先日、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の血清抗体検査を受けてみたのだが、結果は「陰性」だった。
PCR 検査が検体中の新型コロナウイルス遺伝子を測定することで現時点での感染状態を示すのに対し、本検査は検体中の新型コロナウイルスに対する抗体の有無を測定することにより、対象者が最近あるいは過去に新型コロナウイルスに感染したことを示すことが期待されている検査です。
本検査は対象者の血液(血清・血漿)を検体とすることから検体採取時における医療従事者の感染リスクが低く、また全自動検査機器を用いて多数の検体を処理することが可能です。
このため、感染の蔓延状況や集団免疫の進行状況を把握するなど疫学的調査・研究や今後のワクチン開発にも貢献できるものと期待しております。(みらかグループプレスリリースより引用)
抗体検査の結果を絶対視するわけではないが、マスクを外す公的な口実の一つとして期待していただけに、ちょっとガッカリだった。
マスクの科学的効力の限界を知る者として、また、自分の性格からして、必要性の低い状況にも関わらず「医療関係者ならマスクをつけるのは常識ですよね?」という世間の「空気」は、率直に言うと鬱陶しいものである。
上気道症状がなく熱もない患者と医者が、互いにマスクを付けて相対している絵面には、一種形容しがたい滑稽さがある。
滑稽なことをしている自分を腹立たしく思いながらも、「患者さんが安心するなら仕方なしか・・・」と空気を読みつつ、息苦しさを我慢しながらマスクをつけて仕事をしている。
対人ビジネスの辛いところである。
科学の敗北
インフルエンザは既に「with」なので恐らく気にも留められなかっただろうが、コロナの流行が喧伝され続けている間も、例年通り毎週数百人単位でインフルエンザによる死亡者は全国で発生していた。
狂想曲が鳴り響く世界では、80歳のインフルエンザ死亡者と80歳の新型コロナ死亡者は、等しく「死者」として扱われない。
目の前で起きている事象の全貌が明らかではなくても、遅きに失しないためには見切り発車で対策を打っていくしかない。特に公衆衛生領域ではそうである。
見切り発車そのものを責めていたらきりがないし、そのつもりもない。ただし、動き続ける事態の最中でも微調整を続け、後日その過程をしっかり検証して次に活かす姿勢は必要である。
2020年5月28日ニュース「『学校閉鎖は流行阻止効果に乏しい』と小児科学会」 | SciencePortal
ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑制と相関がない」と研究結果 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
そのために、意思決定の過程を議事録に残しておくことは当然だと思っていたのだが、狂想曲の鳴り響く国では、当たり前のことが当たり前にはいかない。
コロナ専門家会議の議事録なし「あり得ない」 公開を求める委員も:東京新聞 TOKYO Web
上図は、5月1日に公式発表された「COVID-19の日本の実行再生産数及び感染者数」の推移を示したグラフである。
※実行再生産数・・・1人が何人に感染させているかを示す数値。1以下であれば、感染は収束に向かっており、2以上であればオーバーシュートに近づいていると考えられる。
このグラフが発表された5月1日当日、専門家会議は「実効再生産数を見ると、3月25日は2.0であったが、その後、新規感染者数は減少傾向に転じたことにより、4月10日の実効再生産数は0.7となり、1を下回った」と述べた。
グラフを見ると、4月1日の時点で全国でも東京でも実行再生産数が1まで下がり、4月7日には東京は0.7まで下がっている。
全国に緊急事態宣言が発令されたのは4月7日である。
4月1日時点で流行が既にピークアウトし始めている可能性があることは、4月7日に緊急事態宣言を発令した時点では分かっていただろう。
4月15日に「何もしなければ、コロナで約42万人が死亡する」と発表した時点で、北大の西浦教授は流行がピークアウトしている可能性についてどう考えていたのだろう。
そして、5月7日に緊急事態延長が発表された時点では、流行が既にピークアウトしていることは、専門家会議参加者・政府関係者、全員が把握していただろう。
にも関わらず、緊急事態は延長され、経済は当面回復不可能な打撃を受けた。
これらは全て、科学的根拠に基づいていたと言えるのだろうか?
自分としては、科学が「空気」に敗北したのだとしか思えなかった。
コロナの指定感染症扱いを外すべきではないのか
6月16日、厚生労働省は3都府県で計7950人を対象に実施した新型コロナウイルス抗体検査の結果を発表した。
抗体陽性率は東京都で0.10%、大阪府で0.17%、宮城県で0.03%という結果であった。
東京都で0.10%ということは、東京都民約1万4000人が感染したという計算になる。
この報を受けて、日本感染症学会理事長の古舘一博氏は、産経新聞で以下のように述べた。
「(今回の結果は)予想より低かったが、市中レベルではこの程度なのだろう。それだけ再び感染が広がる恐れがあり、2日連続で40人を超える感染者が出た都内では、水面下で広がりつつあってもおかしくない」
~中略~
「日本では第2波を受けたら、第1波と同じように多くの人が感染してしまうリスクがあると考えなければいけない」
0.1%の感染率は予想より低いとしながら、「第2波を受けたら、第1波と同じように多くの人が感染」と言うのは破綻していると思うのは自分だけだろうか。
第1波、第2波という表現は、100年前に流行したスペイン風邪を基にしていると思われるが、そうであれば第1波よりも第2波、第3波は感染者数は少なくなるだろう。0.05%か、それとも0.01%か。
第1波で東京都民1万4000人を感染させた(とされる)コロナと比較して、既に「with」とされているインフルエンザの場合、2017年~2018年シーズンにおける全国の感染者数は、およそ1400万人。コロナの1000倍である。
第2波、第3波に備えよと言うなら、その根拠と対策を、近い過去の失敗を踏まえて明確にしてほしい。*1
海外はさておき、日本においてはコロナは相当に事情が異なるらしいことを踏まえつつ、今後の対策として最も重要なことは、まずコロナを指定感染症扱いから外すこと、少なくとも第2類相当から外すべきだと個人的には考える。
指定感染症者は基本的には入院させなくてはならないため、入院治療を行った病院は他患者への配慮、予定手術の中止や延期等で軒並み減収に見舞われている。コロナが指定感染症扱いのままであれば、それらの病院は今後も減収覚悟で待機ベッドを準備し続けなくてはならない。
また、たまたま感染者を診たことが後日発覚して、指定感染症であるが故に休診に追い込まれたクリニックも多いと聞く。病院関係者や病院への風評被害は、報道されている以上に酷いものだという実感は確かにある。
「せめて指定感染症さえ外してくれたら、色々と協力も出来るだろうに・・・」と考える病院経営者は多いのではないだろうか。
最後に。
自称を含む一部の専門家たち、専門家会議の議事録を残さないと判断した人たち、そしてワイドショーで狂想曲を奏で続けた人たちの今の心境とは、どのようなものだろうか?
「騒ぎすぎたのかもしれないが、今さら後には引けない。new normalで生きていくしかない。世間の空気がそう言っている。」
ではないことを祈る。