鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【ちょっとした総括】今の自分の認知症診療について。

 

約2年6ヶ月経過をみてきたレビー小体型認知症の患者さんが、病状の進行に伴い通院困難となってきたため、近医にお引っ越しとなった。

 

「そろそろ通院が大変になってきて・・・申し訳ないのですが・・・」と頭を下げる娘さんに、こちらも深く頭を下げる。

 

「この方やご家族に、少しでも何かいいことが出来たか?」と自問自答するが、すぐに「それは自分が決めることではなく、相手が決めることだ」という、いつもの結論に辿り着く。

 

忸怩たる想いに駆られると同時に、自分の無力さを嗤う。正真正銘の変性疾患のすさまじさには、まだまだ歯が立たないことを痛感する。

 

初診時に撮影した写真に映るその方は、背筋を伸ばしてこちらをしっかりと見つめていた。

 

経過中に転倒による圧迫骨折があり、またパーキンソニズムの進行も重なって、今ではかなりの前傾姿勢になってしまっていた。

 

70代女性 レビー小体型認知症

 

これまで「認知症」という診断のみでアリセプトや抗うつ薬を処方されていたが、改善はなく抗うつ薬が開始になってからは更に具合が悪くなったとのことで、当方を受診となった。ほぼ1年の経過で急激に衰えてきたとのこと。

 

両側上肢には明瞭な歯車用筋固縮を認め、やや前傾姿勢で小刻み歩行。長谷川式テストは7.5/30と高度低下していた。透視立方体模写は一回目は意味が分からなかったのか混乱して描けなかったが、数分後の二回目はかなり綺麗に描写できた。ただし、画のサイズはかなり小さかった。

 

頭部CTで海馬の萎縮は中等度、側頭葉内側ではわずかに右有意の萎縮であった。その他、両側のシルビウス裂は軽度拡大。ただし、頭頂脳溝描出不良はなし。non-DESH~incomplete DESHと考えた。

 

「認知の変動」、「明らかな薬剤過敏」、「日中の過眠傾向」、「他に誘因のないパーキンソニズム」といった特徴から、レビー小体型認知症と診断。特発性正常圧水頭症合併の可能性については留保した。

 

アリセプト5mgをリバスタッチ4.5mgに切り替え、低活動性せん妄も同時に疑われたのでシチコリン500mgを静注。

 

介入から2ヶ月後、リバスタッチが9mgになった時点で「自発性の向上」や「笑顔が増えた」、「食欲が出てきた」といった良い変化が見られるようになった。

 

その後1年ほどはまずまずの状態をキープしていたが、次第に幻視やパーキンソニズム悪化、日中の過眠再燃などを認めるようになった。

 

幻視対策でセレネースを0.2mg入れるもフラツキですぐに中止。シチコリンをこまめに使用しながら恐る恐るシンメトレルを増量していったところ、75mgで日中の過眠はなくなり、久しぶりに家事を行うようになるといった良い変化が生まれた。

 

しかしその後は徐々に低下傾向となり、今回の別れとなった。

 

「do no harm」が基本方針だが・・・

 

この方の治療に用いてきた主な薬剤は以下。

 

  • ドパコール(25mg~200mg)
  • イクセロンパッチ(2.25mg~9mg)
  • シチコリン(250mg~1000mg)
  • シンメトレル(25mg~100mg)
  • セレネース(0.375mgで脱落)
  • 抑肝散(2.5g~5g)

 

フェルガード100Mは一時使用していた。グルタチオン点滴やNACの内服は最後まで行っていない。

 

自分の基本的な治療方針は、「do no harm」である。harmとは「害」のこと。自分の介入で患者さんを逆に悪くしてしまうような事態は避けたいと、常日頃から思っている。

 

しかし、我々医者が武器として用いる薬や手術は、良くも悪くも諸刃の剣である。なまくら刀ばかり使っていることに気づかなければ、あっという間に「ポリファーマシー*1」となる。切れすぎる刀を使っていることに鈍感になってしまえば、副作用を見逃すことになる。

 

harmを恐れすぎて踏み込まなかった結果、良い結果に繋がらなかった(と思われる)症例がある一方で、

 

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メリットとデメリットを案分しながら踏み込んだ結果、改善に繋がった症例もある。

 

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経験を積む中で何となく「線引き」というものが出来つつはあるが、それはまだまだ明瞭なものではない。

 

