認知症領域では、いわゆる「treatable dementia(治療可能な認知症)」と呼ばれる慢性硬膜下血腫。
脳神経外科医にとっては、認知症疾患というよりも日常的に遭遇するcommon disease(一般的な病気)である。
慢性硬膜下血腫の手術方法は?
当方は2種類のやり方を用いて行っている。いずれも局所麻酔(切開、または穿刺部位に局所麻酔薬を注射。鎮痛鎮静剤の点滴を併用することが多い)。
穿頭血腫洗浄術
最もオーソドックスな手術法。
上図の様に、こめかみのやや後ろに4〜5cmの皮膚切開を行い、頭蓋骨に親指の爪ぐらいの大きさの穴を開ける。
術前術後のCT画像が以下。
血腫腔(古い血液成分と水成分が混在した袋)が、上図の右のCT画像のように一様ではない、つまり幾つかの部屋に分かれている場合は、穿頭術を行っている。
経皮的硬膜下穿刺法(青木式)
青木伸彦先生が考案されたtwist drillを用いて行う方法。
詳細な手術方法については、こちらのリンクから。(※手術の写真があります。念のため。)
術前術後のCT画像は以下。
青木式の手術については、以前当ブログでも少し触れたことがある。
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通常の穿頭術と比べて、
- 皮膚切開が不要
- ドレーン留置が不要
- 早期退院可能(早ければ手術翌日)
このような利点を持つ。
認知症を持つ高齢者が慢性硬膜下血腫を起こして入院してきた場合、自分はこの「青木式」の方法をファーストチョイスにして手術をしている。何故なら、
- 穿頭術では一晩のドレーン留置が必要なため、認知症高齢者は通常、ドレーンを自己抜去しないように抑制が必要となってしまう
- 穿頭術では通常抜糸までは入院していることが多く、そうなると約1週間の入院生活という環境の変化で、認知症症状が悪化することがある
穿頭術ではこのようなデメリットがあるからである。
たった一晩の抑制、たった1週間の入院でも、認知症高齢者にとっては大変な事態なのである。回避できる事態なら回避するに越したことはない。
慢性硬膜下血腫の、手術以外の治療方法は?
血腫量が少量かつ無症候性(症状がない)であれば、自分は五苓散の処方を行っている。
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その他、アドナ(止血薬)やトランサミン(抗プラスミン剤)を使うこともあるし、五苓散で埒があかない場合には柴苓湯を試すこともある。
高齢者は脳が萎縮しているため、ちょっとした頭部打撲でも慢性硬膜下血腫を来しやすい。なので、慢性硬膜下血腫は通常、高齢者の病気と言える。
ただし、若年者でもたまに遭遇することがある。自験例で最も若かったのは16歳の患者で、相撲部の男子高校生であった。日頃のぶつかり稽古が原因だったのだろう。
その他、乳幼児や高齢者の水頭症に対するシャント術後で、髄液の流れが良くなりすぎた場合にも慢性硬膜下血腫を来すことがある。
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