鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

メトホルミンは不老不死の妙薬?

興味深いニュース。

 

「寿命120歳」不老薬に現実味 実は安価な糖尿病薬 米で臨床試験許可 (1/3ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

 

糖質制限を絡めて、以下でちょっと考察を。

 

  不老長寿とは?
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ニュースの内容は?

 

  老化を防ぎ、寿命を延ばす効果があるとされる薬の臨床試験が、世界で初めて米国で来年から行われることになった。米食品医薬品局(FDA)が試験を承認したと、欧米メディアが1日までに報じた。(中略) 参加する研究者は「人間の寿命が120歳に延びる」としており、古今東西多くの人々が追い求めてきた不老不死や若返りの夢が現実になるかもしれないと大きな注目を集めている。(中略)

 

「寿命が120歳に伸びる」とはすごい話だ。研究者だけではなく、社会的にも注目度は大きいだろう。 

 

 腎臓病や多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群などにも効くとされ、1日当たりの投薬コストは日本円で約8円と安価だ。(中略) この薬を回虫に投与したところ、加齢が遅れ、寿命が延びる効果が確認された。マウスへの投与でも寿命が40%延び、骨も丈夫になった。そこで定期的にメトホルミンを服用していた糖尿病患者について調べたところ、服用していなかった人より平均8年も長生きだったことが分かった。

 

一日あたり8円というコストは魅力的。また、寿命延長以外にも骨を強くする効果があるとのこと。確かに、血糖コントロールが悪いと骨折のリスクは上昇する。インスリンが枯渇すると骨芽細胞が増えず、骨形成は低下してしまう。

 

 アルツハイマー病やパーキンソン病の進行を止める効果も期待できるとしている。(中略) 「すべてのがんを克服したところで、人間の平均寿命は3年ほど延びるだけだが、老化を遅らせることができれば、(人類に)はるかに大きな恩恵をもたらすだろう」と訴えた。

 

アルツハイマー病やパーキンソン病の進行を止める効果も期待できるとのこと。ふむふむ。

 

聞けば聞くほど期待が高まる。

 

メトホルミンとはどのような薬?

 

 メトホルミン(英: Metformin)は、ビグアナイド系薬剤に分類される経口糖尿病治療薬の一つである。塩酸塩が製剤化されている[1]。日本での商品名は「メトグルコ®」「メルビン®(販売中止)」(ともに大日本住友製薬)[2]:1や「グリコラン®錠」(日本新薬)[3]:1が先発品として上市されている。後発医薬品としては「メデット®」(トーアエイヨー)や「ネルビス®」(三和化学)などがある。(Wikipediaより引用)

 

フランスでは1959年に、日本でも1961年に発売となった歴史のある糖尿病の薬。乳酸アシドーシスの副作用が報告されて以来、しばらく陽の目をみることがなかったのだが、近年見直されようになった。現在欧米では、2型糖尿病に対する基礎治療薬の位置づけとなっている。

 

薬の特徴は以下の4点。

 

  1. インスリンの感受性を高める(インスリンを効きやすくする)
  2. 肝臓における糖新生を抑制することで、血糖値を下げる
  3. 筋肉や脂肪組織など、末梢における糖の利用を促進することで、血糖値を下げる
  4. 小腸での糖の吸収を抑制することで、血糖値の上昇を抑制する

 

自分は今のところ経験していないが、最も気をつけるべき副作用が「乳酸アシドーシス」。1970年台の報告では10万人あたり年間1〜7人という数字のようだ。決して高い頻度ではないが、乳酸が蓄積して体液が酸性に傾く非常に危険な病態なので、メトホルミンを開始してもし消化器症状(腹痛や吐き気、下痢など)が出現した場合には、すぐに服用を中止して医療機関を受診しなくてはならない。

 

メトホルミン使用に関する注意、禁忌事項

 

糖新生を抑えるということは、乳酸→ブドウ糖という経路を抑制すること。つまり、メトホルミンを内服すると通常よりも乳酸が溜まりやすくなる。なので、禁忌となるのは「乳酸がより溜まりやすくなる状態」が想定される場合である。

 

