剤に関する治療の責任者として配置されていること。
➢ アルツハイマー病の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医の認定を有していること。
・ 日本神経学会
・ 日本老年医学会
・ 日本精神神経学会
・ 日本脳神経外科学会
➢ 医師免許取得後 2 年の初期研修を修了した後に、10 年以上の軽度認知障害の診断、認知症疾患の鑑別診断等の専門医療を主たる業務とした臨床経験を有していること。
➢ 画像所見から ARIA の有無を判断し、臨床症状の有無と併せて本剤の投与継続、
中断又は中止を判断し、かつ適切な対応ができる医師であること。
➢ 製造販売業者が提供する ARIA に関する MRI 読影の研修を受講していること。
➢ 日本認知症学会又は日本老年精神医学会の実施するアルツハイマー病の病態、
診断、本剤の投与対象患者及び治療に関する研修を受講していること。

~中略~

本剤投与開始後は、本剤の 5回目の投与前(投与開始後 2 か月までを目安)、7回目の投与前(投与開始後 3 か月までを目安)、14 回目の投与前(投与開始後 6 か月までを目安)、以降 6 か月に 1回、MRI 検査を実施し、ARIA の有無を確認すること。また、ARIA を示唆する症状が認められた場合には、臨床評価を行い、必要に応じて MRI 検査を実施すること。画像上 ARIA が検出された場合は、当該規定及び添付文書の注意喚起に基づいて、本剤の投与中止又は投与継続の可否を判断すること。

(「最適使用推進ガイドライレカネマブ(遺伝子組換え)」より引用改変)

 

初回投与は基本的に、大学病院レベルの施設となる。鹿児島なら鹿児島大学病院だろう。*1

 

開始6ヶ月以降であれば、学会専門医がいてMRIのある施設であれば無床クリニックでも投与可能となるが、レカネマブ使用患者は全例調査の対象となっていることもあり、医師1人のクリニックで複数の患者を引き受けるのは負担が大きい。

 

投与期間は1年半が想定されており、多くの患者は初回投与の病院で継続となることが予想される。

 

投与期間は1年半

 

ガイドラインに示された条件を満たさないため、当院でレカネマブを投与することは出来ない。

 

当院に通院中のアルツハイマー患者家族から大学病院紹介を頼まれたら、早期と思われる方であれば紹介する。

 

今のところ、「先生、うちの家族は対象になりそうですか・・・?」と訊ねられた例に限って言うと、臨床的には全例対象「外」である。

 

レカネマブ投与にあたり注意すべき重大な副作用がARIA(脳浮腫と微小出血)であり、ARIAはMRIで確認することがガイドラインで定められている以上、MRIを持つ大学病院が一時的にしろかかりつけ医も引き受けるべきだとは思うが、恐らくそうはならない。「何かあったらかかりつけ医に相談」となるだろう。

 

こういったことを事前に諸々説明し、ARIAが疑われたらMRIが撮影出来る民間病院に撮影を依頼し、大学にも連絡をし、といった手間を考えると、正直気が重い。

 

それでも、レカネマブによって何らかの改善が得られる可能性が高いのであれば、その手間をかける意義はある。

 

しかし、レカネマブはそのような薬ではない。

臨床試験では1人たりとも改善しておらず、1年半後には全員認知機能が低下している。

 

「少しでも進行を遅らせられるのなら使う意義はある」と言う人たちも、それが医者であれ患者であれ、心の何処かで「ひょっとしたら良くなるのでは?」と期待するものである。

 

レカネマブ開始から1年半後、認知症が進行している現実を突きつけられたときに、彼らは何を想うだろう。

 

「使っていなかったら、もっと認知症は進行していたに違いない」

 

であろうか。

 

抗認知症薬が予防投与される未来

 

Aβを除去する抗認知症薬アデュカヌマブの治験が失敗した時、ある大学教授は「もっと早く使うことが大事」と言った。

 

もっと早く使いたいのであれば、発症前から使うのが一番良いということになるが、それを本当に現実化しようとする動きがある。

 

www.nikkei.com

 

エーザイのCEOは言う。

 

レカネマブを使うことで、認知症は進行するが施設への入所を送らせることが出来る可能性がある。そのことに、経済面も含め社会的な価値がある、と。

 

薬を使用する患者が薬に求めてきた従来の価値観とは、「副作用少なく症状を改善させる」というものであったはず。

 

その価値観の転換を今、一製薬会社が求めている。

 

コロナ渦を通じて、科学は世間の空気に勝てないという現実が明白となった。

 

「副反応少なく高い予防効果を発揮する」という従来の価値観に反した例のワクチンが利用した空気は、「コロナ怖い」、「自分だけ打たないわけにはいかない」だった。

 

レカネマブが利用する空気とは恐らく、

 

「認知症にだけはなりたくない」

 

だろう。

 

危機の喧伝に脆い国民性が再び、試されることになる。

 

 

 

 

www.ninchi-shou.com

 

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*1:その後、鹿児島では大学病院以外にも民間の病院が3つほどレカネマブ投与に対応するという話を聞いた。