鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

水商売。

無床クリニックを開業して3年。

 

患者の数は増え、浩司は忙しい日々を送っていた。

 

最近はネガティブなコメントが増えてきたので放置しているが、以前はネットの口コミ一つ一つに丁寧なコメントを返していた。

 

初めて☆5を貰った時の嬉しさは、今でも覚えている。

 

急に頭が痛くなり、先日受診しました。オープンしたばかりの綺麗なクリニックで、診察までの待ち時間は少なく、会計もスムーズでした。先生の説明はとても分かりやすく、看護師さんにも優しく対応して貰い嬉しかったです。また調子が悪くなったときには、よろしくお願いします!

 

独立を考えた5年前、先に開業していた先輩のクリニックを訪ね、相談したことがあった。

 

「開業するんだったら、自分の専門はいったん忘れていいと思うよ。」

 

え?と浩司は内心驚いたが声には出さず、眉をひそめてわずかに首を傾げ、話の続きを待った。

 

「患者さん達は僕の専門関係なく、実に色々なことを相談してくる。これは、開業して初めて分かったことの一つだよ。」

 

浩司は、患者から自分の専門外の相談を受けても「それは私の専門外です」と答えるのが常だった。

 

良かれと思って専門外に手を出した結果、副作用や合併症が出て患者から苦情を言われ、苦しい思いをした同輩や先輩を見てきた。

 

僕は同じ轍は踏まない。余計なことはせずに、自分の専門性を追求する。

 

「最初は戸惑ったさ。でも、『ご専門外かもしれませんが・・・』と済まなそうな面持ちで相談されると、出来ることをしてあげたくなったんだよね。その時は、たまたま自分が知っていた薬で対応出来たんだけど、それで凄く喜んでくれてさ。喜ばれると嬉しいから、そこから色々と専門外のことも勉強して、手を拡げていったんだ。

 

まあ、開業医という仕事は水商売みたいなものだけど、地道に頑張ろうね」

 

水商売?

医者ほどの堅い職業が、水商売だって?

 

「ほら、我々の仕事は世の中の動向に影響を受けるじゃない?例えば感染症が流行れば外来患者が激減する科もあれば、ワクチンや検査で収入が激増する科もある。競合するクリニックが近くで開業したら、そちらに患者が流れてしまうこともある。

 

水商売のように収入が変動することがあるからこそ、専門に拘りすぎずに幅広く診ることがリスクヘッジになるんじゃないかな。」

 

午後からの予約の患者が既に待っていることに気づいた浩司は、昼休みの時間を割いてくれたことに礼を述べ診察室を後にした。

 

その後、知り合いを通じて紹介された開業コンサルタントから受けた経営指南は、当時勤務医だった浩司にとって目から鱗のことばかりであった。

 

ー固定費、変動費含めて1ヶ月の支払いが幾らになるのかをまず把握して下さい。患者がいきなり押し寄せることはありませんが、損益分岐点の1日来院患者数40名に達するまでは、とにかく我慢です。開院予定地は立地が良いので少しずつ増えてくると思います。

 

毎日40名ですか。いま私の外来は週に3回で、1回当たりの患者数は30名前後です。それも自分で増やしていったわけではないので、なんだか途方もない数字に感じますね。

 

ー大丈夫ですよ、何とかなります。ところで先生は、生活習慣病は診る予定ですか?

 

そうですね。

 

ーでは、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の患者には、理由をつけて2週間に1回受診させるようにして下さい。その都度、管理料が算定出来ますから。

 

理由をつけてって・・・一体どのような理由ですか?

 

ーそれは先生が考えてくださいよ(苦笑)

専門家である医者から、「血圧の数値に変動が生じたら早めに対処する必要があるから~」とか言われたら、大体の患者は納得するんじゃないですか?

 

先生がオーダーする検査、処置、処方などの医療行為には全て、「保険点数」が定められています。何でも取れる訳ではないですが、取れる上限を狙ってキッチリ取りにいきましょう。どこのクリニックも、そうしていますから。


「医は仁術」と言いますが、経営者たる院長には「算術」も必要ですよ!

