鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

LPシャント術後に頭痛とめまいが出現。行った対策について。

 脳脊髄液の流れを変えるシャント手術を行うと、術後に頭痛やめまいが出ることがある。

 

今回は、実際の症例及び行った対策についてご紹介。

80代男性 特発性正常圧水頭症(iNPH)

 

初診時

 

数ヶ月前から、家の中で迷うことがたまにあると。 穏やかな紳士。すり足歩行。

 

(診察所見)

HDS-R:17

遅延再生:3

立方体模写:OK

時計描画:OK

クリクトン尺度:15

保続:なし

取り繕い:なし

病識:あり

迷子:なし

レビースコア:-

rigid:なし

幻視:なし

ピックスコア:-

頭部CT左右差:なし

介護保険:要支援1

胃切除:なし

歩行障害:すり足

排尿障害:頻尿 ウリトスで少しいいと

易怒性:なし

(診断) ATD: DLB: FTLD: MCI: その他:iNPH

 

 

頭部CT画像ではnon-DESHだが、症状は典型的なiNPH(特発性正常圧水頭症)かな。タップテスト(髄液排除試験)を勧めた。

 

タップテスト後の外来にて

 

  • 3日間は凄く良かった
  • 明るくなった
  • 歩行も良かった

 

タップ効果は約3日間か。ご希望あり、手術日程を調整する。

 

LPシャント術後1ヶ月評価

 

手術は滞りなく終了するも、経過中に頭痛とめまいが出現(後述)。外来受診時には症状は消失していた。

 

  • 3m往復歩行) 10.45秒(18.07)
  • 起きあがり動作) 2.87秒(4.5)
  • BBT )46/56(45/56)
  • MMSE )19/30(21/30)
  • TMT-A 2:03(1:52)
  • FAB 7/18(7/18)
  • FIM 114

 

これまでの夜間頻尿(4〜5回)が1回に減った
初詣でズンズン歩いて家族より先を行くので娘さんはビックリした。
運動面、排泄面でLPシャント著効を確認。

次回は3月で術後3ヶ月評価を。

 

(引用終了)

 

術後に頭痛とめまいあり(低髄圧症状)

 

髄液排除後に頭痛が出ることは、稀ならずある。

 

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タップテストであれば、抜いた分の髄液はまた溜まってくるので、頭痛が起きてもそれは一過性で程なく改善する。しかし、シャント手術後の頭痛は一過性では済まない。何故なら、手術により恒久的に髄液の流れが変化しているから。

 

この方は、術後3日目頃から頭痛とめまいを訴えた。特に、頭を起こしていると増悪する頭痛であったので、シャント手術の影響と容易に判断出来た(髄液がお腹の方向に流れる、つまり脳が下に引っ張られるので頭痛がする)。

 

これを、低髄圧症状と呼ぶ。

 

術後1週間目の頭部CT

 

わずかだが、硬膜下腔(硬膜と脳の隙間)にスペースが形成されていた。

 

LPシャント術後の慢性硬膜下血腫

 

わずかにCT吸収値も高く、少量の慢性硬膜下血腫が貯留していると考えた。

 

まずはシャント圧を上げること

 

髄液の抜けすぎが疑われるこの状況でまず行うべき事は、シャント圧を上げることである。

 

この方は初回設定が17cm圧(Codmanのシャントデバイス)であったが、20cm圧(200mmHg)に上げた。圧を上げることで、髄液を流れにくくさせることが出来る*1

 

次は薬物療法。五苓散とアドナを用いることが多い。

 

その後に追加するのは薬物療法だが、殆どのケースで自分は五苓散を用いている。

 

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五苓散以外では、アドナ(止血目的でよく使われる薬)を用いることもある。この方には五苓散とアドナ併用で1週間、その後五苓散のみで1ヶ月経過を見たところ、

 

慢性硬膜下血腫を五苓散とアドナで治療

 

このように硬膜下スペースは消失し、五苓散はめでたく卒業となった。勿論頭痛やめまいの症状も消失した。

 

下記記事もご参考までに貼っておく。

 

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画像所見だけで正常圧水頭症と診断するのは難しい例。重要なのは主要三徴候。

 

この方の初診時の頭部CTが以下。

 

非典型的な画像所見の正常圧水頭症

 

正常圧水頭症において有力な画像所見となる「DESH」だが、この方はnon-DESH。DESHについては下記記事をご参考に。

 

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画像だけでこの方を正常圧水頭症と診断して治療にもっていくのは難しいと思う。臨床症状として

 

  • 認知面と活気低下
  • すり足歩行
  • 頻尿

 

この三徴があったからこそ正常圧水頭症を疑い、髄液排除試験を行って陽性であったからシャント手術を行ったのである。

 

自分で長谷川式テストを行うと、認知面や活気の低下はダイレクトに伝わってくるし、診察室に入室してくる歩行の様子から、すり足歩行なのかどうかも判断出来る。トイレの状況も問診で聞き出せる。

 

看護師さんが行った長谷川式テストの結果を受け取って一瞥し、頭部CTやMRI画像の結果を重要視した場合、この方が正常圧水頭症であることを見逃されてしまう可能性は高いと思う。電子カルテの入力作業に没頭しすぎるとそのようなことが起きうるので注意している*2

 

最後に、画像で1枚だけヒントになり得る所見があったので供覧。微妙だが、重要所見である。

 

脳溝の不均等拡大

 

*1:当然、圧を下げると髄液はより流れやすくなる

*2:入力作業を後回しにすると、一人当たりの診察時間が結果的に長くなるというジレンマに苦しむが