鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

進行性核上性麻痺(PSP)の画像所見について。

 進行性核上性麻痺(PSP)とは、

 

  • 垂直方向の眼球運動障害
  • 姿勢障害による易転倒性
  • 頚部体幹優位の固縮や寡動などのパーキンソン症状
  • 認知機能低下


などを主症状とする、進行性の神経変性疾患である。詳しくは、前回記事をご参考に。 

 

 

今回は、PSPの頭部画像所見を紹介する。

 

まずは有名な、humming bird signから。

humming bird sign(ハミングバード・サイン)

 

以下の画像で赤丸で囲んだ箇所に注目。humming bird(ハチドリ)の様に見えるということで、通称「humming bird sign」と呼ばれる画像所見である。

 

ハミングバードサイン humming birs sign

 

 

解剖学的には、humming bird signは中脳被蓋の萎縮を反映している。中脳被蓋が萎縮すると、PSPの臨床的特徴の一つである眼球運動障害が起きる。

 

中脳被蓋の萎縮を皇帝ペンギンに見立てた、penguin silhouette signという呼び方もある。

 

皇帝ペンギンサイン

 

脳幹の中脳〜橋にかけてのshapeを皇帝ペンギンの大きな身体(橋)と小さな頭(中脳被蓋)に見立てているのだが、個人的にはhumming bird signの方がしっくりとくる。



正確にhumming birdとするために、中脳被蓋の面積を測定する

 

ところで、「中脳被蓋がハチドリのように見える」といっても、それは観る人次第になる可能性がある。

 

なので、頭部画像を観て「humming bird signかな?」と感じたら、中脳被蓋の面積を測定するようにしている。

 

 PSP 中脳被蓋の面積測定



上図はハチドリの写真と比較したPSP患者さんの中脳被蓋の面積を測定した画像だが、57.4mm2という結果であった。

 

年齢をマッチさせた正常群では平均100~120mm2と言われる中脳被蓋面積が、PSP群では50~70mm2と半分程度になるという報告がある。*1これを自分は参考にして、

 

矢状断での中脳被蓋面積が70mm2以下でhumming bird sign陽性

 

としている。

 

中脳水道~脚間窩の距離を測定

 

矢状断画像での中脳被蓋面積測定の誤差が気になる場合には、軸位断で中脳水道と脚間窩の距離測定も併せて行えばよいだろう。

 

PSP 中脳被蓋 測定 画像診断

 

 

測定箇所と規準は以下。

 

  • 中脳水道が映るスライスで、中脳水道と脚間窩の間の距離(≒中脳被蓋の厚み)を測定
  • 9mm以下で中脳被蓋萎縮と判定

 

上記画像は、PSP患者さんのMRIとCTをだいたい同じレベルのスライスで比較したものだが、いずれも中脳水道ー脚間窩の距離はおよそ7.6mmであった。

 

ちなみに、CT矢状断画像で中脳水道ー脚間窩の距離を測定した画像は以下。

 

PSP 中脳水道ー脚間窩の距離



7.88mmという結果で、軸位断で測定した距離とほぼ近似している。

 

これは結構使える規準なのだが、残念ながら出典は失念した。 

 

☆番外編 morning glory sign

 

morning gloryとは、「朝顔」のことである。中脳被蓋の萎縮を朝顔の花に見立て、そのように呼ぶ。

 

morning glory sign PSP

Magnetic Resonance in Medical Sciences, Vol. 3, No. 3, p. 125–132, 2004



中脳水道下端レベルの中脳の端と、大脳脚と中脳被蓋の境目を示す窪みを結ぶ。その線の内側に中脳被蓋が収まっていれば「萎縮あり」と考える。

 

以前、数名のPSPの方の画像でmorning glory signに該当するか検証してみたことがあるのだが、上手くいかなかったので自分は参考にはしていない。

 

morning glory sign PSP 朝顔

*1:New and reliable MRI diagnosis for progressive supranuclear palsy | Neurology