鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

脳神経外科無床クリニックの一日③

あるクリニックの、ある一日。*1

 

30代女性。

 

高校生の頃からの片頭痛で、多いときには月に10回以上の発作がある。幾つかの予防薬を内服するも手応えなく、値段のことで逡巡していたが意を決してエムガルティ(片頭痛予防注射)を打ったのが先月だった。

 

1ヶ月後の本日。発作回数激減と頭痛最大値減を確認。常に不機嫌そうだった彼女の表情に初めて柔らかさを見た。良かったですね。2回目のエムガルティを左前腕に皮下注射。トリプタンは余っているので処方不要とのこと。

 

40代女性。

 

息子の鎮痛薬まで使ってしまう薬物乱用頭痛の人。そのことを悪びれる様子はなく、予約時間を守れたためしがない彼女は勿論、ADHD。

薬物乱用頭痛については数え切れないほど注意喚起を促してきたが、今は諦観し眺めるだけとなった。

それでも、当院初診時よりは鎮痛薬使用回数は減っている(はず)なので、よしとするしかない。

 

60代男性の家族相談。

 

服薬を勧める前医とケンカして当院に引っ越してきた人。認知症ではないが高次脳機能障害があり、明るい笑顔で「馬鹿野郎(笑)」などと言う人。重症冠動脈病変あり。ほどほど落ちついていたのだが、ついに拒薬するようになった。

こうなると是非もなし。奧さん困り果てての家族相談だったが、飲む気になるまで待つしかないですね、と二人でションボリ。

 

20代女性。

 

頭痛、めまい、月経困難、抑うつ、不眠。ざっくり一言でまとめると適応障害。

初診時で心療内科受診を勧めるも、母親たっての希望で当院フォロー継続中。連日の頭痛は減り、一時期よりは眠れるようにはなっている。

 

90代のご夫婦。

 

他院でお薬てんこ盛り処方、大量残薬発生状態だった。娘さんご希望で当院に転医して2年。最初の3ヶ月で減薬・卒薬は完了し維持しているが、お二人とも初診時より今の方が活気あり。

父母からの連日愁訴が減った分だけ娘さんは楽になったが、「あとどれぐらい生きちゃうんだろう(笑)」と心配している。

 

90代女性。

 

もう7年ほどは通っているだろうか。他院からの引っ越しで眠剤の工夫をご希望だった。

試行錯誤を重ねて、唯一納得してくれたのがサイレース1mg。

まだ不動産管理を自分でしているぐらいしっかりした人だが、流石に足腰は衰えてきた。転倒には要注意。

 

70代女性。

 

肥満の相談で4年ほど通院中。膝への負担は防已黄耆湯で大分和らぐも、プチ糖質制限では体重減ならず。通常HbA1c7未満では薬物療法に消極的な自分だが、事情が事情なだけに減量を期してリベルサスを開始し慎重に増量した。

結果、半年で7kgほどの体重減に成功。本人はあと10kg減らしたいようだが、流石にそれは難しいかな。

 

20代女性。

 

頭痛、過呼吸、四肢の痺れで相談あり。適応障害。身体各所の不調で様々な病院を受診し、様々な薬が出ている。心療内科受診に抵抗ありとのことで、当院にて少しだけ工夫をすることにした。同棲中のパートナーとの関係も気がかり。深くは語らない人。

 

70代男性。

 

10年近く経過を診てきた、一貫して穏やかなアルツハイマー型認知症の方。抗認知症薬はリバスチグミン4.5mgのみ。HDS-Rは昨年ぐらいで施行困難となった。食事、排泄、睡眠は自立。語義失語が強いため口頭指示理解は困難。

デイサービスは週2回、半日を利用。一日利用だと、帰宅時に盛大に失禁してしまうと。デイで無意識に排尿を我慢している人は結構いる。優しい奥さんが見守りを続けている。

 

20代女性。

 

半年ぶりの来院。消化器症状対策でお渡ししておいた半夏瀉心湯を多めにご希望あり。主に飲み会対策で出番が多いようだ。お酒は程々に。

 

80代女性。

 

脳梗塞後でフォロー中。経過中に心不全を発症。循環器専門病院受診や入院は断固拒否だったため当院で工夫。

利尿剤増量ですぐに腎機能悪化(数値異常)をきたすため調整に難渋したが、トラセミド2mg、セララ25mg、フォシーガ10mgでここ2年近くは無症状で落ちついて経過中。

