日本医師会が、医師会の提唱する新型コロナウイルス感染防止対策を遵守する病院に対して、「みんなで安心マーク」なるポスターを発行している。
8月26日14時30分の時点で7651施設に発行されたとのこと。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関はこれまで以上に感染防止対策に取り組んでいるところですが、これまで通院されていた方、生活様式が大きく変化し不調を来した方が感染リスクを恐れて、医療機関への受診を控えたり、先延ばしするといった現状がございます。
また、お子さんの感染を心配して、予防接種を控えたり、健康診断を取りやめている方も少なくありません。
このままでは、日本の医療の良さである病気の早期発見、早期予防にも支障を来し、国民の皆様の健康にも深刻な影響を与えかねません。
このような状況に鑑み、日本医師会で、患者さんが安心して医療機関に来院できるよう、感染防止対策を徹底している医療機関に対して、『新型コロナウイルス感染症等感染防止対策実施医療機関 みんなで安心マーク』を発行することといたしました。(日本医師会HPより引用)
ポスターとチェックリストは以下。
確認したところ、
- 患者、取引業者等に対して、マスクの着用、手指衛生の適切な実施を指導しています。
- 受付における感染予防策(遮蔽物の設置等)を講じています。
- 患者間が一定の間隔が保てるよう必要な措置を講じています。
当院はこの3つを満たしていなかった。
1だが、取引業者等にマスク着用や手指衛生の指導を実施している暇がない。
2だが、受付スタッフに怖い思いをしながら働いて貰うのは本意ではなかったので、今年の2月時点で「アクリル板などの遮蔽物があった方が安心できますか?」と訊ねたのだが、
「患者さんとの間に距離感がでてしまうのは嫌なので、今のところは不要です」
とのことであったので設置しなかった。今でもしていないし、今後もすることは恐らくない。
代わりに高機能空気清浄機を設置し、換気は頻繁に行っている。マスクは患者さんたちが安心するかと考えて、ひとまず着けている。
激しく咳き込む患者さんを前に遮蔽物を置くことは、医療者が直接飛沫から自分の身を守るという点において多少の意義がないとは言わない。
ただし、当院はコロナが疑われる患者さんが押し寄せる病院ではなく、コロナ患者さんの治療を行う病院でもない。
3分診療当たり前の病院でもなく、認知症初診であれば診察に30~40分ほどかけている。
約5分の会話で発生する飛沫の量は、1回の咳で発生する飛沫の量と同程度と言われており、そうなると、30〜40分の会話で発生している飛沫は、診察室内の空気中にエアロゾルを形成するには十分な量となるであろう。
エアロゾル感染(≒空気感染)が否定できないウイルス*1に対して、一般的な遮蔽物はただのオブジェにしかならない。
これまで何もなかった空間にアクリル板のような遮蔽物を置かれると、自分であれば、相手から拒絶されているような気持ちになる。
遮蔽物を見て
「ああ、この病院は感染対策をしっかりやっているんだな」
と思う患者さんはいるのだろうが、
「ああ、ここの病院の人たちは、我々からウイルスをうつされたくないんだな」
と思う患者さんもいるだろう。
遮蔽物の存在が重要と考える患者さんは他院に。これまで通り、スタッフとの距離感を大事にしたいと考える患者さんは当院に。
好きに選んでくれたらよい。
3だが、当院の待合室でソーシャルディスタンスを徹底して貰うと、同時間帯に院内に存在できる患者さんは恐らく5名ほどになり、徹底すればするほど売り上げは減り、自分で自分の病院を潰すことになる。そんなことはしたくないので、やらない。
当院の混み合う待合室が怖いと感じる患者さんは、他院を選べば良い。
それは自分(医者)が決めることではなく、患者さんが決めることである。
「不安」になっているのは誰か?
