MCIや軽度アルツハイマー型認知症の方に初診時から積極的に抗認知症薬を処方することは滅多にない。
これまでの自身の臨床経験と複数の研究報告から、「抗認知症薬は取り扱い要注意の薬だ」と考えているからである。
ここでちょっとおさらい。
現在、アルツハイマー型認知症に使える保険適応の抗認知症薬は4種類ある。
- ドネペジル(アリセプト)
- リバスチグミン(リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ)
- ガランタミン(レミニール)
この3種類を、「コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)」と呼ぶ。
そして、もう1種類が「メマンチン(メマリー)」。これは、「NMDA受容体拮抗薬」と呼ばれる薬である。
今回紹介する研究は、ChEIを取り上げたものである。
軽度アルツハイマー病に対するコリンエステラーゼ阻害薬のベネフィット|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット
対象は、MCI-AD(臨床認知症評価法[CDR]:0または0.5)もしくは軽度ADdem(CDR:0.5または1)と臨床的に診断された2,242例。
〜中略〜
・ChEI使用患者の割合は、MCI-AD群944例中34%、ADdem群1,298例中72%であった。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、認知機能低下はChEI使用開始後に、より大きかった。たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、ChEI開始前の0.03ポイント/年から、開始後の0.61ポイント/年に変化した(p<0.0001)。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、ChEI使用患者では、非使用患者よりも早く認知機能低下が認められた。たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、ChEI使用患者で0.61ポイント/年、非使用患者で0.24ポイント/年であった(p<0.0001)。
(上記リンクより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
MCIと軽度アルツハイマー、共にChEI使用後に認知機能低下が大きくなり、更に、ChEIを使わなかった患者よりも早く認知機能低下を認めたとのこと。
更に、
著者らは「本研究は、ChEI使用がMCI-ADおよび軽度ADdemの認知機能を、改善しない可能性があることを示唆している」としている。(上記リンクより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
とのこと。
「認知機能を改善しないことがある」という表現に関係各所への配慮が感じられ、いじましいというか痛ましい。
端的に表現すると、
「MCIや軽度アルツハイマーにChEIを使用したら、悪化した患者が多かった」
ということである。
「10人に処方して効いたと言えるのは1人で、著効したのは42人に1人」という薬なので、当然と言えば当然の結果だろう。
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ChEIの恩恵は、いつまで受けられるのだろうか
「ChEIは、MCIや軽度アルツハイマー患者の脳萎縮を予防するかもしれない」という研究があるが、自分の見解は以前ブログで書いた。
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「ChEIは使うな」ではなく、「所詮は疾患修飾薬ではないので、撤退時期は常に考えておいた方がいいですよ」ということを言いたい。
では、ChEIの撤退時期をどう設定すべきだろうか。
ドネペジル内服中の1万人のアルツハイマー型認知症の患者を、FASTとMMSEで評価しながら4年間追跡した試験では、
Cognitive function improved significantly at 12 weeks and at 6 months compared to baseline, maintained baseline levels at 12 months and at 18 months, and decreased significantly at 24 months compared to baseline.
という結論が導かれている。*1
「ベースラインと比較して、認知機能は12週と6ヵ月の時点で有意に改善していた。12ヶ月と18ヵ月時点ではベースラインレベルを維持していたが、24ヵ月時点では有意に低下していた。」
ということから、ChEIを使用するにあたって「2年」を一つの目安にして良いように思う。
「使用から2年以降は、メリットよりもデメリットが勝ってくるかもしれない」と考えておくことで、標準量での漫然使用に歯止めがかかるだろうし、また、「適宜の少量投与」を意識することにも繋がるだろう。
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