鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】インフルエンザ後に気力体力低下。補中益気湯で復活した90代後半の女性。

今回は、そろそろ100歳になろうとする超高齢女性を紹介する。

 

補中益気湯は、インフルエンザ罹患後の気力体力低下にしばしば著効する。また、病後の回復だけではなくインフルエンザの予防効果も期待出来る。*1

 

ちなみに、補中益気湯が奏功した人には清暑益気湯もお勧めである。

 

補中益気湯の兄弟漢方とも言える清暑益気湯は、夏バテ対策の予防的服用、熱中症が疑われる時の屯用、いずれにも使える。

90代後半女性 

 

初診時

 

娘さん、孫さんと来院。

普段は娘さんと二人暮らし。

 

(既往歴)

特記事項なし 

(現病歴)

 

この10年はお子さんや姪御さんの家を行ったり来たり。今は長女さんと暮らしている。一時期アリセプト10mgを内服していたが、今は何も飲んでいない。

 

今回の主な目的は介護保険再申請の為の主治医意見書作成。現在サービスは何も使っていない。

 

(診察所見)

HDS-R:9.5

遅延再生:0

立方体模写:可

時計描画:逆回転

IADL:2

改訂クリクトン尺度:44

Zarit:14

GDS:1

保続:なし

取り繕い:あり

病識:なし

迷子:あり

レビースコア:ー

rigid:両側で極軽度

幻視:なし

ピックスコア:ー

FTLDセット:ー

頭部CT所見:円蓋部萎縮と軽度Binswanger変化

介護保険:今回再申請

胃切除:なし

歩行障害:ゆっくり独歩可能

排尿障害:頻尿

易怒性:なし

傾眠:あり

 

(診断)

ATD:△

DLB:

FTLD:

その他:SD-NFT

 

(考察)

 

かわいらしいお婆ちゃん。年齢からすると、認知機能低下はSD-NFTと考えるべきか。一時、内服していたアリセプト10mgで易怒性が出ていたと。

 

処方の工夫をするならば頻尿対策か日中の眠気対策だろう。しかし、本人家族共にそこは望んでいないようだ。

 

何かあったらまたどうぞ。

 

初診から8ヶ月後

 

  • HDSR:15.5
  • 遅延再生:0
  • 透視立方体:拙劣
  • 時計描画:放射状に記入、不可

 

頭部CTは新規所見を認めず。

当方のことは忘れていたが、にこにこ穏やかでお元気。HDSRは前回9.5より大幅アップだが、もはや余り意味はないかな。今回は介護保険更新の為の来院。

 

以前は「私を馬鹿にして」と怒ることがあったが、今は怒ってもすぐ忘れるのでこじれない。

 

菓子パン大好きで一日4個食べる。排泄は自立しているが使用ペーパーは流せない。

 

夜間睡眠は問題なし。要介護は1。今後はサービス利用を検討している。

 

初診から2年後

 

先日、急に食事を摂らなくなり、排泄も全介助となった。

 

その2日後に37.4度の熱が出て、痰の絡む咳をし出した。熱発から2日後に〇〇医院でインフルエンザAを確認、ゾフルーザが処方された。

 

今は解熱しているが、食欲不振と活気低下、排泄全介助で食事も介助という状況は変わらないと。

 

昨年より4kg痩せた。入室時は独歩で笑顔で挨拶あり。しかし、以前お会いした時よりも茫洋としている。

 

頭部CTで新規所見は認めず。インフルエンザで気力体力を持っていかれたかな。

 

現在内服中の薬なし。補中益気湯を朝夕で2週間分処方。現在要介護2でデイは週3回。区分変更をかけようかな。手すりなど設置したいようだ。

 

  • HDSR:5.5(1)
  • 透視立方体:不可
  • 時計描画:不可

 

それから2週間後

 

補中益気湯内服開始3日目ぐらいから、目だって活気が出て以前の意欲が戻ってきた。今は食欲もあり、ほぼ以前通りに戻ったと。

 

あと1ヶ月継続して廃薬かな。次回はHDSRを。

 

夏は念のための清暑益気湯かな。

 

良かったですね。

 

(引用終了)

 

補中益気湯

冬のお守り、補中益気湯

 

*1:Prevention of 2009 pandemic influenza A/H1N1 virus infection by administration of hochuekkito, a Japanese herbal medicine.
Masanori Niimi. BMJ. 15 December, 2009