診察室という密室の中で行われる医者と患者のやり取りが表に出ることはなく、また病院の診療報酬請求が適切かどうかをチェックする支払基金も、薬の処方根拠を一つ一つ医者に質してくることは通常ない。
例えば、患者に「高血圧症」という病名を付けて降圧薬を処方すると、診療所であれば月に2回までは225点(2250円)の特定疾患療養管理料を算定することが出来るのだが、適当な理由を付けて患者に月に2回の通院を促せば、それだけで病院にとっては450点(4500円)の収入になる。
診療所に月に2回通院している人は多いと思うが、その理由を医者から聞いて納得している人はどれほどいるのだろうか。
今回紹介するAさんに対して、〇〇病院がしたことをまとめると以下のようになる。
- 認知機能テストは行わずMRIを撮影、結果説明なく抗認知症薬を最大量まで処方
- 具合が悪くなったので入院
- 入院で多数の検査を行い、更に薬を処方し、外来で維持する
心ある同業者であれば、「あぁ・・・」と思ってくれるだろう。
認知機能が危ぶまれる高齢の親の通院が心配な場合、付きそうか、または「今日は新しい薬は出なかった?」と毎回確認してあげた方が良い。
薬は全部中止して、プロルベインで元気になった70代の女性Aさん
初診時
独居。
2ヶ月前に〇〇病院に物忘れの相談に一人で行ったところ、「年齢相応でしょう」と言われたが、特に説明なくメマリーが1週間5mgずつの機械的増量で開始となった。
上限量の20mgに達した直後からめまいとふらつきで動けなくなり、失禁するようになった。
心配したご家族が〇〇病院に相談に行ったら、「では入院して治療しましょう」と入院になった。
入院時の血液検査で中性脂肪80、LDLコレステロール134という結果に対して、フィブラートとスタチン、抗血小板薬が開始となった。入院中に家族への説明は一切なし。
状態は改善しないまま1週間後に退院となったが、外来で始まったメマリー20mgや、入院中に開始された薬剤も全てそのままだった。
退院したその日に、普段は穏やかなAさんが「私はもうダメだ!!」と猛烈に怒り出した。
何がダメなのかは分からなかったが、危機感を感じた家族が全ての薬剤を中止。しばらくすると、以前のAさんに戻った。
衰えを緩やかにする工夫が聞きたいとのことで来院。
年齢よりは老けて見えるが笑顔の可愛らしい方。すり足歩行。
(診察所見)
HDS-R:16
遅延再生:0
立方体模写:OK
ダブルペンタゴン:OK
時計描画テスト:長針と短針が逆
IADL:4
改訂クリクトン尺度:12
Zarit:9
GDS:3
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状: 0/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 0/6
語義失語:なし
頭部CT所見:PVLと白質変化が強くICA硬化性変化もあり
介護保険:要介護1だがサービス利用なし
胃切除:なし
歩行障害:すり足
排尿障害:頻尿あり?
易怒性:なし
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
その他:VaD
(考察)
Aさんは元々心配症とのこと。夕方以降不安になると家族に電話をしてくる。遅延再生0は重視すべきでアルツハイマーらしさは感じられるものの、年齢に比してやや不相応に老けて見えることは気になる。血管性の要素が強いのだろう。
狭心症の既往があるも詳細は不明。一時期は投薬を受けていたようだ。薬局照会はしてみるか。次回は心電図もとってみるかな。
GDSは3と抑うつ傾向とは言えないが、PVL(脳室周囲低吸収域)と主幹動脈硬化性変化、及び白質変化を重視してプロルベイン朝夕2カプセルずつ服用を推奨。人参養栄湯も検討する。デイサービス見学を勧め、通所で下肢筋力向上を図っていく。
3週間後
心電図は左脚前枝ブロック。次回は心エコーかな。一度はしておきたい。
胸部レントゲンは問題なし。
2ヶ月前とは段違い、先月の当院受診時と比較しても大幅に活気上昇ありと。
庭に出て積極的に草むしりをしたりすると。表情も良い。家族はプロルベインの効果を強く実感している。
4C2Xで維持。
当面処方なしで様子観察しましょう。食欲と体重には気をつけましょう。元気が出始めてきたので、デイサービスは今はまだいいかなと娘さん。
次回は2ヶ月後に。採血はその次で。
(前医処方)
- メマリーOD(20)1T1X朝食後
- ベザフィブラートSR(200)1T1X朝食後
- リピトール(5)1T1X朝食後
- プレタールOD(50)1T1X朝食後
- アジルバ(20)1T1X朝食後
- メインテート(5)1T1X朝食後
- ゼチーア(10)1T1X朝食後
- リマプロスト(5)3T3X朝食後
(当院処方)
何もなし
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