 

クリニックがオープンして徐々に忙しくなってくると、目の前の患者に本当に必要な検査や薬をその都度考えることを面倒と感じるようになり、その結果、浩司は様々な診療セットを組むようになった。

 

  • 頭痛患者来院→MRI+血液検査→鎮痛薬2種類+予防薬4種類を1ヶ月処方
  • めまい患者来院→MRI+血液検査+心電図→抗めまい薬4種類を1週間処方
  • 鼻炎患者来院→CT+各種アレルギー検査+各種ウイルスチェック→3剤1ヶ月処方

 

定期通院している患者の血圧が少しでも高ければ、「高血圧症」の病名を付けて管理料を算定し、2週間処方を継続する。

 

糖尿病患者の血糖コントロールが少しでも悪化したら、インスリンを導入し「在宅自己注射指導管理料」を算定する。

 

「なんだ、簡単じゃないか。もっと早くからこうすれば良かった」

 

効率よく稼げるようになり、浩司は満足していた。

 

今度、開業を考えている後輩が相談に来る。


その時には、こうアドバイスしてあげよう。

 

  • 回転率を上げるために、余計な説明はせず専門外領域には手を出すな
  • 保険病名と検査、処方がワンクリックで出力出来るセットを複数組め
  • 患者単価を設定し、検査を当てはめろ
  • 常に、算定可能な診療報酬の最大化を意識せよ

 

開業してからは会えていないけど、あの先輩は元気にしているだろうか。

相変わらず、専門外のことまで相談に乗っているのかな。大変だろうな。

 

ま、僕には関係ないか。

 

患者の話を聞かない医者

 

 

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医者の責任。

人が変わったように不穏になるのを何とかして欲しいと、施設入所中の超高齢女性(以下、Aさん)がスタッフに付き添われて来院した。

 

紹介状には、「精神科への入院を強く勧めましたが、家族がどうしてもそちらを希望したので紹介します」と書かれていた。

 

ちなみに、施設からの情報提供書を読む限りは、Aさんの不穏症状に対してこれまで薬は使われていなかった。

 

診察当日、家族の同伴はなかった。

 

施設スタッフ曰く、「ご家族が本人と会ってしまったら、里心で帰宅願望が強まってしまうので・・・」とのことだった。これはよくある話で、仕方の無いことである。

 

同伴したスタッフのAさんへの接し方から、普段から細やかなケアが提供されているであろうことは見て取れた。

 

診察中、Aさんの態度は一貫して穏やかだったが、抑揚のない一定のトーンで甲高い声から、ある種のパーソナリティを持つことは容易に想像できた。念のためスタッフに入所前のエピソードを聞いたところ、

 

  • 夫をアゴでこき使っていた
  • スイッチが入ると、家族でも他人でも容赦なく罵倒していた

 

とのことだった。

 

パーソナリティが強く偏った人が認知機能低下をきたした場合、その対応は相当難しく、勝ち戦に持ち込めた記憶があまりない。家族が疲弊し、見放すことはザラにある。

 

 

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今回の受診は家族希望という体を取ってはいるものの、恐らくは施設スタッフの希望と思われた。そして、そういう形を取らざるを得ない事情(緊張関係)が、主治医である訪問診療医と施設スタッフの間に普段からあるようにも感じられた。

 

「何とか落ちつかせて欲しい。このままだと、施設で看れなくなる」というスタッフの想いは切実で、Aさんが入院になれば自分たちの仕事は楽になるだろうに、そうはしたくない、自分たちが看るんだ、という強い覚悟が感じられた。

 

直近の採血結果を確認したところ、カリウムが2.8と低かった。これは、甘草入りの漢方を使うかどうかを躊躇させる数字である。

 

しばし、考えを巡らした。

 

糖尿病があるためクエチアピンは使えない、いきなりリスペリドンはちょっと怖い、チアプリドは悪くはないかな、バルプロ酸は何となく良さそう・・・etc

 

抗精神病薬に躊躇するスタッフに配慮し、低カリウム悪化に注意してまずは抑肝散加陳皮半夏を使うこととして、ダメなら次はチアプリドと決めて2週間後に再診とした。

 

その直後、主治医から電話がかかってきた。その第一声は、

 

「低カリウムの患者に甘草入りの漢方を飲ませて、何かあったらどう責任を取るのか?