正しいと思ってやっていることが、実は患者さんにとってharmとなっていることがあるかもしれない。また、今はharmではなくても、先々harmとなってくることがあるかもしれない。

 

患者さんを鳥瞰する神の視座は何人たりとも持ち得ないことは分かっているが、せいぜい数cmの下駄にしかならないとしても、今より少しでも高い下駄を履いて患者さんの背景まで俯瞰したい。下駄は少しずつ高くしていくしかないので、日々の積み重ねが最も大事である。

 

患者さんと別れることになった時、「積極的に薬の上限を探るべきだったか?」ということは、実は結構考える。

 

例えば抗パーキンソン薬大量長期処方の弊害はつとに有名であり、特にDLBの方達に対してL-dopaを300mg/day以上を長期投与することは、自分の場合は殆どない。

 

患者さんの中にはひょっとしたら500mg、600mgで初めて反応する人達がいるかもしれないが、そこまで積極的に薬を増やしていくことには、相当慎重になっている自分がいる。

 

この「嵌まる鍵穴を捜す」作業には、三石巌の提唱する「確率的親和力」の考え方が役に立つように思う。

 

しかし、鍵穴から漏れた薬剤の分だけ副作用のリスクが増すことを考えれば、メガビタミンのように抗パ剤や抗認知症薬を増量することは現実的とは言えないし、むしろ相当に危険である。

 

こういった思考作業は堂々巡りとも言える。

 

それでも、薬のharmを恐れすぎていないかどうかは気にし続けている。改善のチャンスを逃したくはないから。

 

抗酸化療法について。

 

グルタチオン点滴療法を知ってからは、「抗酸化」ということを日常的に意識するようになった。

 

グルタチオンで歩行が改善する方は多いが、歩行が改善しなくても、硬かった表情が目に見えて穏やかになり笑顔が出る人がいる。その様子を見ながら、「変性疾患による酸化の主座が、今は皮質にあるのかな?それとも皮質下なのかな?」などと想像を巡らしている。

 

グルタチオンが全く効かない人も、多く経験してきた。そういうケースでは、酸化による疾患修飾の段階が既に過ぎ去っているのかもしれない。およそ6回ほど用量調整しながらグルタチオンを使用して、良い変化が見られない場合には中止している。

 

この方針は、NACについても同様である。

 

NACは今のところ、グルタチオンで効果が確認出来た方達に対して使うことが殆どである。少しでもグルタチオンの効果持続時間の延長が得られるようであれば、継続する。全く変化がなければ終了として、グルタチオンのみにしている。 

 

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上記記事で取り上げた福田先生のブログから、再度引用する。

 

③酸化ストレスの増大は、がんの発生や再発を促進し、がん細胞の増殖や悪性進展を促進する。したがって、細胞の抗酸化力を高めることはがん細胞の発生やがん細胞の悪性化進展の抑制につながるので、「抗酸化物質の投与や抗酸化酵素の誘導によって抗酸化力を高めることは、がんの発生や再発の予防に役に立つ」と考えられている。
④しかし一方、がん細胞はこの抗酸化力を利用して治療に抵抗性になっていることが明らかになっている。放射線治療や抗がん剤治療は、酸化ストレス(酸化傷害)による細胞のダメージががん細胞を死滅させる作用として重要であり、がん細胞は正常細胞と同様に、酸化ストレスを軽減する仕組みを利用して、放射線や抗がん剤に対して抵抗性を獲得している。
特に、がん幹細胞が治療抵抗性なのは、グルタチオンなどの抗酸化物質の量が多いためと考えられている
⑤したがって、「放射線治療や抗がん剤治療を行うときには、がん細胞の抗酸化力を弱める方法を併用すると、抗腫瘍効果を高めることができる」ということになる。

 

グルタチオン点滴やNACの内服が、その抗酸化作用でガンの発生や再発を抑制する効果が期待出来る一方で、すでにガンが発生している場合には、その抗酸化作用が逆にガンの抵抗性を増してしまうかもしれない、という内容である。

 

ガン細胞は常に体内で生まれては、自己免疫で消去されている。何かの拍子に免疫をくぐり抜けたガン細胞がグルタチオンやNACによって育てられてしまう可能性があるとすれば、グルタチオンやNACは念のために使わないという考え方は一定の妥当性を持つ。

 

ただし、既にグルタチオンやNACで変性疾患の症状改善が得られている症例で中止すべきかどうかは、自分にとって今後の検討課題である。グルタチオンやNACを上回る改善効果と安全性を持つ治療方法があれば、そちらに乗り換えるだろう。

 

プレタールは?