  • 透析患者、中等度以上の腎機能障害のある患者
  • 重度の肝機能障害のある患者
  • 高度の心肺機能低下の患者や低酸素になりやすい患者
  • 重症感染症、外傷、高度手術侵襲後の患者
  • 脱水が懸念される胃腸障害のある患者
  • 過度のアルコール摂取者

 

日常的に激しい運動をする方も要注意といえる。

 

糖尿病における治療戦略

 

自分の場合、糖尿病(ここでは2型糖尿病)の治療は、以下の3点を念頭に置いている。

 

  1. 血糖値を上げるような食べ物、つまり糖質(特に精製された穀物)は極力控える。いわゆる「糖質制限」。
  2. インスリンの利用効率が悪い、つまりインスリン抵抗性が高いのであれば、運動やダイエットでその是正を図る。
  3. 極力インスリンを無駄遣いしない。膵臓は休ませるにこしたことはない。

1の糖質制限がしっかり出来ているのであれば、2と3は大抵付随するものである。自分の患者さんにおいても、糖質制限がうまくいけば薬そのものが不要になるケースが多い。これが最も生理的かつリーズナブルな糖尿病治療と言えよう。

 

高齢者であったり、また様々な理由でどうしても糖質制限は困難だけれども糖尿病に対して何かしないと、という場合には

 

  • 低血糖にならないように(生命の危険あり)
  • 高インスリンになり過ぎないように(動脈硬化進展及び認知症悪化の可能性あり)

 

この2点に気をつけている。身体合併症が少なく条件が適していたら、自分はメトホルミンを選択することが多い。メトホルミンは、上記戦略の2と3に適応できる薬なので、汎用性が高いと言える。低血糖のリスクや高インスリンのリスクも低い。

 

高齢者にとって使いづらいのは、SU薬(低血糖が怖い)やSGLT2阻害薬(脱水が怖い)である。認知症高齢者に使うことは殆どない(自分の場合)。

 

現在最もよく使われている糖尿病薬はDPP4阻害薬だが、低血糖のリスクは低いので高齢者には比較的処方しやすい。しかし、インスリンを出させる薬ではあるので自分の治療戦略の3に抵触する。高インスリンのリスクを考えると、中高年の頃からDPP4を使い続けることには抵抗を感じる。使わずにすめば、それに越したことはない。

 

実際には様々に組み合わせて使うのだが、状況が許す限りまずはシンプルにメトホルミン。そして可能であればメタクト配合錠(メトホルミンとチアゾリジンの合剤)という処方が最近は多い。

 

ただしメトホルミンの合剤でもDPP4+メトホルミンには今のところ慎重。

 

結局、メトホルミンは期待できるの?

 

不老長寿の話は別としても、期待できると思います。

 

メトホルミンの作用は、インスリン抵抗性の改善と糖新生抑制、つまり「低インスリン及び血糖上昇抑制」である。

 

この作用が長寿につながり、またアルツハイマー病やパーキンソン病などの変性疾患の進行抑制にも繋がるかもしれない、ということは

 

「高血糖及び高インスリンが、寿命を縮め変性疾患を引き起こす重要な原因」

 

と言えるのではないだろうか。

 

以下は、インスリン抵抗性の改善がパーキンソン病発症のリスクを下げるかもしれない、という報告について書いた記事。

 

www.ninchi-shou.com

 

また余談だが、ガン細胞の主要なエネルギー源はブドウ糖である。この知識を元に想像(妄想)を膨らませると、「糖質制限+メトホルミン」で、ガンの発育を抑制できるのでは?と考えている。

 

ただし、ガン細胞は基本的に嫌気性代謝なので乳酸蓄積が問題になる。この乳酸蓄積傾向がメトホルミンを使いにくくさせてしまう気はする。

 

今のところ、自分の患者さんでは生活習慣病を持っている中高年、または脳卒中後の二次予防が必要な中高年の方で、メトホルミンは最も活用できそうである。

 

認知症の方達は高齢者が多いので慎重にならざるを得ないが、脱水や肝腎機能に注意しながらであれば使用は可能である。特に、多剤併用が問題となっているケースであれば、薬を整理する時にメトホルミンの出番はあるだろう。

 

www.ninchi-shou.com

 

糖尿病の薬が切り札になる可能性がある、というところに「高血糖、高インスリン」が如何に人体にとって影響が大きいかをうかがわせてくれる今回のニュース。

 

続報に期待する。