鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

進行性核上性麻痺(PSP)+特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療報告。

 純粋な特発性正常圧水頭症(iNPH)よりも、iNPH+レビー小体型認知症などの合併症例を治療する数が増えている。

 

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今回は、PSP+iNPHの治療経過を報告する。

80歳男性 PSP+iNPH

 

(既往歴)

左前腕骨折の既往有り、左上肢の動きは悪い
交通事故で左膝損傷 外傷性くも膜下出血
糖尿病

(現病歴)

数年前のバイク事故以降、徐々に活気低下と認知面低下ありと。歩行はすり足、頻尿あり、たまに失禁。

 

(診察所見)

HDS-R:13.5
遅延再生:5
立方体模写:不可
時計描画:OK
クリクトン尺度:35
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:2
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:-
頭部CT左右差:微妙
介護保険:
胃切除:なし
歩行障害:あり
排尿障害:あり
易怒性:なし

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:NPH

 

incompleteだがDESH(正常圧水頭症の画像所見)を疑う。タップテスト入院の予定を組む。多幸的。PSPの可能性は?

 

タップテスト後

 


眼球運動は明らかに上下で弱い。後方に転倒あり。

 

PSP+NPH。外傷性SAHの既往があるため、水頭症は続発性の可能性はあるかもしれない。

 

タップテスト後は明らかに活気が上がり、かわいらしくなったと奥さん談。しかし歩行に関してはあまり変化はないと。

 

ご本人ご家族のご希望があり、LPシャントの予定を組む。

 

LPシャント術後1ヶ月目評価

 

3m歩行テスト)21.92秒(31.61)

BBT)39/56(29)
MMSE)19/30(22)
TMT-A)3:38(4:51)
FAB)7/18(9)
FIM)93(73)

 

()内が手術前の評価。術後は総合的に向上している。

 

頭部CTでわずかだが慢性硬膜下血腫を認める。ただし無症候性。五苓散とアドナを処方。慢性硬膜下血腫が症候性に転じたら青木式で血腫除去を。

 

その1ヶ月後

 

左下肢は跛行気味だが、歩行できている。
術前は車椅子であった。家族も本人も喜んでいる。

 

頭部CTでわずかだが慢性硬膜下血腫は縮小傾向かな?

アドナは終了にして五苓散は残す。

 

(引用終了)

 

進行性核上性麻痺(PSP)と特発性正常圧水頭症(iNPH)合併例の画像所見

 

初診時の頭部CT画像が以下。

 

脳溝の不均等拡大の頭部CT画像

 

iNPHの画像所見で重要な「頭頂脳溝描出不良」は認めず、支持的特徴の一つである「脳溝不均等拡大」を認めるのみである。脳室拡大も有意なものではない。そして左側頭葉は右と比べやや萎縮に左右差を認める。

 

この画像所見だけで

 

  水頭症ですね!

 

と説明するのは難しいと思う。

 

重要なのはやはり症状である。この方の場合、物忘れにすり足歩行、たまに失禁と、いわゆる「正常圧水頭症の三徴候」を備えていたため、画像的な特徴がわずかでも正常圧水頭症を疑ってタップテスト入院を勧めたわけである。

 

入院後に撮ったMRI矢状断画像が以下。

 

ハミングバードサイン陽性のMRI画像

 

進行性核上性麻痺(PSP)の特徴的画像所見と言われる「ハミングバードサイン」が陽性であると見た。

 

勿論この画像所見も、上下方向の眼球運動障害や多幸的、姿勢反射障害といったPSPの臨床症状を伴わなければ、あまり意義のないものではある。

 

進行性核上性麻痺(PSP)の画像所見について。 - 鹿児島認知症ブログ

 

歩行障害を見たら、ひとまずiNPHの可能性は考えよう

 

頭部画像だけ見ていると、

 

  • 頭頂脳溝描出はなく、側脳室拡大もない。わずかに脳溝不均等拡大があるけど水頭症とは言えない?
  • 脳萎縮に少し左右差があるので、前頭側頭葉変性症の可能性があるのかな?
  • ハミングバードサインは陽性っぽいけど、じゃあ萎縮の左右差はどう考えたらいいの?

 

このように混沌となってしまうので、画像所見はあくまでも参考程度に留めたい。

 

変性疾患と水頭症の合併が疑われる症例で歩行障害を認めた場合、どちらの疾患の影響が大きいのかを初診時に判断するのは難しい。

 

そこでお勧めしたいのがタップテスト(髄液排除試験)である。タップテストで何らかの改善があれば、それだけ水頭症の要素を持っていると考えてよい。

 

  タップテスト後は明らかに活気が上がり、かわいらしくなったと奥さん談。しかし歩行に関してはあまり変化はないと。

 

この方のタップテストの結果は上記の様に微妙(当方からすると)なものであったが、奥さんは明らかな変化を確信している口調であったので、LPシャント手術に踏み切った。

 

結果、殆ど全ての評価項目において、術前と比較して改善を認めることとなった。

 

そして、今現在残っている「後方支持性の低下、多幸的、軽度すくみ足」といった症状こそ、PSPの症状なのである。今後はこれらの症状に対して、グルタチオンなどを絡めてアプローチしていくことになる。

 

ちなみに、頭部画像では水頭症の特徴をまるで持たないけれども、臨床症状から疑ってタップテストをしてみたら、水頭症だったという方はザラにいる。やはり重要なのは「実際の症状」である。 

 

正常圧水頭症に対するLPシャント術の手術適応はどのように決めているのか?そして、変性性認知症が合併している場合には? - 鹿児島認知症ブログ