約2年3ヶ月経過を診てきた方を御紹介する。
グループホーム入所を切っ掛けに施設の嘱託医とバトンタッチすることになり、先日の外来が最後となった。
ご本人が最後に見せた優しく、そしてどこか不安そうな表情が心に遺った。
70代女性 前頭側頭葉変性症(意味性認知症)
初診時
(既往歴)
糖尿病 高血圧症 脳梗塞?
(現病歴)
今年に入って、ものの名前や料理の手順が分からなくなってきた。ご主人と二人ぐらし。娘さんと来院。
(診察所見)
HDS-R:6
遅延再生:0
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:12
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:
レビースコア:0.5
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:6
頭部CT左右差:左有意萎縮
介護保険:要介護1
胃切除:次回確認
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:
明瞭な語義失語のある典型的なSD(意味性認知症)。
表情はどこか困った様子で悲しげ。
〇〇病院から引っ越し希望。自宅血圧測定を。次回でラシックスは終了かな。
採血もしておきましょう。
2週間後
〇〇クリニックで糖尿病治療中。
A1cは6.3。腎機能に少し注意。
〇〇病院から引き継ぎ。今回からレミニール4mg+ナウゼリンで認知面対策開始。
ラシックスは一旦止める。
4週間後
著変無く経過中。
当面レミニール維持。6月でHDSR。
6週間後
転びやすいと。
すり足、尿失禁なし。
今回でナウゼリンは一旦終了。
次回はHDSRを。レミニールを増量する?
最近活気が出てきたのか、デイサービスに興味を示していると。
8週間後
HDSR4.5点。
初診時は6点。娘さんからすると記憶力低下はありそうと。
物品呼称はほぼ不可だが、ADLはそれなりに保っている。
レミニールを朝8mgに増量。なるだけ朝1回にまとめる。
8週間後
転倒し右橈骨骨折。そろそろギプスが外れると。
その他、特に変化なし。
10週間後
畑仕事で日焼け。手はもう大丈夫。
デイサービスに娘さんは行かせたいと思っている。
血圧の上下差あり。自宅測定を。
初診から1年経過
著変無く経過。デイサービスは本人の拒否が強い。
8週間後
- ものの名前が出にくくなってきたようだ
- デイケアもしくは訪問リハはどうか?
- コディオEX→ディオバン80mgに降圧薬減量
6ヶ月後
「バタバタしていて来れませんでした」と娘さん。
この半年の間で、出来ないことがかなり増えた。
排泄も今は紙パンツになった。
頭部CTで左側頭葉萎縮進行著明。透視立方体模写と時計描画テストも描けなくなっている。
ご高齢のご主人と二人暮らし。娘さんのサポートも中々追いつかない。
これまではデイサービスも渋っていたが、今後は介護の手を増やしていく必要あり。
「朝だけの内服は譲れない」、と娘さん。
レミニールを12mg朝、バイアスピリンからプレタール50mgに変更。
4週間後
長女さんと長男さんに伴われ来院。
デイサービスが週5で始まり、明るくなったかも、とのこと。
だったら、レミニールは8mgに戻しましょう。
診察中にややうとうと。今後は活気低下が問題になるかも。
フェルガードLA朝2粒、サアミオン朝1粒などはどうかな?考えておく。
4週間後
〇〇クリニックでアクトスとグラクティブ。
両側下腿の軽度浮腫。息切れはないようだが心不全傾向には注意を。アクトスを使っているし。アルダクトン25mgで浮腫対策。
表情に大分活気が出た。これは娘さんも気づいている。デイサービス週に5回の好影響かな。「この間はお世話になって~」と入室直後で話しかけてくれた。
収縮期血圧は94。ディオバン80mgからアジルバ20mgに変更。
4週間後
足背浮腫は軽減。下腿前面浮腫残存。アルダクトン増量。
収縮期血圧120。アルダクトン増量に伴い、念のためにアジルバは10mgに減量。
4週間後
ご主人がお風呂に入っていることに気づかずに、ご主人を捜しに外にさまよい出て転倒。あちこち打撲。顔面挫創はワセリン処置。
アジルバ減量でも特に目立った血圧上昇はないかな。
2週間後
本日、デイサービスでの入浴後に滑って転倒し前額部を強打したとのことで、デイスタッフに伴われて来院。神経学的脱落所見は認めず。
頭部CTで骨折や出血病変は認めない。
同伴スタッフにCSDH(慢性硬膜下血腫)の説明、様子観察。
最近、デイでのソワソワが目立っているとのこと。
「このままここにいるの?」、「出口はどこ?」など。
1週間後
- 娘さんはCSDHの懸念→先週のCTは問題なかったですよ、と説明
- リーゼでややふらつき→2.5mgに減量
排泄感覚低下に苦慮。ご主人も高齢なため、見守りが難しくなってきた。
現在GH申請中。
4週間後
リーゼ減量で、ふらつきはなくなり、また夕方症候群も今のところないとのこと。
金銭面の心配を娘さんはされている。極力後発品、保険診療内の工夫の提案で。
4週間後
残薬調整。下腿浮腫ほぼ消失につきアルダクトンは一旦終了。夕方症候群はなし。
以前より笑顔が増えている印象。日中は傾眠がちと。夜間の不眠があるようだが、ADLに大きな影響なく、眠剤使用よりはこのまま経過観察でいいかな。転倒が多く、フラツキは恐いので。
「家族は恐い。先生をみていると安心する」
語義失語で相手の言う言葉が分からない分、相手の表情を必死で見ているのであろう。家族の一生懸命さをプレッシャーと捉えているのかな。
(その後)
息子さんより電話あり、グループホームに入所が決定したと。系列の病院へかかりつけ医引っ越しとなるため、情報提供書が必要とのこと。(受付〇〇記載)
(引用終了)