鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】オムツをむしり続ける施設入所中の90代女性。

カルテからの抜粋(改変あり)による一例報告で、当方がどのように考え治療を行っているかの一端を紹介する。

 

薬が一気に状況を好転させることは時に経験するが、それはあくまでも適切な介護が前提にあっての話である。施設管理者は特に、このことに留意してほしい。

 

以下のリンクは参考になるかもしれない。

 

自分にとって理解困難な対象を、病気認定して済ませてしまおうとしていませんか? - 鹿児島認知症ブログ

【妄想的小考】ニンチガー症候群とは? - 鹿児島認知症ブログ

 

今回のポイントは以下。

 

  1. オムツむしりを、何らかの不安に対する対処行動(coping)と考えられるかどうか
  2. その次に、何がその人を不安にさせているのだろうと考えられるかどうか
  3. 更に、「自分の介護に不手際があるのでは?」と顧みることが出来るかどうか

 

90代女性 病型診断困難

 

初診時

 

「オムツむしり」というピンポイントのお困りごと相談。

 

2ヶ月前から。診察中は一度も喋らなかったが、娘さんとは電話で普通にやり取りするのだと。要介護5で長車いすの方。

 

以下、かかりつけ医からの紹介状。

 

平素より大変お世話になっております。当院関連施設に入所中のアルツハイマー型認知症の方です。

2ヶ月前から夜間不眠があり独語やオムツいじりがみられております。

 

ベルソムラ15mgとルネスタ1mgで経過をみておりましたが服用効果が見られず、ルネスタ1mgを中止してクエチアピン25mgへ変更しました。

 

その後も夜間不眠が続き、ベッド柵を乗り越えようとしたりオムツを引きちぎる行為が見られています。一時クエチアピンを50mgへ増量しましたが状態は変わらず現在中止しております。また、ベルソムラからデエビゴ2.5mgへ変更しておりますが、不穏状態は続いており悪化傾向です。

 

御高診の程よろしくお願い致します。

 

以下、当方の返書。

 

御紹介頂きました○○様に関する御報告です。

 

視空間認知テスト不可でしたのでHDS-Rは省略いたしましたが、礼節を保った穏やかな態度で診察に臨まれました。

 

頭部CTで認知症関心領域の有意な萎縮は認めず、その他、脳梗塞や脳出血などの器質的な変化も認めませんでした。

 

同伴スタッフと娘さんに経緯を伺ったところ、娘さんからはメマンチンで穏やかに変化したということはなく、寧ろ昂ぶった印象があったとのことでした。過去にクエチアピンが易興奮性に働き中止された経緯もあり、抗精神病薬や抗認知症薬で奇異反応が出るタイプなのかもしれません。

 

積極的にアルツハイマー型認知症を疑う要素に欠けますので、メマンチンは20mgから15mgに減量し今後漸減終了を試みます。また、イーケプラの処方経緯を伺う限り覚醒良好での不随運動に対して出されたようなので、これも不要と考え中止とさせて頂きました。

 

同様に、抑肝散もカリウム製剤補充を行いながら使用せねばならないほど効いている印象はないので中止して下さい。採血でカリウムを見ながらグルコンサンKも適宜中止をご検討下さい。なお、直近の貴院採血でNT-proBNPは252と軽微な上昇に留まっておりますので、心不全傾向に対しては利尿薬freeでもいけるのではないでしょうか。

 

不安時は声掛けで安心しやすいとのことで、朝にメイラックスを0.25mg使ってみます。夜間不随運動には、睡眠対策も兼ねてリボトリール0.5mgを使用してみます。

 

オムツいじりは不安の対処行動と考えます。診察に同伴した施設スタッフによると、特定スタッフが夜勤の際に強く認められる傾向がありそうなので、更なる観察による傾向の把握をお願いしました。

 

しばらく経過を見させて下さい。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

1週間後

 

スタッフ代理受診。


日中はかなり落ちついたようだ。これは、電話で話した家族も実感していると。メイラックス効果か。維持。


夜間は19時に入床、21時にリボトリール。効いているのかは報告書がpoorで良くわからない。3時頃からは寝ているようだと。オムツむしりについては、やはり性急なスタッフが担当する夜に頻繁に見られるとのこと。


リボトリール1.5Tに増量。メマンチンは10mgに減量。これで約2週間。

 

2週間後

 

スタッフ代理受診。


夜間の睡眠はリボトリール増量でやや良しと。ただし、日中の不穏が増えていると。
これは、言いたいことが上手く伝えられないもどかしさからのようだ。真面目で、我慢強く溜め込むお母さんだったと娘さん。


四逆散を使ってみる。他は維持。これで好変化がなければメイラックス増量。
プチプチ※でオムツむしりを置き換えられないか試して貰う。

 

※梱包材で使われるプチプチロールのこと。他者へ影響の大きい常同行動(≒何らかの不安への対処行動)を別の無害な常同行動に転化させたいとき、プチプチを与えると上手くいくことがある。

 

2週間後

 

スタッフ代理受診。


今回は落ち着かなかったと。プチプチも不発だったようだ。
これは恐らく拙い介護スタッフの影響大だが、娘さんには伝えていないと。施設としても体裁が悪いだろう。気持ちはわかります。


ユニット移動がいいでしょう。


四逆散を帰脾湯に変更。不安が強いと。メマンチンは5mgに減量。娘さんは向精神薬に抵抗が強い。

 

1週間後

 

