鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【2022年まとめ】10年間の認知症外来診断結果報告。

今年の締めくくりとして、2012年11月20日から2022年11月30日までの、約10年間の「認知症外来初診時における臨床診断結果」を報告する。


「アルツハイマー型認知症+特発性正常圧水頭症」といったような複数の認知症疾患を合併しているケースや、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症といった稀少変性疾患、てんかん、発達障害、老衰、そのほか病型診断困難な症例などは【Other】に分類した。

全例で頭部CTを撮影し(一部、他院の持ち込み画像による代替あり)、長谷川式スケール、上肢筋固縮の確認等の神経学的検査は行っている。頭部MRI、MIBG心筋シンチその他の核医学的検査は必要に応じて適宜行っている。


昨年のまとめは以下。

 

www.ninchi-shou.com

 

主要3病型の合計は48.6%、ATDの占める比率は低下しOtherは上昇

 

認知症外来データ



 

10年間の認知症外来受診患者総数は3039名。(直近1年間は320名)

 

正常と診断した方が566名で、軽度認知障害(MCI)と診断した方は476名だった。


3039名から正常とMCIを引き、認知症含め「何らかの問題あり」と判断した方が1997名。その方達を病型別に分類したグラフが以下。

 

認知症外来データ

 

昨年のパーセンテージを()内に示す。

 

  • ATD:24.7(26.4)
  • DLB:14.2(14.1)
  • FTLD:9.7(9.3)
  • NPH:5.6(5.8)
  • VaD:4.4(4.5)
  • Other:41.4(39.9)

 

ATD+DLB+FTLDの主要3病型の合計比率は48.6%と、過去の傾向と同様に50%前後で推移している。

 

なお、8年前に作った病型グラフを見ると、全体の中でATDの占める比率は26%であった。

 

認知症外来データ

 

10年間認知症外来を続け定期的にブログで報告してきたが、全体の中でATDの占める比率は一貫して25%前後だった。そして、主要3病型の占める比率も、ここ7年ほどは50%前後で大きな変化はない。

 

ちなみに、直近1年間で当院認知症外来を訪れたのは320名、そこから正常26名とMCI79名を除くと215名。

 

215名のうちATDは23名、つまり10.7%。

 

今年自分が診たピュアな(他に合併している要素のない)ATDは、認知機能に問題ありと判断した初診患者のうち10.7%であった。

 

厚生労働省の報告によると、全体に占めるATD患者の比率はおよそ70%程度とのこと*1だが、自分の外来に限って言うと様相は相当異なる。

 

発達障害やパーソナリティ障害、老年期うつ病、遅発性パラフレニー、ポリファーマシーによる薬剤性認知機能障害。

 

認知症外来を始めて10年、典型例のみならず様々な患者を診て経験を積んできた。

 

特にこの数年は、発達障害やパーソナリティ障害を意識しながら患者を診るようになった結果、一般的な(病理学的な)意味での認知症病型診断に拘る必要を感じなくなりつつある。

 

認知症外来初診時における臨床診断結果の報告は、今回を最後にしようと思う。

 

永劫回帰を覚悟する

 

今年は、自分が把握しているだけで26名の認知症患者さんが亡くなられた。

 

過去に当ブログで取り上げた方も数名いるので、想い出として再掲する。

 

認知症外来145人目の患者Mさんは、フェルガード100Mとココナッツオイル併用で抜群の回復を見せてくれた後、徐々にアルツハイマー的になっていった。

 

一貫して陽性症状を発揮することはなく、夫と娘さんに支えられ自宅で穏やかに過ごし、肺炎で入院した後に短期間で旅だった。その2ヶ月後、張り合いがなくなったのか、夫は自ら施設に入所した。

 

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217人目の患者Mさんは、真面目で勉強熱心な息子さんの絶妙な家庭天秤による薬剤調整で、何度もピンチを凌いできた。ギリギリまで在宅を維持し、短期間の入院の後に旅だった。

 

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311人目の患者Tさんは、グルタチオン点滴が著効したレビー小体型認知症の方。点滴には4年ほど通われただろうか。

 

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家庭の事情で施設に入所となり、そのタイミングで主治医変更となった。ご家族から今年訃報を伺ったが、静かな最期だったと聞く。なお、常にTさんの来院に付き添っていたお嫁さんを今、自分はフォローして6年になる。

 

出会って、フォローして、別れる。そしてまた、出会う。

 

永劫回帰を覚悟して、倦まず弛まず、今診ている人と次に出会う人のために精進を続ける。

 

*1:2013年厚生労働省研究班報告