ある日の外勤先での出来事。
初めてお目にかかる90歳の女性。パーキンソン病と高血圧症の診断で通院中。
杖を使って歩行可能、疎通も良好でお一人暮らし出来ている方である。

flickr photo shared by Dean812
シンプルな内服ではあるが・・・
この方の内服は、
- メネシット(抗パーキンソン薬)100mgx3
- エックスフォージ配合錠(バルサルタン80mgとアムロジピン5mgの合剤)
の2種類。
わずかに右手指振戦を認めるが、小刻み歩行や仮面様顔貌、筋固縮などの所謂パーキンソン症状(らしさ)は認めない。そして、診察時の収縮期血圧は96。この方との外来での会話を、以下にまとめる。
医「ちょっと血圧が低めみたいですよ。血圧の薬を減らしてみませんか?」
患「もう長く飲んでいるから、これでいいよー」
医「血圧は下がりすぎてもイカンのですよ?」
患「あら、そうね。じゃあ任せるわ」
エックスフォージをアムロジピン5mgに減量して1ヶ月後
収縮期血圧は、大体110前後まで上昇。明らかに活気が増していると、同伴した近所に住む姪っ子さんが話す。
医「ちょっと元気が出てきたんじゃないですか?」
患「何もかわらんよー。薬が減って心配だよー」
医「姪っ子さんから見たら元気が出てきたみたいですよ?」
患「あらそうね?(ちょっとうれしそう)」
医「もう少し血圧は高くてもいいと思いますよ、また調整してみますね。」
患「任せるよー」
降圧薬を完全に中止して1ヶ月後
収縮期血圧は平均して120〜130ぐらいで推移。
頬に赤みが差し、血色良好である。
医「これぐらいの血圧でいいと思いますよ。顔色も凄く良くなっていますよ。」
患「あらそうねー(うれしそう)」
医「ところで、パーキンソンのお薬が少し多いかもしれないので、調整してもいいですか?」
患「任せるよー」
メネシットを300mg→200mgに減量して1ヶ月後
振戦の悪化や歩行の悪化などない。姪っ子さん曰く、変わらず過ごしていると。
医「調子はどうでしたか?」
患「薬が減って心配だから一旦戻して〜」
医「そうですか、じゃあ一旦戻しましょう。ただ、薬は少ないに越したことはないので、最低限の量を目指すようにしましょうね。」
(回想終了)
何か飲んでいないと不安な人達はいる
高齢者に限らないが、何らかの薬を飲んでいないと精神的に落ち着かない人達がいる。
必要な薬ならまだしも、不要であろう薬は止めるに越したことはない。
しかし、不要な薬を減らそうとしたり止めようとしたりすると、いつの間にか外来に来なくなってしまう人達がいる。「何か薬を出してくれるお医者さん」を求めて、別の病院を訪ねているのだろう。
プラセボ(偽薬)を上手く使いこなせればいいのだろうが、それはそれで技術(話術?)を要するものであり、自分にとっては今後の課題のひとつである。
この90歳の方に自分が設定した目標は、「当院に来てくれるであろう最小限の薬の量で元気に過ごしてもらうこと」である。性急に薬を減らしてしまったら、結局他院に移ってこれまで通りの薬をもらうことになってしまうかもしれない。焦らない焦らない・・・・。
ただ、本人は恐らくもう少し薬を増やして欲しいのかもしれないが・・・
最終的にはメネシット50mgまで減らして維持出来たらと思っている。
その程度であれば、生理的に減少しているであろうドパミンを補充する意味合いはあろうし、また本人にとっては「薬をちゃんと飲んでいる」という精神的な安定に繋がるであろう。
www.ninchi-shou.com