 

近年認知症対策で注目されているプレタール(シロスタゾール)は、良い武器の一つである。

 

1988年に閉塞性動脈硬化症に対する適応で上市されたプレタールは、2003年に脳梗塞再発予防の適応を追加取得した。ちなみに、認知症に対する保険適応は今のところない(2017年4月現在)。

 

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血管内皮細胞への好作用などから、自分の中での抗血小板薬選択のファーストチョイスは長らくプレタールである。良い薬だが、副作用もそれなりに出る。

 

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添付文書による主な副作用は以下。

 

脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制
〈国内臨床試験〉
安全性解析の対象となった520例中、臨床検査値の異常を含む副作用が137例(26.3%)に認められた。主な副作用は、頭痛・頭重感(12.9%)動悸(5.2%)、悪心・嘔吐(2.7%)、めまい(1.7%)、発疹(1.3%)であった。(プレタール錠効能追加時)
〈長期特別調査〉
安全性解析の対象となった1,075例中、臨床検査値の異常を含む副作用が239例(22.2%)に認められた。主な副作用は、頭痛・頭重感(4.6%)、AST(GOT)・ALT(GPT)・Al-P・LDHの上昇等の肝機能障害(3.6%)、動悸(2.9%)、頻脈(2.2%)、貧血(1.1%)、白血球減少(1.1%)であった。(再審査終了時)
〈市販後臨床試験〉
安全性解析の対象となった1,337例中、臨床検査値の異常を含む副作用が702例(52.5%)に認められた。主な副作用は、頭痛・頭重感(17.7%)動悸(10.5%)、頻脈(9.5%)、心房細動・上室性頻拍・上室性期外収縮・心室性期外収縮等の不整脈(3.7%)、腹痛(3.0%)であった。(再審査終了時)

 

実際に使用して経験する頭痛や動悸の頻度は相当に高い。

 

認知症患者さんに使用する際には、「頭痛や動悸による不快感が周辺症状を増悪させてしまうことがある」ということは、知っておく必要がある。処方後の診察の際には、頭痛の確認と心拍数のチェックは必須である。

 

なおプレタールは、嚥下性肺炎のリスク減少を期待出来る薬剤でもある。認知症が進行して嚥下困難が出現しているような症例においては、肺炎予防で使うメリットがある。

 

栄養療法は武器になる。

 

最近は栄養療法の知識が増えてきたことで、例えば

 

  • 高タンパク食とビタミンB群(特にB6)補充で、神経伝達物質産生効率向上
  • ビタミンE(d-α)補充による細胞膜の強化と、ヒドロキシラジカルの消去
  • 低フェリチンの改善と併行してケトン利用を行うことで、効率の良いATP産生
  • 抑うつ傾向かつ低コレステロールの方への、高コレステロール食とビタミンD補充

 

といったことを、一般採血の結果から類推して提案するようになった。ただしその分、説明には更に時間を要するようになったが。

 

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ビタミンB群を数時間おきに供給してエネルギー代謝を効率化し*2、同時にビタミンCも数時間おきに供給して副腎をサポートすることで、低下しているであろうストレス耐性を引き上げる工夫などは、認知症の病型を問わず有効であるように思う。

 

また、少しでも変性タンパクの蓄積は抑えたいので、精製穀物や砂糖は極力遠ざける「糖質制限」を併せて説明してもいる。

 

低フェリチンや低タンパクの改善に伴う活気上昇や意欲向上などは、治療成績向上にかなり寄与してくれている。しかし、これらの工夫による改善効果は今のところまだ限定的で、かつ全員に同レベルで提供できるものでもない。

 

なにしろ相手は、簡単に過食や拒食となる認知症(変性疾患)である。糖質制限をベースとした栄養療法を理解して導入して貰うためのハードルは、絶望的に高い。そこに拘りすぎると、かえって全体のバランスを危うくしてしまうことすらある。

 

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保険処方薬による栄養療法には限界があるので、ビタミンミネラル系のサプリメントの提案も併せて行いたいところだが、これらのサプリメントをインターネットで自己購入してもらうこともまた、高齢者にとってはハードルが高い。

 

かといって、全てを院内販売するのも難しい。少しずつ院内で扱う種類を増やしてはいるが、安定した供給を考えると不安はある。

 

その他、高齢者は内服回数が多いほど混乱するという事情があるため、複数の内服やサプリメントを複数回に分けて内服して貰うこともまた難しい。

 