 

であった。「漢方ではなく、他に方法はありませんかね?」ではなく。

 

施設や家族の期待に応えられなくなることを多少残念に思ったが、是非もない。

 

考え方の次元が異なる相手の説得に費やす時間はないので、

 

「いやぁ、先生のご心配はご尤もだと思いますよ。この年齢ですから、いつ何があってもおかしくないですものね。精神科への入院を、改めて先生の方からご家族に勧めて下さい」

 

と返したところ、相手は一寸鼻白んだようだったが、「では・・まあ、そのようにします」と言って電話を切った。

 

低カリウムで不整脈が出たら責任が取れない。下肢筋力低下が生じて転倒したら責任が取れない。

 

「責めを負う」という意味でしか責任を理解できなければ、自然と「責めを負いたくないので何もしない」という考えになる。

 

責任には「義務・任務」の意味もあるわけだが、医者の応召義務*1がコロナ渦であれだけ放棄された現実を見る限り、もうだいぶ前から我々の業界では責任を「責め>>>>義務」と考える人間が大勢を占めるようになっていたのだろう。

 

防衛医療のなれの果て、とも言えようか。

 

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この年で精神科に入院したら、Aさんはもう元気に帰ってこれないかもしれない。


そう考えて、施設スタッフや家族は外来治療を希望したに違いない。


転倒して怪我をしないか。食事の際に誤嚥しないか。自分が担当の時間帯に何か起きたら、施設管理者や家族、医者は何と言うだろうか?自分たちが責任(責め)を問われるのだろうか?この苦しい状況は、いつまで続くのだろうか?

 

判断力を喪失した人をケアする責任(義務・任務)は、ただひたすら重い。

 

介護者の付託に応えると決めたとき、自分は以下のようにシンプルに話す。

 

「慎重にやってみましょう。薬はまずは少量から。その後どのように変化したか、次回詳しく教えて下さいね」

 

と。

 

この時の心情をもうすこし詳しく言語化すると、以下のようになる。

 

このままだと大変ですよね。あなたたちの大変さを、部分僕も引き受けますよ。薬の副作用に注意しながら、やるだけやってみましょうよ。副作用で何か起きたとしても、そこには医者の自分も関わっているわけだから、あなた達だけの責任ではないですよ。ただし、薬の効果や副作用については、生活を看ているあなた達にしか分からないから、薬が開始になった後の様子については詳しく教えて下さいね。

 

介護者は通常、介護の責任を否応なく背負っているのであって、好き好んで引き受けているわけではない。*2

 

介護者の持つ重い責任の一部を引き受けることこそ、認知症を診ている医者の責任だと考える。

 

自分は、自己決定が出来ない人に薬物を、特に抗精神病薬を投与することに、常に後ろめたさを感じている。

 

薬で副作用が生じると普通は申し訳なく思うものだが、それが後ろめたい気持ちで処方した抗精神病薬であれば尚更で、その副作用が酷ければ酷いほど犯罪を犯したような気分になり、時に懊悩することすらある。

 

重大な副作用を目撃した介護者も、「自分が薬の相談をしなければ、こんなことには・・・」と、後ろめたさを感じるだろう。

 

副作用で辛い目に遭わせてしまうかもしれないが、生活を守るためには後ろめたくてもやるしかない。

 

この覚悟を介護者と医者が共有出来るかどうかが、陽性症状の改善率を大きく左右する。

 

もう長いこと重大な副作用は経験していないが、それは、後ろめたさを共有してくれる介護者の子細な情報提供があるからこそである。

 

それでも、物事に絶対はない。

 

副作用を起こさない唯一の方法は「薬を出さない(≒何もしない)」ことだけだが、事態の悪化が予見出来たにもかかわらず何もしないのであれば、それは「未必の故意」である。*3

 

未必の故意よりは、まだ改善の可能性がある投薬を自分は選ぶ。

 