チェックリストはあくまでも自己申告制なので、貼ろうと思えば「みんなで安心マーク」のポスターは貼れるのだが、当院では貼らない。
「ポスターが貼ってあるから、この病院は安心だ♪」と考えるほど人間心理は単純ではないし、もし今後当院からコロナ陽性者が発生したら、
「ポスターを貼っているのに、ちゃんと感染対策していなかったのか!許せん。謝罪せよ!」
と、必ず現れるであろうゼロリスクを信奉する糾弾者達に余計な”燃料”を与えることになるであろうから。
ところで、みんなで安心マークの「みんな」とは誰のことを指すのだろうか。
まさか、ナイーブなゼロリスク信奉者達のことではあるまいが、「病院でコロナをもらうんじゃないか・・・」と不安に感じている患者さん達のことだろうか。
それとも、「このままコロナで去った患者が帰ってこなかったら病院が潰れてしまう・・・」と不安に感じている病院関係者のことだろうか。
全国的に病院経営がコロナで逼迫しているという事情を考えると、恐らく後者だろう。
日本病院会など医療関係3団体は6日、今年4~6月の全国の病院の経営状況を調査したところ、回答があった約1400病院の6割以上が赤字に陥っていたと発表した。新型コロナウイルスの患者を受け入れた病院に絞ると、約8割が赤字で、感染拡大に対応する各地の病院の苦しい経営実態が浮き彫りになった。(2020年8月7日 読売新聞オンラインより引用)
ちなみに、無床クリニック*2である当院の事情を言うと、患者数の動向にコロナは全く関係がなかった。
以前からブログで書いてきたように、自分1人で診ることが出来る適正人数を(恐らく)超えて、患者数は増え続けている。
常に混み合う待合室対策として
- 患者さんに付き添うご家族は、原則1人まで
- 病状の安定した方は、できれば長期処方を
と院内掲示板に貼ったり口頭でお伝えしたりはしているが、成功しているとは言い難い。
「定期的に病院に来たい」、「医者に直接病状を伝えたい」という患者さんや家族の気持ちを、医者がコントロールすることは困難ということだ。
主体性が問われる、コロナへの向き合い方
標榜科や診療形態により初期投資額は異なるものの、多くの病院やクリニックは、多額の借金を抱えて開業し事業を営んでいく。
投資を回収し、利益を上げ続けるのが経営者の務めだが、
といった、患者さんを管理することで計画的に投資を回収し収益を上げる経営モデルは、今後苦しい展開になること必至のように思う。
患者さんの足が病院から遠のいたのは、あくまでもコロナのみが原因なのだろうか?
乳幼児の予防接種の必要性については引き続き徹底した注意喚起を行っていく必要があるが、今現在体調が悪い人は、コロナを気にしながらも必ず”どこか”の病院を受診するだろう。
その”どこか”を選ぶのは、患者さんである。*3
普段から不要不急の受診を病院から強要されていたと感じていた患者さんは、これ幸いとばかりに「主体的に」病院を替えたのではないか。多くの病院がコロナ渦で外来患者数減少に苦しむ中、逆に患者数が増えている病院もあるという事実が、そのことを物語るように思う。
また、これまで特に考えることなく、言われたとおり漫然と受診していたけれども、受診や服薬という行為そのものを「主体的に」見直した結果、通院を止めてしばらく様子をみることにした患者さんも多いのではないか。
患者さんが主体的に判断した結果を引き受けるのは、良くも悪くも患者さんである。途中で治療を止めて具合の悪くなる人もいるのだろうし、薬を飲まなくても何も変わらないことに気づいて驚く人もいるだろう。
患者さんの気持ちを医者がコントロールすることは出来ない。頼まれたら出来る範囲でサポートはするが、そもそも患者さんは医者に管理されるべき存在ではない。
もし、「いや。患者とは、医学を専門的に学んできた医者によって適切に管理されるべき存在だ」と言う医者がいるとしたら、それは患者さんを愚民視していると自白しているようなものであろう。
コロナ騒動が始まり半年以上経過したが、自称含めた専門家たちの発言の信憑性については適切に判断できる材料は山のようにあるので、各自が適宜判断して適宜行動したら良い。
コロナ渦が、医療において患者さんが主体性を持つ、または取り戻す良い切っ掛けになって欲しいと願う。