栄養療法を基礎にしつつ、高精度の対症療法を追求する。チャンスがあれば抗酸化療法。そして、リハビリにも大きく期待する。

 

パーキンソン病治療、他人のiPS細胞で30年度の治験目指す 京大CiRA高橋淳教授 - 産経WEST

 

中脳黒質の変性を元に戻すことがパーキンソン病の「病理学的」根本治療となる。それを可能としてくれるかもしれないIPS細胞治療には期待しているが、治験開始まで、あと13年。まだまだ先の話である。

 

薬剤による変性疾患修飾が如何に困難かは、新たな抗認知症薬の開発が軒並み失敗に終わっている現状からも明らかである。

 

ブレイクスルーとなる薬剤の出現には引き続き期待しているが、脳の持つ可塑性を利用した運動やリハビリは、今後ますます重要になってくると思われる。

 

Phase I/II randomized trial of aerobic exercise in Parkinson disease in a community setting

 

「45分間の歩行を週に3回、6ヶ月間続けることで、パーキンソン病の運動障害と気分に改善が見られ、疲労も低下した」というこの報告は、脳の持つ可能性について色々と考えさせてくれる。

 

著者等は、この改善が抗パーキンソン薬によるものではないと結論づけており、そうであれば、この改善効果は運動を通じて脳の可塑性が発揮された結果、と考えることが出来る。

 

脳の学習能力は非常に高く、「脳の不使用」ということすら脳は学習する。つまり、「使わなければ、脳のその領域は衰える」ということである。

 

ただし、「使わなくなり衰えた領域は元には戻らない」ということではない。

 

不使用領域も再使用すれば、脳は学習していくということは、リハビリで驚く程改善する患者がいることからも明らかである。要は、「脳は再配線可能」ということである。

 

音楽療法なども組み合わせてニューロンの同時発火を狙いつつ、皮質下領域への入出力を増やしていく。そのことで、認知症により衰えた、もしくは傷んでしまった皮質領域を刺激していく。このような発想でリハビリが出来れば、かなりの成果が見込めるように思う。

 

勿論、リハビリ阻害因子となっているであろう神経伝達物質のアンバランスを、投薬でリバランスすることも多くの場合で必要ではあろうが。

 

中等度以上進行した変性疾患の場合、運動を始めるにあたって「動機」が課題となるであろうから、介入当初から少量のシンメトレルで基底核を賦活するという取り組みを、最近は試している。ちなみに、プレタールと同様にシンメトレルにも嚥下性肺炎のリスクを下げるというメリットがある(豆知識)。

 

2013年に発表された、以下の報告にも勇気づけられる。

 

Healthy Lifestyles Reduce the Incidence of Chronic Diseases and Dementia: Evidence from the Caerphilly Cohort Study

 

30年間の追跡調査の結果、

 

  1. 運動(1日に最低3.2kmの歩行、もしくは16kmの自転車走行)
  2. 健康的なダイエット(一日最低3~4回、果物と野菜を摂取する)
  3. 正常な体重(BMIを18~25で維持)
  4. アルコール飲料の摂取を抑える
  5. 禁煙

 

この5つの活動のうち、4つまたは5つを実践した被検者は、認知能力の低下やアルツハイマー病を含む認知症のリスクが60%低下した、という報告である。特に、1の「運動」が最も強力なリスク低下因子であったとのこと。

 

現在の介護保険の枠組みでリハビリの差別化は難しいのか、似たり寄ったりのサービスが多いように思う。

 

  もし「神経変性疾患リハビリ」を謳う事業所が出てきたら、自分の患者さん達は全員そこに紹介するのになぁ・・・

 

などと、最近は夢想している。

 

以前の自分の認知症診療は、ひたすら対症療法であった。しかし今は、

 

対症療法と栄養療法を同時に行いつつ、抗酸化療法のチャンスを常に窺う。同時に水頭症の可能性も忘れない。

 

このようなスタイルになってきた。

 

治療成績は以前よりも大分上がっていると思うが、今回紹介した方のように全く歯が立たない方もまだまだ沢山いる。

 

先人の知恵を借りているだけでオリジナリティなど何もないが、引き続き模索しながらやっていくのでよろしくお願いします<(_ _)> 

 

 

脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線
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*1:臨床的に必要とされる量以上に多くの薬剤が処方されている状態のこと

*2:ビタミンB2の補充は、グルタチオンのサポートにも繋がる。