鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】「首から下が自分の身体ではない気がする」という80代女性。

 

  1. レビー小体病の患者さんの訴えは実に多彩である。
  2. 「多彩な症状を訴える高齢患者さんはレビー小体病かもしれない」と考える。
  3. 「レビー小体病であれば薬物過敏症があるかもしれない」と考える。

 

普段からこれらのことを念頭に置いて、高齢の患者さんを診ている。そうすることによって、その患者さんを良くしてあげられるかどうかはさておき、自分が加害者になる可能性は低くなる。

 

何か善いことをしてあげたいと思っていても、時に加害者になっていることがあるのが医者という仕事の難しさである。

 

80代女性 レビー小体型認知症

 

初診

 

(現病歴)


○○内科より紹介。

 

「どこか様子がおかしいが、本人達の訴えが曖昧でよくわからない。貴院受診の希望があるのでよろしくお願いします」と紹介状には書かれていた。夫と義理妹が同伴。


約1年前に夫が肺炎で入院し、その間しばらく独居になった頃から調子を崩し、夫が退院後は本人も○○病院へ4か月入院。入退院時の詳しい説明なし。社会的入院だった?

 

入院前はコレステロールの薬ぐらいしか飲んでいなかったが、退院時には14種類の薬が出ていた


入院中に体重は40㎏→30㎏に低下し、退院後食欲や意欲の低下が続いているとのこと。

 

(問診)

介護保険: 要介護1
サービス利用:月・金デイサービス
易怒性: なし
日中傾眠: なし
迷子: なし
易転倒性: あり
頻尿・尿失禁: なし
DLB中核症状: 1/4
FTD中核症状: 2/6
薬の希望: あり
サプリの希望: あり
病名が知りたい: あり
改定クリクトン尺度: 16/56
IADL: 5
GDS: 10/15
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HDSR:22/30
遅延再生:4/6
取り繕い: なし
保続: なし
立方体: 不可
ダブルペンタゴン: 小さめ
時計描画: 10時10分不可
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(問診者自由記載欄)

 

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(診断)
ATD:
DLB:○
FTD:
その他:

 

(診察所見)

 

見るからに沈鬱な表情。パーキンソニズムあり。幻視やレム睡眠行動異常は認めないようだが、薬剤過敏はありそうでDLB(レビー小体型認知症)と考える。

 

既往歴や頭部CTを確認し、スタチンや鎮痛薬、抗めまい薬、昇圧剤等々、現状必要なさそうな薬を大幅にカット。

 

以下、紹介元への返書。

 

平素より大変お世話になっております。御紹介頂きました○○様に関する御報告です。

 

小刻み歩行及び左上肢の筋固縮、表情に現れる不安、便秘や頻尿、血圧変動などの自律神経症状、HDS-R22/30(貴院の17/30より上昇、つまり認知変動)における数字逆唱及び7 series低得点、視空間認知テストにおける小字症的描画等々から、レビー小体病の可能性を考えました。

 

頭部CTではやや左有意の脳萎縮を認めたものの、海馬その他の認知症関心領域の強い萎縮は認めませんでした。

 

首から下が自分の身体ではない気がする」という御本人の言葉が、自律神経不全症であるレビー小体病らしさを物語っていると思います。

 

たってのご希望がありましたので、しばらく処方調整を当院にてさせて下さい。落ちついた後、改めて先生にお戻しいたします。ひとまず今回は大幅な減薬を行いました。レビー小体病は薬剤過敏性が高く、入院や転医を切っ掛けに処方が増えていく過程で体調が悪化していくことが非常に多い疾患です。

 

以上ご報告申し上げます。この度は御紹介ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

2週間後

 

本人の沈鬱な表情はあまり変わらないが、周囲は好変化を感じている。

 

昔から2週間排便がないことがザラだった便秘が、毎日数回出るようになったと。麻子仁丸を朝夕から夕のみに減量。食欲が出てきたと。

 

その他、日中ボーッとしていたのが話が通じやすくなってきたとのこと。

 

「寝付きが悪くなった」と本人。前医処方で前回中止したエバミールとの相性が良かったのかな。当院処方のリスミーは1mgから2mgに増量し、トラゾドンは50mgから25mgに減量する。

 

ミルタザピン3.75mg(1/4錠)で食欲睡眠意欲対策を開始。

 

前回のトアラセット終了で疼痛増悪なし。今回でアセトアミノフェンも完全終了とする。

 

前回、ベオーバ50mgからベタニス25mgにと過活動膀胱薬は減量したが、夜間頻尿増悪の訴えはなし。

 

3週間後

 

食欲が出てきた。体重は34kgと、初診時と比較して5週間で4kg増。


麻子仁丸減量でも便秘悪化なし。鎮痛薬終了でも痛みの訴えなし。初診時に比べるとかなり調子がよいとご主人。

 

夜は眠れている。睡眠は全く問題なしと本人。夜間は多い時でトイレに2回行くが、また直ぐに眠れている。今の本人の悩みは、便通が良すぎること。

 

デイでも直ぐに行きたくなるので失敗するのではと怖いようだ。食事のボリュームが増えた事による便通改善だろう。様子をみながら麻子仁丸から潤腸湯への切り替えは考えておくかな。

 

次回まで安定していたら紹介元にバトンタッチ。義妹とご主人本当に嬉しそう。

 

4週間後で。維持。

 

4週間後

 

前回から悪化は何もなし。

今回で終診。あとは紹介元で維持。

 

良かったですね。

 

(前医処方)

 

  1. エルデカルシトール(0.75)1C1XM
  2. クロピドグレル(75)1T1XM
  3. ランソプラゾール(30)1T1XA
  4. ベオーバ(50)1T1XA
  5. 酸化マグネシウム(500)1T1XA
  6. ロスバスタチン(2.5)1T1XA
  7. トアラセット2T2XMA
  8. アメジニウム(10)2T2X朝昼食前
  9. べタヒスチン(12)3T3X
  10. リマプロスト(5)3T3X
  11. アセトアミノフェン(300)3T3X
  12. センノシド(12)2T1X眠前
  13. エバミール(1)1T1X眠前
  14. トラゾドン(25)1T1X眠前

 

(当院最終処方)

 

  1. トラゾドン(25)1T1X眠前
  2. リスミー(2)1T1X眠前
  3. ベタニス(25)1T1X眠前
  4. ミルタザピン(15)0.25T1XA
  5. 麻子仁丸1PxA

 

 

www.ninchi-shou.com

 

多剤併用

Unsplash Marek Piwnicki