家族代理受診。


大きな変わりはないようだ。
コロナ渦ではあるが、週1で家族面会可能なように施設に計らって貰う。家族に会えない不安は不穏の大きな要因となっているだろうから。


メマンチン終了。コントミン25mg開始。かつてクエチアピン50mgに反応無しだった方。
これで変化がなければリボトリールを他の眠剤に変更かな。レボトミンは検討かな。


帰脾湯は今回は残す。明日からユニット移動。

 

1週間後

 

スタッフ代理受診。


ユニット変更により、明らかに落ち着きが出てきたようだ。申し送り表の質が格段に上がっている。そのユニットに勤める介護士達は、看護師目線で見てかなりデキる人たちだと。


下肢不随運動再燃。イーケプラを500mgだけ夕方に戻す。元々は朝500mg-夕1000mgで飲んでいた。ちなみに、夕食前の用法も試してみるよう伝えた。夕方症候群はまだあるので。

 

これで落ち着かなければRLS(ムズムズ足症候群)の可能性を考える。


頓用でデパケン100mg。次回は2週間後。
次回まで安定していたら帰脾湯を外すかな。


(追記)


施設よりFAX。

 

前回処方日の夜は良眠。翌日は起床後から興奮して暴れた。この時、右側ばかりを向いていたと。その後デパケンシロップ服用しやや落ち着き昼食を摂るも、その後症状再燃。どうしたらよいかと。


デパケンは3時間間隔での使用可とした。恐らくてんかん発作。

 

2週間後

 

本人受診。


FAXでのやりとり以降、てんかん発作的症状は落ちついている。夜間も良眠。ただし日中覚醒は不良で構音障害ありと。右上肢引き寄せ肢位とのことだが、橈骨神経麻痺では?頭部CTは新鮮な所見なく一旦様子見。


調整可能なようにイーケプラは分割。覚醒に影響あるかもしれずコントミンは減量する。帰脾湯は終了。


これでも傾眠なら次回はメイラックスを減量する。

 

2週間後

 

スタッフ代理受診。

 

かなり落ちついたとのこと。てんかん的発作も出ていないと。

これで一旦、かかりつけ医にバトンタッチとしましょう。何かあれば連絡下さい。

 

以下、かかりつけ医への情報提供。

 

御紹介頂きました○○様に関する御報告です。


下記処方で最終的に落ちついたようです。
一時イーケプラは中止したのですが、経過中に右側だけ向いて興奮していたというエピソードでてんかんを疑い再開としてからは、同様の発作は出ていないようです。


頻回のオムツむしりも消失しています。これは、抜毛症などと同じでストレスに対する対処行動だったのだと思います。そのストレス源が恐らく施設の特定スタッフであろうと推測されたのでユニット変更をして頂いたところ、結果的にはこれが効を奏した形で丸く収まった印象です。


今後のご加療継続を宜しくお願いいたします。
なお、コントミンは期を見て中止で大丈夫だと思います。
ご紹介ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

(最終処方)

 

  • メイラックス(1)0.5T1XM
  • イーケプラ(250)1T1XA
  • コントミン(12.5)1T1XA

 

7ヶ月後に再診(ユニット移動はなし)

 

施設スタッフより電話。


最近傾眠傾向。薬を少し調整したら不安感が強くなってきたり、またオムツむしりも見られたりと調整がうまくいかない。家族と受診したいとのご連絡。(受付○○記載)

 

今回は紹介状なし。施設スタッフ判断での受診。

 

先月ぐらいからまた粗暴になってきたと。

 

介助者に対する暴言暴力が耐えがたいのだと。他利用者への影響はなく、夜間の叫びなど時にあっても大きな問題とはなっていないと。

 

今さらイーケプラやコントミンの奇異反応ということはあり得る?荒れ狂っているときは、何かに反応しているわけではなく自分の中の何かに怒っているようだと。

 

現在のかかりつけ医処方のコントミンは中止して、朝にオランザピン1.25mgを入れる。

 

2週間後

 

スタッフ代理受診。

 

この4~5日は凄く表情が良いと。
表情の良さというのは、オランザピン効果のように思える。

 

介護スタッフも、「まあ、オムツいじりはあるけれど、まあ前と比べれば大丈夫になってきました」と言っているとのこと。スタッフ間に余裕が生まれつつあるようだ。

 

眠りSCANではしかっり寝ているようなので、これも好変化を生む一因となっているのかも。

 

維持。

 

見守り支援システム「眠りSCAN(スキャン)」の導入|社会福祉法人 芹田福祉サービス

 

3週間後

 

スタッフ代理受診。

 

落ちついているようだ。「お困り事ゼロを目指しているわけではない」と。この認識は大切。

 

時にHR30台とのこと。かかりつけ医処方のビソプロロールは中止がいいと思いますよ。

 

4週間後

 

スタッフ代理受診。

 

ほぼ完璧に落ちついている。報告看護師も笑顔。ビソプロロール中止で心拍は60台で安定しているようだ。


怒りの最大値が減ったことで、スタッフに対応を工夫する余裕が生まれたのでしょうね。

これでかかりつけ医にバトンタッチしましょう。いずれはオランザピンは中止でいいと思います。

 

(最終処方)

  • オランザピン(2.5)0.5T1XM
  • リボトリール(0.5)1.5T1X眠前
  • デエビゴ(2.5)1T1X眠前
  • イーケプラ(250)2T1XA

 

オムツむしり

Photo by Ignacio Campo on Unsplash