最も安定に寄与してくれたのは、間違いなくスーパーライザー+陶板浴。最近は+水素吸入で良い体感が上乗せされているようだ。

 

80代女性。

 

物忘れの相談。コロナ前までは一人で身の回りのことを全て出来ていた。コロナ自粛で他者との交流が激減し、自宅に籠もりがちとなってから衰えが一気に進んだとのこと。

診断は、アルツハイマー型認知症ないしは神経原線維変化型老年期認知症。病識あり。HDS-Rは10/30。頭部CTで内側前頭前野が扇が開くように萎縮しており、ワーキングメモリは壊滅的と見る。

レカネマブの適応なのでは?と縋る娘さんを宥める。介護保険を申請し、生活支援を入れていくことが最優先ですと説明した。遠方からの来院かつ独居であったので、抗認知症薬については処方はせず説明のみとした。

 

昼休みに、昨日受診した頭部打撲の0歳児の様子確認で母親に電話をかける。いつも通りです、とのこと。良かった。

 

20代女性。

 

出勤前から出勤途中にかけて激しい頭痛が連日続くとのことで相談あり。1ヶ月の休職を勧めたところ、頭痛は激減。今後は仕事は辞める方向で調整中。頭痛の背景には双極があるのでは?と考えている。

 

30代男性。

 

10日以上前にケンカで怪我をし救急病院で縫合を受けた人。

酒を片手に泥酔状態で来院し、待合室でほかの患者に絡んでいたため、手早く抜糸を済ませてお帰り願った。

酒の影響だけとは言えない度を超した馴れ馴れしさから、彼のパーソナリティに問題があるのは明らかだった。縫合した救急病院の医師も、抜糸まで付き合いきれないと思って当院に投げたのだろう。気持ちはわかる。

 

80代女性。

 

他県からの転居に伴い当院がかかりつけ医となった。アルツハイマー型認知症の診断でドネペジルが出ていたが、アルツハイマーの要素を全く感じなかったため中止したところ非常に元気になった。ドネペジル服用開始後数年間、抑うつ状態を強いられていたことになる。

今は、軽度のパーキンソニズムに対して少量ドパコール投与で小康状態。入居中の施設からはドパコール増量依頼があるが、増やす積極的なメリットがないため様子を見ている。

 

50代女性。

 

認知症の母親と変性疾患の夫、二人を介護中。大変な日々だと思うが、笑顔を絶やさない気丈な方。スーパーライザーを受けて帰る。毎日余り眠れていないのであろう、待合室ではウトウトしていた。

 

50代男性。

 

様々な耳鼻科に通うも良くならないとのことで当院を初診したのが5年ほど前。

POTS(体位性頻脈症候群)的と考えてプロプラノロールを処方したところ、かなりの改善があった。以降、2週間に1回の通院が続いている。

もう服薬は中止して大丈夫だと思うのだが、本人希望で維持している。恐らく2週に1回スーパーライザーを当てることが体調維持に繋がる、と感じているのだろう。世間話をしながら経過観察中。

 

最後は20代男性。

 

3年前の初診時は頭痛の相談だった。初診の時点でADHDだろうとは感じていたが、偏りの相談は特になく様子を見ていた。

経過中に顔つきが変わってきて不眠を訴えるようになった。その時点で心療内科受診を勧めるも、当院で工夫してほしいと希望があったためデエビゴ2.5mgを処方し暫くは小康。

その後、見るからに痩せてきて抑うつ的になり「悲しい」と言いだしたたため、再度心療内科受診を勧めるも断られた。仕方が無いのでロフラゼプ+スルピリド+レクサプロを処方。これでかなり元気になった。

その後、「仕事に集中出来ない。ミスが多い。」と相談あり。ここで初めて、アナタはADHDだと思いますよと告げたところ、自分でも思い当たるところは多々あったようで深く頷いていた。再度心療内科受診を勧めたが、予想通り断られた。

ご希望ありストラテラを開始するも、自己判断でラムネのようにどんどん飲んでしまう。さてどうしたものか悩み中。

 

こうして、あるクリニックのある一日が終わった。

 

そして、次の一日が始まる。

 

脳神経外科の患者さんが来ない脳神経外科外来

DALL-Eにて作成。プロンプトは「混沌とした外来」。

 

www.ninchi-shou.com

 

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*1:年代、性別、診療内容については適当に脚色しているので悪しからず。