大急ぎで何とか改善に持っていきたかったが、かなわなかった症例。
86歳男性 混合型認知症
(記録より引用開始)
初診時
(既往歴)
糖尿病、前立腺肥大、肝障害?で内服治療中。
レミニールを16mgまで内服してみたが全く効果がなく、最近メマリーに切り替わった。単独投与で現在15mg/day。抑肝散5g2xを併用しているが、やはり改善が無いとのことで紹介受診。
(現病歴)
今年の4月頃から急激に認知症症状が進行してきた。すでに娘の顔が分からない。詐欺集団の一員と思いこんでいる。妻の後をついてくる。突発易怒あり。
(診察所見)
HDS-R:8.5
遅延再生:0
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:44
保続:あり
取り繕い:あり
病識:なしなし
迷子:なし
レビースコア:7.5
rigid:なし
ピックスコア:6
頭部CT左右差:あり
介護保険:要介護4
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:〇
MCI:
その他:iNPH
入室時の歩行で手は振らない。小刻みですり足。表情はややかたい。病識のなさは突出している。どんな話でも「私は毎日5000歩歩いている」と自慢げに話す。滞続言語。幻視もあると。本人は全て否定。頭部CTでは右側頭葉の著明な萎縮と脳溝の不均等なしわ寄せ所見。頭頂の脳溝の描出は不良。
左手で右肩を叩いて下さい→もの凄く強く叩いてやや得意げな表情。
LPC+iNPH。奥さんは「何をするにも目を光らせてついてくるし、怒りっぽくて気の休まる暇が無い」と、相当疲弊している。
希望としては、とにかく落ち着いて欲しいと。歩行は前からこのような感じで、最近急激に悪化しているわけではないと。歩行改善に関する希望はない。
まずはLPCにアプローチ。効果がみえて穏やかになってきたらNPHへアプローチ。肝障害がありそうなので採血先行。少しも待てない人らしいので、結果は次回説明し、ウインタミン開始とするか。
初診から3日後
娘さんのみ来院。
前回受診以降、「自分は大丈夫だ」のアピールが強くなり大変。夜中もそれでわざわざ起こされて、説教?のようなアピール。
猜疑心が強いと。内服も全て内容を確認してくる。母が休まる暇がないと娘さんが涙をこぼす。
採血結果は肝機能に問題なく、今回からウインタミン開始。6mg-10mgで。コーヒーに混ぜるなどの工夫で何とか飲んでもらえないか。
初診から7日後
ウインタミンは効果なく、母親が「もう無理!」言ってと壊れてしまいました、と娘さんが泣かれた。
認知症疾患医療センター紹介とし、医療保護入院検討を依頼。
(引用終了)
分岐点はどこだったのか?
診断自体は、LPC+iNPHで問題ないと考えている。また、治療の順番としてLPCを優先したことも問題ないだろう。易怒性が高く、尚且つまるで病識が無い方のTAPテスト(髄液排除試験)は、かなり危険である。
- 肝障害の既往ありウルソを内服中という情報から、初回からのウインタミン投入を躊躇した
- 初診時で要介護4という状況を、もっと重要視すべきだった
前情報で「少しも待つことが出来ない方」とあったので、採血結果の確認と説明を後日に回さざるを得なかったのも痛かった。直近の採血結果を紹介元に前もって確認しておけばよかったか。
このあたりが反省点。ウインタミンにこだわらずにセロクエルを入れておくべきだったかとも思ったが、糖尿病があるため無理。ひとまずセルシンをお渡しするべきだったのか。
また、ウインタミンの初回投与量を6mg-10mgとしたことも、消極的過ぎたのかもしれない。
医療保護入院一歩手前であるとの強い認識の元に、娘さんと相談してウインタミンはひとまず最大75mg/dayまでの家庭天秤法とすべきだったのかもしれない。
その後、遠方の娘さんも介護の為に帰ってこられたようだが、最近医療保護入院になったと連絡があった。
副作用を出さないであろうギリギリの用量で勝負しなければならない局面がある、ということを学んだ。次に生かさなければならない。
今回はこれで終了。