鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

メマリー雑感

 先日、抗認知症薬メマリーを販売している第一三共の学術担当者と話していて、その後色々と考えてみたことを書いてみる。

 

今回は、ちょっと専門的な内容となります<(_ _)>

メマリーの作用機序

 

シナプティックノイズ仮説

 

神経細胞はお互いにシナプスを形成し、シナプス間で様々な神経伝達物質やイオンを介して情報伝達を行っている。

アルツハイマー病では、刺激性神経伝達物質のグルタミン酸が過剰になっており、その影響でシナプス間にノイズが発生しやすくなり、情報伝達が上手くいかなくなる、という仮説がシナプティックノイズ仮説*1

 

 

メマリーとNMDA受容体

 

これは、第一三共の医薬品インタビューページからの引用画像。

 

神経伝達物質グルタミン酸の受容体の一つ、NMDA受容体。普段はMg2+(マグネシウムイオン)がフタをして過剰なCa2+(カルシウムイオン)が流入するのを防いでいる。

 

アルツハイマー病においては細胞外グルタミン酸濃度が上昇する。

 

するとNMDA受容体が活性化される。NMDA受容体の中心にあるMg2+が、βアミロイドが活性化されると外れやすくなり、細胞外からCa2+が流入しやすくなる。メマリーはMg2+の代わりにフタとなることで過剰なカルシウムイオン流入を防ぎぐことでシナプス間のノイズを取り除き、シグナル伝達を円滑にする、という理屈。

 

最近は、このNMDA受容体が実はシナプス外にも存在し、そこをメマリーがブロックすることで細胞保護作用をもたらすという理論が出てきたらしい。そして、細胞保護機能についてはむしろシナプス外のNMDA受容体ブロック作用がメインではないか、ということらしい。

 

ちなみにNMDA受容体は4量体で構成されている。細胞保護に関わるのはNR2A、アポトーシスに関わるのはNR2Bで、内レセプターにはNR2Aが、外レセプターにはNR2Bが発現している。

 

神経細胞保護目的でメマリーを使うのであれば、程よくシナプス外レセプターをブロックすることが重要となるが、自分は以下のような事を考えた。

 

  メマリーの用量が多すぎると、シナプス内レセプターが過剰にブロックされてしまう。すると、情報伝達に齟齬を来たす。実はこれが、メマリーの副作用が起きる機序なのではないだろうか?

 

シナプス外レセプターは細胞のアポトーシスにも関わっているらしく、確かにニューロンがどんどんアポトーシスを起こしていけば認知面低下を来すだろうが、機能が低下した細胞をアポトーシスに誘導するのは自然本来の働きではある。

 

ここを無理に生き残らせようとしたら、逆に全体のバランスを崩すことにならないだろうか?機能低下をきたしている細胞はアポトーシスで予定通りに退場してもらい、残存機能をいかすための工夫を考えたい。

 

まず極少量メマリーで治療を開始する、という戦略

 

アポトーシスで機能低下を来した神経細胞が退場したのち、残っている神経細胞同士のネットワークを再強化するという意味で、フェルガードに含まれるガーデンアンゼリカは有用であるように思う。

 

また、ADではMg2+*2が外れやすくなるのであれば、キレート化されたマグネシウムを補充すればメマリーの投与量を節約出来るのかもしれない。

 

初期から上記のような工夫をしつつ、少量メマリー(1.25mg~2.5mg)でシナプス外レセプターのみ程よくブロックして、神経細胞間の情報伝達をスムーズにしておくことにはメリットがあるように感じ、一部実践している。

 

抗認知症薬は対症療法的に使う自分だが、メマリー1.25mgでも良い変化を感じる方がいることは、興味深いことである。 

*1:過剰なグルタミン酸がADの原因になっているという仮説を「グルタミン酸仮説」と呼ぶこともあるが、統合失調症におけるグルタミン酸仮説と紛らわしいため、メマリーの作用機序を説明する場合、自分はシナプティックノイズ仮説という呼び方を用いている。

*2:鎮静系ミネラルと言われるマグネシウムだが、昨今のカルシウム摂取推奨に伴い、相対的な不足が懸念される。