2ヶ月ほど前からプラセンタ注射を始めた。
今のところ、患者さん達の評判は軒並み良好である。
プラセンタとは?
プラセンタとは、「胎盤」のことを指すフランス語である。
母胎と胎児を繋ぐ器官である胎盤は、アミノ酸やビタミン、ミネラルなどの生理活性物質を大量に含んでいるため、古来より「若返りの妙薬」として使われてきた歴史がある。
ドリンクやカプセルの形態でサプリメントとして飲むプラセンタは、主にウマやブタなどの胎盤から作られている。様々なメーカーが販売しているが、医薬品として保険適応を取得しているものはない。
注射薬として使われるプラセンタは、ヒトの胎盤から作られている。
日本国内で処方医薬品として認可を受けている注射薬のプラセンタは「メルスモン」と「ラエンネック」の二つで、当院はメルスモンを採用した。
それは、メルスモンの効能効果に「更年期障害」があるからである。
他に「乳汁分泌不全」も効能効果に挙げられているが、乳汁分泌不全の相談で脳神経外科である当院に来られる女性は、流石にいない(笑)
もう一つのプラセンタ、ラエンネックの効能効果は「肝機能障害」。ニーズがないこともないが、ひとまず採用は見送った。
プラセンタ注射の実例
プラセンタがどのように効くのか当院での実例を以下に挙げるが、多くの方に共通するのは「肌の調子が良くなった」という点である。
この点については、プラセンタの血行促進作用や抗酸化作用、線維芽細胞増殖作用が関与していると思われる。
40代女性 ホットフラッシュ
40代に入り、時折「急に首から上が熱くなり、汗が出る」というホットフラッシュに悩まされるようになった。
一回のプラセンタ注射後から、ホットフラッシュが激減した。
40代女性 肌つやが良くなった
3~4回目プラセンタ注射後から、何となく肌の調子が良くなってきた。他者からもそれを指摘されたと。
50代女性 頭痛・肩こりの軽減
年来の緊張型頭痛・肩こりに悩まされていた。ノイロトロピンや葛根湯でそれなりには対処できていたが、輪っかで締められているような緊張型頭痛が、プラセンタ注射で2/10まで改善したとのこと。
50代女性 冷え症と頭痛、ホットフラッシュの改善
プラセンタ5回目の時に聞いたところ、頭痛や冷え、ホットフラッシュの軽減が得られているとのことだった。
プラセンタの投与法と効果判定の目安
メルスモンの添付文書によると、「更年期障害患者31例を対象に、1週間に3回、2週間継続して合計6回皮下投与したところ、有効率77.4%を示した」 とある。
当院では、メルスモン1A(2ml)を上腕に皮下注射している。投与ペースはご希望次第だが、週に1~2回の頻度で来院される方が多い。なお、ご希望の方には、2A(両上腕に1Aずつ)投与も行っている。
効果を判定するための投与回数は、添付文書を参考に「6回」としているが、今のところ6回以内でプラセンタを止めた方はおらず、皆さんペースは様々だが継続している。
更年期症状≒自律神経症状
更年期症状について少し詳しく説明する。
一説には200種類以上とも言われる更年期症状だが、その多くは自律神経症状として説明可能である。例えば、
- 突然の火照りやのぼせ、発汗が起きるホットフラッシュ
- 動悸
- 不安感や焦燥感
- イライラ、息切れ、不眠、頭痛
- 便秘や下痢、消化不良などの消化器症状
などは、自律神経の「交感神経」の過活動の結果と考えられる。
また、交感神経が活動しすぎてダウンすると
という、一見うつ病や認知症と間違われそうな症状が出ることもある。
自律神経とは、血圧や心拍、発汗や体温調整など、生命を維持する上で重要な機能をコントロールしている、自分の意思とは無関係に「自律」的に働く神経のことである。
自律神経の中枢は脳の視床下部と言われる場所にあるが、視床下部はホルモン放出の指示を出す中枢でもある。
視床下部から出た指示が下垂体に届き、下垂体から出た指示が卵巣に届くと女性ホルモンが放出される、という経路がある。
- 視床下部(GnRH)→下垂体(FSH)→卵巣(E2)
※GnRH・・性腺刺激ホルモン放出ホルモン FSH ・・性腺刺激ホルモン E2 ・・エストロゲン(エストラジオール)
加齢に伴い、卵巣で女性ホルモンを作る力は衰える。
すると卵巣は、視床下部に向けて「女性ホルモンを作る命令を出して下さいよ〜」とお願いを出す。
そのお願いを察知した視床下部は、下垂体に向けて卵巣を刺激するよう指示を出し(GnRH放出)、その指示を受けた下垂体は卵巣を刺激するホルモンを出す(FSH放出)。
しかし残念ながら、卵巣はそれに応える力を既に失っている。にもかかわらず、視床下部にお願いを出し続ける。(GnRH↑・FSH↑・E2↓)
女性ホルモンを作る力が衰えた卵巣の無理なお願いに視床下部の【ホルモン放出部門】が必死に応えようとしているうちに、視床下部の【自律神経部門】が巻き添えを食ってバランスを崩す
これが、「更年期症状≒自律神経症状」発症のメカニズムである。
主介護者のケアは、患者さんのケアに繋がる
認知症患者さんを診ているうちに、同伴する娘さんやお嫁さん達の体調相談も自然と受けるようになったのだが、その相談の多くは更年期症状についてだった。
主介護者のケアは患者さんのケアに繋がるので、まずは認知症領域で使い慣れた漢方で取り組んでみることにした。
当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、いわゆる「女性三大漢方」を中心に、桃核承気湯や抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯などを使い、それなりの手応えを掴んだ。
次に投入したのはスーパーライザー(近赤外線照射装置)。
「星状神経節(頚部にある交感神経節)」に照射することで、交感神経を抑制し副交感神経を優位にすることができる装置で、星状神経節だけではなく、膝や腰、肩などにも当てることで局所の血行を促進し、痛みやしびれの緩和が期待できる。
当初は変性疾患への応用を想定して導入したのだが、あっという間に自律神経症状対策の切り札となり、現在は3台が絶賛稼働中である。
そして今回、プラセンタが加わった。
介護のみならず、子育てや仕事などで人生において最も忙しい更年期の時期をどう乗り切るかで、その後に迎える初老期の健康に大きな違いが出る、と個人的には考えている。

当院で採用しているプラセンタ注射「メルスモン」