Carenetから。
パーキンソン病へのレボドパ製剤投与、疾患修飾効果なし/NEJM|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット
初期のパーキンソン病患者に対するレボドパ+カルビドパの併用投与について、疾患修飾効果が認められなかったことが報告された。オランダ・Amsterdam NeuroscienceのConstant V. M. Verschuur氏らが、445例の患者を対象に行った多施設共同プラセボ対照二重盲検試験の結果を、NEJM誌2019年1月24日号で発表した。レボドパは、パーキンソン病症状に対する主要な治療薬となっているが、レボドパにも疾患修飾効果があるのかを明らかにすることで、疾患経過のどの時点でこの薬剤による治療を開始すべきか指針を得られる可能性があるとして、今回の検討が行われた。(上記リンクより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
疾患修飾効果とは「病態に影響を及ぼす効果」のことで、簡単に言うと、
【疾患の再発を抑制したり進行を遅らせたりする効果】
のことである。
パーキンソン病とは、中脳黒質のドパミン神経細胞が変性することで「振戦・固縮・動作緩慢・姿勢反射障害」という症状が起きる病気(変性疾患)である。
つまり、パーキンソン病の「病態」とは「中脳黒質のドパミン神経細胞が変性すること」であり、従って、パーキンソン病治療薬を使用することで中脳黒質のドパミン神経細胞の変性が止まったり、もしくは再生されたりすることがあって初めて、その治療薬で疾患修飾効果が得られた、ということになる。
レボドパ・カルビドパ製剤に疾患修飾効果がないことは、パーキンソン病に関わる医師にとってはこれまでも常識だったとは思うが、それが今回の研究で改めて裏付けられた結果となった。
ちなみに、抗認知症薬にも疾患修飾効果はない。
抗認知症薬の添付文書には「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」という文言があるが、同時に、
【本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない。】
という文言も添えてある。
www.ninchi-shou.com
効くまで薬を増やすのか、それとも一旦退いて立て直すのか
研究グループは、初期パーキンソン病患者を無作為に2群に分け、一方にはレボドパ(100mg、1日3回)とカルビドパ(25mg、1日3回)を80週間併用投与し(早期開始群)、もう一方の群にはプラセボを40週間投与後、レボドパとカルビドパを40週間併用投与した(遅延開始群)。
~中略~
44~80週の両群の進行程度はそれぞれ0.10(標準偏差:0.25)と0.03(同:0.28)と、群間差は0.07(両側90%CI:0.03~0.10)点で、治療早期開始の遅延開始に対する非劣性は示されなかった。
なお、ジスキネジアや、レボドパ関連の運動症状変動の発生率には、両群で有意差は認められなかった。(上記リンクより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
赤文字強調部分を要約すると、
- レボドパ・カルビドパ製剤による治療が早かろうが遅かろうが、80週後の状態に有意な違いはない。
- レボドパ300mg/dayであれば、40週でも80週でも薬の副作用に違いはない。
となる。
レボドパ300mgというのは現実的な量だとは思うが、内服開始から80週を超えてもなお単剤300mgのままで継続されるとは限らず、むしろ増量や他剤併用になっていく方が多い。
単剤増量、もしくは他剤を併用すれば、当然だがその分だけ副作用の発現率は高くなる。
少量で効果が持続してくれたら良いのだが、L-dopaを300mg、400mgと増やしても効果の実感が得られないことは少なくない。
そのようなとき、自分は一旦退いて(減量ないしは中止)立て直すようにしている。「何とか結果を出さないと」と医者と患者の両者が焦ると、容易に大量多剤併用の泥沼に沈んでいくからだ。
グルタチオン点滴は、こういう時には患者さんに安心して貰う意味でも有用だと感じる。内服治療しか選択肢がなければ、多くの医師は早晩、患者さん及び自身の改善要求に負けて増薬せざるを得なくなるのではないだろうか。
www.ninchi-shou.com
DBS(脳深部刺激療法)について
ところで。
パーキンソン病には、内服治療だけではなく手術による治療法もある。
Deep Brain Stimulation(脳深部刺激療法)と呼ばれる手術で、頭文字をとって「DBS」と略する。
parkinson-dbs.jp
脳深部に電極を埋め込み、過剰に活動している神経核を電気で高頻度に刺激することで抑制する治療である。
DBSは、
- 抗パーキンソン病薬の薬効が持続しなくなるウェアリングオフ
- 身体が意思とは無関係に勝手に動いてしまうジスキネジア
- L-dopaに反応しない振戦
これらの症状に対して適応があるが、一般的には「薬物療法をとことんまで試して、それでもダメなら検討する。」ということになっている。
以前、発症から約2年で無動と振戦が主体の70代男性パーキンソン病患者さんを、DBSを行っている病院に紹介したことがある。事前に予想してはいたが、結論はやはり
まだL-dopa300mg/day程度の治療が始まったばかりのようですので、ドパミンアゴニストなどを併用頂き、それでもコントロール困難な際に改めて御紹介下さい。
とのことであった。
低侵襲ではあるが、DBSは脳手術なので一定のリスクは伴う。出血性合併症と感染性合併症が、その主なものだ。
手術に伴う出血性合併症の発症率は平均4.4%で、永続的な神経脱落症状が後遺したのは平均1.0%。感染性合併症の発症率は平均4.0%、というデータがある。*1
平均1.0%で永続的後遺症が残る可能性があるが、様々な脳手術に関わってきた脳神経外科医として、1%の合併症発症率はリスクが高すぎるということはない。
Krackらの5年にわたる追跡、Rodriguez-Orozらの多施設研究による4年の追跡、また、Fosanoらによる8年以上の経過を有する20症例の報告などからは、DBS後の長期経過の安全性と有用性が良くわかる。
また、下記のように
Neurostimulation for Parkinson's Disease with Early Motor Complications
視床下部(視床下核のことか?)刺激は、パーキンソン病および早期運動合併症の患者における薬物療法より優れていた。(上記リンクより引用。)
と、薬物療法よりもDBSの方が優れていたという報告もある。
そうなると、従来の
抗パーキンソン薬の単剤高用量かつ他剤併用で行けるところまで行く。経過中に薬物療法の副作用及び、ドパミン受容体のdown regulationが起きてきたら、DBSに望みをかける
という方針よりも、
L-dopa無効例、または、少量で効いていた抗パーキンソン薬の増量が必要となった症例で、DBSを検討する
という方針の方が、特にドパミン受容体の保存という観点に立って考えた時に、予後良好が得られやすいのではないだろうか。
理想的には、手術をする立場である脳神経外科医が発病初期から関わり、自分で抗パーキンソン薬を調整し、自分で見極めたタイミングでDBSを行うのが望ましいのだろう。
しかし実際には、長年経過を診てきた脳神経内科医からの依頼でDBSは行われるのが現実である。
もし、病初期にDBSを行って所定の効果が得られなかった場合、脳神経外科医としてはバツが悪い。しかし、後期にDBSを行って効果が得られなくても、「しょうがなかったね」と言うことは可能である。皮肉な見方ではあるが、あながち外してはいないと思う。
もし、DBSが普及するのを阻む障壁があるとすれば、それは「DBSを行う脳神経外科医が、積極的にパーキンソン病に関わらないこと」なのかもしれない。
自分の周囲を見渡しても、パーキンソン病を積極的に診ている脳神経外科医はほぼおらず、脳神経内科医ばかりである。*2
中坂 義邦
ブックマン社 (2018-02-16)
売り上げランキング: 46,393