今回は、抑肝散・抑肝散加陳皮半夏の使い方を紹介する。
効能効果については、添付文書には
とある。
小学生以下に処方した経験はないが、イライラしやすい中高生、更年期女性、高齢認知症患者には多用してきた。
漢方薬であるが故に抗精神病薬よりはハードルが低く感じられるのであろう、認知機能の衰えた「怒りっぽい」高齢者に頻用されている印象が強い。
ただし、「怒りっぽい」というだけで処方され、効果の検証なく漫然と投与されている例を数多く見かける。
抑肝散の副作用
抑肝散は比較的安全な漢方薬だが、副作用がゼロというわけではない。
早い人だと1週間ほどで効果が見られるので、2週間〜6週間ぐらい使って効果が感じられなければ止めている。どんな薬でもそうだろうが、効果の検証なくダラダラ使い続けるのはよろしくない。
抑肝散で経験する代表的な副作用は「低カリウム血症」である。K3.0程度の軽度なものも含めると、体感ではおよそ2割ぐらいに出現している印象である。
抑肝散には「甘草(グリチルリチン)」という成分が含まれているが、甘草を過剰に摂取するとナトリウム(Na)は上昇しカリウム(K)排泄は促進され、その結果
などが出現する。
甘草への反応は個体差が大きく一概には言えないが、「体重40kg前後で華奢な高齢女性」に朝昼夕で3包使うようなことはしていない。
Kが低くなると、不整脈や心筋障害のリスクが上昇する。これは生命に直結するため、抑肝散処方後は定期的に血液検査でモニターする必要がある。
2.0 mEq/Lを下回るような高度低下を来すことは稀だが(入院レベル)、2.5mEq/L前後なら外来ではザラに経験する。
低Kは歩行障害で見抜ける場合があるので、抑肝散処方後に患者さんがふらつくようになったら、すぐにKをチェックしている。
他には、食欲低下や意欲低下も比較的多く経験する。基本的には鎮静的な薬なので、鎮静されすぎると食欲意欲低下をきたす、ということだ。
「低Kはきたしているけれども、怒りっぽさは相当和らいでもいる」という場合はちょっと悩ましいが、アスパラカリウムなどのK製剤を併用して抑肝散を継続することはある。
ちなみに甘草は、抑肝散だけではなく漢方方剤の約7割に含まれている成分である。
ここで、介護関係者へアドバイス。
医学的な定義ではカリウム3.5mEq/L以下を低K血症と呼ぶが、漢方薬を飲んでいる利用者さんがもしフラフラしていたら、その漢方薬に甘草が含まれているのかを念のために確認し、もし甘草が含まれていたら直近の採血データを確認しよう。
3~3.5mEq/L程度でふらつくことは殆どないが、3未満であれば低K血症の可能性を一応は疑った方が良い。
どのような患者に適しているか
処方する際に、抑肝散証として腹部所見で胸脇苦満*1や臍傍悸*2が確認出来たら心強いが、認知機能の衰えた高齢者の腹部所見をとることは難しく、省略することがほとんどである。
代わりに、以下のような患者さんの印象で処方しているが、奏効率はそれなりに高いと感じている。
- イライラしていることが多い
- 不安そうにしていることが多い
- 怒ることがあるが、その理由は荒唐無稽とは言えない
- 怒りの背景に、何らかの不安がありそう
- 以前から、怒りを溜め込みやすい性格だった
個人的には、3はかなり重視している。例えば、
高齢で痩せたアルツハイマー型認知症の女性。普段から不安が多く、イライラしている。オムツ交換をしようとすると、『なんでそんなことするの!』と激しく抵抗する。
というケースでは、抑肝散は効きやすい印象を持っている。
時間や場所の見当識低下に伴う不安が常にあり、排泄の失敗は短期記憶低下のため覚えていられず、自分では失敗はないと思っている。なのに、排泄というデリケートかつプライベートな領域に他者が介入しようとしてくる。
「そんなところを・・・恥ずかしいでしょ!」となって当たり前だろう。「荒唐無稽とは言えない」とは、そういう意味である。
ところで、抑肝散に陳皮と半夏を加えた「抑肝散加陳皮半夏」という漢方薬もある。
気力体力の低下した超高齢者の場合、消化器に配慮した生薬である陳皮と半夏を加えた抑肝散加陳皮半夏の方が合っていることが多い。
自分は、一包あたりの量が多いクラシエの抑肝散加陳皮半夏(KB-83)を好んで使うことが多い。夕方症候群や睡眠対策、夜間幻視軽減対策であれば、KB-83を1日1回夕方使うだけで十分なこともある。
ちなみに、抑肝散加陳皮半夏は生薬の構成が加味逍遙散と似ているので、「この人が更年期だったら、加味逍遙散があうだろうなぁ」と感じる人に処方してみることもある。
加味逍遙散が効きやすい人とは、「緊張してイライラし不安になりやすく、不安で色々なことが取り留めなく気になってしまう」人である。
抑肝散・抑肝散加陳皮半夏について、ザッとまとめてみた。
参考になれば幸いである。
【症例報告】減薬、トラゾドン、機を見ての抑肝散加陳皮半夏で落ちついた94歳女性。 - 鹿児島認知症ブログ