コウノメソッドによるDLB治療において最も優先順位が高いのが、まずは低活動性せん妄や傾眠などの「意識障害」を取り除くことである。これが上手くいかないと、何も先に進まないのである。
今回紹介するのは、レビー小体型認知症に特発性正常圧水頭症を合併していた方である。
当初は水頭症に対してTAPテスト(髄液排出試験)を行って効果が見られたのだが、その後急激に傾眠傾向、活気低下を来してきた。
そして誤嚥性肺炎を合併して近医に入院。「今後経口摂取は困難だろう」ということで、胃瘻(胃に直接栄養チューブを繋ぐ手術)の話が出ていた。
そこに「ちょっと待った!」と介入した、そんな素敵なお話(ちょっと盛りました・・)。
79歳男性 レビー小体型認知症+特発性正常圧水頭症
(記録より引用開始)
特発性正常圧水頭症、レビー小体型認知症の共存で当院でもフォロー中。今回入院の2ヶ月ほど前に、特発性正常圧水頭症に対してタップテストを施行している。
髄液排除後は精神症状は軽減し急に走り出したり怒ったりすることはなくなったとのこと。
画像上はcomplete DESH type(典型的な特発性正常圧水頭症の所見)で60歳以上、歩行障害あり、頭蓋内圧は正常と条件は揃っており、水頭症手術で歩行を含め大きな改善が得られる可能性が高いと判断。
しかしその後傾眠傾向が出現した。
覚醒時に小量ずつ食事を摂ってもらうようにしていたが、誤嚥性肺炎を合併し近医で入院加療を受けた。
以降ほぼ日中は傾眠状態で、経口食事摂取が進まず、PEG(胃瘻)の話もでてきた。
PEGに移行しなくてもすむような工夫がないか、当院外来紹介再診。
外来診察時
- 臥床傾眠、疎通は不可
- 両側上肢にわずかにrigid
- クリクトン尺度42
- HDS-R施行不可
- レビースコア13点
- ピックスコア問診項目では0点
ひとまずニコリンでの賦活を始める。来週入院で薬剤調整を図る。
入院
現在リバスタッチ4.5mgとプレタール100mg、タナトリル2.5mgとこちらの指示通りの処方が始まっている。当院入院までの約1週間、連日でニコリン1000mg/dayを点滴して頂いた。
呼びかけでスムーズに開眼する。ニコリン賦活の効果は期待できそうだ。
ニコリン1000mg+グルタチオン400mgの急速点滴と、サアミオンなどによる賦活を図る。家族にはフェルガードLAも勧めた。
入院3日後
3日連続のニコリン1000mg+グルタチオン400mgの点滴。
「名前は〇〇〇です」、「痛い、馬鹿野郎」などの発言あり。返答スピード含めて覚醒レベルは確実に上昇している。
入院1週間後
ニコリンとグルタチオン継続。
訪室時に顔を向け、笑顔で発語あり。もう少し。リハ室でのリハも。
入院9日後
本日からフェルガードLA開始。
入院2週間後
リハビリで風船返し及び歩行訓練で10m歩行まで進んできた。
隣のベッドで食事介助をしている看護師さんに、「僕も食べたい・・」と訴えあり。
入院3週間後
イクセロンパッチは9mgまで増量し維持。その他、サアミオン5mgx2とフェルガードLAx2、プレタール50mgx2、ドプス100mg。経口摂取訓練で昼食8割摂取。一旦ニコリンとグルタチオン終了。
(引用終了)
ほぼ寝たきりだった方が、2週間ほどでここまで到達できた。
そして水頭症の治療に臨む
術前説明には、本人も車いすで同席。
話の最中には寝ているようにも見えたが、「手術頑張りましょうか?」の問いかけに、「よろしくお願いします」と答えてくれた。
ここまでに当院で投与した点滴量は
ニコリン1000mgx21=21000mg
グルタチオン400mgx21=8400mg
これで何とか水頭症のLPシャント手術まで持ち込むことが出来た。
ここに繋げたかったので、胃瘻はちょっと待ってもらったのである。胃瘻を先行させると、その手術の際に腹部に炎症が起きるため、わずかではあるが水頭症手術のリスクになり得るのである。
手術は滞りなく終了し、その結果覚醒レベルも向上し、リハビリにも弾みが付いた。また少しずつ経口摂取訓練も進み出した状態で、リハビリ転院された。何とか経口摂取確立まで進んで頂きたいものだ。
最後に、転院前の歩行状態のビデオを供覧し、今回は終了とする。
(補足)DESHとは?
Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus
の略。「くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症」のこと。
画像上DESHを呈している方の場合、シャント手術で症状改善が大いに期待できる。以下を参考に。
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難病情報センターより引用 |