こういった心情は、リスクを承知で踏み込まざるを得ない局面を経験したことのない、もしくは、そのような局面を回避してきた医者には理解しがたいと思う。勿論、電話で一々説明するようなことでもないし、分かってほしいとも思っていない。*4

 

自分の言う「考え方の次元が異なる」とは、そういう意味である。

 

悩む医者の横顔



*1:医師法19条1項には、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とある。

*2:「子は親を扶養する義務がある」と民法では定められており、理由無く扶養の義務を放棄すると、保護責任者遺棄罪を問われる可能性がある。施設スタッフに扶養義務はないが、委託された事に対する道義的な責任感は通常持っているだろう。成長していく我が子を見守る扶養義務を喜んで引き受けている親は多かろうが、退行していく親を見守る扶養義務を喜んで引き受けている子は少ないだろう。

*3:何かが起きる可能性があっても、それでも構わないと考えている心理状態。

*4:このような考え方は、自分が脳神経外科医ということと深く関係しているのかもしれない。リスクを最小限にする工夫は常に求められるが、手術を行う上でゼロリスクを想定することはあり得ない。do no harmを信条としてはいるが、それだけでは仕事にならないのが外科医の世界である。

煽動され続ける人々。

紅麹サプリメントの報道に関して思うこと。

 

報道とは客観的事実を伝えることだが、現時点で言える客観的事実とは、

 

【腎不全で入院した患者が、紅麹サプリメントを飲んでいた】

 

である。

 

原因物質なるものが特定されないまま、一企業が一瞬にして追い詰められていく様子は異様と言うほかない。

 

疑義を呈した者には立証責任が生じる。法治国家としての最低限のこのルールは、マスコミには適用されない。

 

「当社製品に疑義が生じたので、いったん販売を止めて市場から製品を回収し詳しく調べ、改めて報告します」

 

という常識的な対応を会社が行う猶予は、残念ながら与えられなかった。

 

翻って、

 

【ワクチン接種後に具合が悪くなった、命に関わった人が大量にいる】

 

という客観的事実を、彼らは素早く正確に報道したであろうか。

 

否。

 

多くの国民にワクチンを接種させることで集団免疫を達成するという国策に加担した手前、ワクチン事業に不利な情報の報道を控えたのだと考える。報道しない理由を彼らが説明することは、通常ない。

 

集団免疫がワクチンによって達成されたかどうかについては、説明不要だろう。

 

大東亜戦争、オイルショック、TPP加盟、例のワクチン、ジャニーズ問題等々。

 

煽動に容易に反応する人々が一定数以上いるからこそ、煽動は商売として成り立つ。

 

妬み、嫉み、恐れ、ルサンチマン。

 

世のあらゆる俗情を掘り起こして結託し、立証責任を問われることなく、「視聴者の知る権利」や「人権」を盾にしながら、彼らの無敵の商売は続いていく。

 

☆令和6年7月13日追記

 

「紅麹サプリで死者○○名」といった報道は、「感染者○○名!」という近い過去に開日のように経験した扇動的報道と何も変わらない。

 

この記事のYAHOO!コメントは見る価値あり。冷静な人は相当数いるのだと分かる。

 

死亡疑い事例が大幅に増えた小林製薬の紅こうじサプリメントを巡り、同社が紅こうじ菌の培養実験やゲノム解析をした結果、菌本体に腎毒性を持つプベルル酸を作る能力がないと断定した報告書を被害発覚後の4月下旬に作成していたことが5日、関係者への取材で分かった。同社は紅こうじ菌自体が健康被害の原因ではないと説明してきたが、根拠が明らかになったのは初めて。(YAHOO!ニュースより引用)

 

 

www.ninchi-shou.com

 

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マスコミのダブルスタンダード

DALL-Eにて作成

脳神経外科無床クリニックの一日③

あるクリニックの、ある一日。*1

 

30代女性。

 

高校生の頃からの片頭痛で、多いときには月に10回以上の発作がある。幾つかの予防薬を内服するも手応えなく、値段のことで逡巡していたが意を決してエムガルティ(片頭痛予防注射)を打ったのが先月だった。

*1:年代、性別、診療内容については適当に脚色しているので悪しからず。

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