ケアネットでみかけたこの記事。
抗認知症薬の脳萎縮予防効果を確認:藤田保健衛生大|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット
果たして脳の萎縮を予防できたら、認知症予防につながるのだろうか?
論文概要
統合解析の結果、抗認知症薬はプラセボと比較して、有意に全脳容積の減少が少なく(%TBV/年のSMD=-0.21、95%CI:-0.37~-0.04、p=0.01、4試験、624例)、脳室容積の増加が少なかったが(%VV/年のSMD=-0.79、95%CI:-1.40~-0.19、p=0.01、3試験、851例)、海馬容積の変化(%HV/年)について有意差は認められなかった。
原著のAbstractはこちら。
Protection against Brain Atrophy by Anti-dementia Medication in Mild Cognitive Impairment and Alzheimer’s Disease: Meta-Analysis of Longitudinal Randomized Placebo-Controlled Trials | International Journal of Neuropsychopharmacology
7つの無作為化プラセボ対照試験をメタ解析。抗認知症薬内服群は
- 有意に全脳容積の減少が少なかった
- 脳室容積の増加が少なかった
- 海馬容積については有意差なし
という結果だったようだ。以下でちょっと考察を。
①有意に全脳容積の減少が少なかった
抗認知症薬内服で、脳全体の萎縮が弱められたと解釈できるかも。
ただし、その結果「認知症症状が改善したか」についての言及はない。
②脳室容積の増加が少なかった
脳室とは、左右対称に存在する脳脊髄液の通り道のことである。

上の画像で※印の箇所の脳が萎縮すると、相対的に脳室が拡大して大きく見えることがある。
「脳室容積の増加が少なかった」=「脳室の周囲の脳萎縮が少なかった」ということを言いたいのだろう。
ただし、その結果「認知症症状が改善したか」についての言及はない。
ちなみに、この画像は60代で認知症(アルツハイマー若しくはピック病)が疑われる方の頭部CT画像である。海馬を含め、脳の萎縮は全く認めない。
③海馬容積については有意差なし
恐らくこのメタ解析では、海馬容積の萎縮で有意差がついてほしかったと思われる。VSRADがプッシュされるのも、海馬を中心とした関連領域萎縮がアルツハイマー型認知症の診断に有用とされているから。
早期アルツハイマー型痴呆診断支援システム - Wikipedia

これは、認知症ではない86歳女性の頭部CT画像。海馬の萎縮は中等度以上ある。しかし、実際のこの方は認知症ではない。
脳萎縮だけで認知症の診断が付くわけではない
60代で脳萎縮は全く認めないアルツハイマー型認知症の方もいれば、90代で脳は萎縮してスカスカだが、認知症ではない超高齢の方もいる。
診断において最も優先されるのは
「今どのような症状があるのか?」
ということであり、「MRIで萎縮が云々」はあくまでも診断における参考所見に過ぎないのである。
無用な抗認知症薬処方に繋がりませんように
当ブログでもたびたび言及している、抗認知症薬乱用の危険性。
www.ninchi-shou.com
今回の結果を鵜呑みにして、
認知症症状はないみたいだけれど、今のうちから抗認知症薬を内服したら脳の萎縮が予防できて、認知症予防も出来るかもしれないよ?
という医者が増えませんように。
「増えませんように」と言うのは、既に実際そのような医者がいるからである。