高齢者の頭部打撲後には注意
高齢になるにつれて脳は萎縮してくる。その結果、ちょっとした頭部打撲でも脳と硬膜(脳を保護している硬い膜)との間に、古い血液成分と水成分が混ざり合った血腫が溜まってきて、脳を圧迫することにより、頭痛や麻痺症状、認知症様の症状を呈することがある。それが慢性硬膜下血腫。
ただし、抗血小板剤や抗凝固剤などの血液が固まりにくくなる薬を内服中の場合には、ハッキリとした頭部打撲が無くても溜まってくるケースもある。
頭部打撲後1ヶ月程度で症状を呈してくることが多いので、高齢者が頭をぶつけたら、その1ヶ月ぐらいは「ふらついていないか、頭を痛がっていないか」など注意しておく必要がある。
ちなみに、高齢者だけの病気と言うわけではなく、若年者にも起きうる。
自験例では、16歳が最低年齢である(空手部と相撲部の男子高校生。慢性的に頭部を打撲していた)。
漢方による慢性硬膜下血腫の治療
頭痛をきっかけに受診した92歳男性。
念のために撮影した頭部CTで、ごく少量の右慢性硬膜下血腫を認めた。
独居でお元気な方。歩行障害や尿失禁、認知症症状などは認めない。特に頭をぶつけた記憶はないけど・・とのことだった。
この程度の量であれば、血腫が頭痛の原因になっている可能性は低い。
しかし硬膜下にスペースはあるため、今後拡大してくると症候性となってくる可能性はある。
こういった場合に有用なのが五苓散。
むくみをとったり頭痛の治療に使ったり、慢性硬膜下血腫の排液目的で使ったりなど用途は幅広く、慢性硬膜下血腫の術後再発予防にも使用している。
今回のケースでは、約4ヶ月間の五苓散使用で、ほぼ血腫消退に至った。無症候性だが相当量の血腫が溜まっているケースにも使える。
五苓散で血腫消退が出来ないケースには、五苓散に小柴胡湯を加えた方剤である「柴苓湯」を用いている。
今回はこれで終了。