鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

アリセプトの23mg製剤、日本での認可はどうなる?

 欧米ではその有効性が実証されている(らしい)アリセプト23mg。

アメリカでは2010年に承認取得、アジアでは韓国が2013年に承認取得している。

 

アリセプト23mg

 (上記画像はこちらよりお借りしました)

 

人種差や体格差などから、欧米人がアジア人よりも高用量を許容できる可能性はあるだろうが、果たして副作用も許容出来うるものなのだろうか?

 

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高用量のドネペジル徐放性製剤は、日本人に対して効果的?副作用は?

 

Journal of Alzheimer's diseaseに、 以下の報告が上がっていた。

 

content.iospress.com

 

アリセプト10mg群(166例)と、10mgから23mgへ切り替えた群(185例)を比較した研究。

 

結果だが、アリセプトを10mgから23mgに増量した群における有害事象は主に食欲低下などの消化器症状であったが、その安全性に関してはこれまでに言及されているものと代わりはなかったとのこと。ただ、下記下線部の

 

  Common adverse events in the SR 23 mg group were decreased appetite, vomiting, diarrhea, and contusion.

 

が気になった。

 

contusionとは挫傷のことで、脳外科では通常「脳挫傷」を意味する。脳挫傷は外傷や手術、つまり機械的刺激で起きるものだが、これがアリセプト高用量内服で起きたということなのか?ここがちょっとよくわからなかった。

 

  IR 10 mg/day donepezil is the optimal dosage for Japanese patients with SAD.

 

「23mgは有効性おいて10mgよりも優れているとは言えず、日本人の高度なアルツハイマー病患者にとっては10mgが最適な用量ではないか」という結果。

 

有効性の評価については、以下の2項目が使用されている。エーザイHPより引用。

 

SIB(Severe Impairment Battery)

 

高度に障害された認知機能を評価するための検査。社会的相互行為、記憶、見当識、注意、実行、視空間能力、言語、構成、名前への志向の9項目から構成され、患者との面接により評価する。得点の範囲は100~0点(正常→重度)である。

 

CIBIC plus(the Clinician's Interview-Based Impression of Change plus caregiver input)

 

患者及び介護者との面接により、全般的な臨床症状の変化を評価するための検査。状態のあらまし、認知機能、行動、日常生活動作能力の4領域の患者の状態を、「1.大幅な改善」~「7.大幅な悪化」及び「判定不能」で評価する。

 

レビー小体型認知症に対するアリセプト添付文書に感じる懸念

 

アリセプトの後発品が市場に出てから売り上げを落としているであろうエーザイとしては、23mg製剤の日本国内における認可取得には力を入れているだろう。

 

今回の論文は本間先生が中心になってまとめているようなので、それなりの影響力を持つと思う。それでも23mg製剤が認可されるとしたら、その理由には非常に興味をそそられるし、また添付文書にはどのような文言が記載されるのかも気になる。

 

ところで、アリセプトは2014年にレビー小体型認知症に対する適応を取得している。

 

www.ninchi-shou.com

 

そして添付文書の用量用法欄は以下のような記載である。

 

  通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により5mgまで減量できる

 

一方、アルツハイマーに対する用量用法欄は以下。

 

  通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により適宜減量する

 

赤文字強調の部分を比べて頂きたい。レビー小体型認知症に対しては、10mgへの増量が義務づけられ、減らす場合も5mgまでしか許可されない、そのような印象である。

 

一方、アルツハイマー型認知症に対しては10mgへの増量は「高度のアルツハイマー」と制限がかかっており、また「症状により適宜減量する」とあるように、処方量の柔軟性も一応は担保されているように思える。

 

ちなみに、レビー小体型認知症の示唆的特徴の一つに「向精神薬などへの顕著な過敏性」が挙げられるが、これは何も向精神薬に限ったものではなく、PLなどの総合感冒薬(抗ヒスタミン成分含有)や治療薬であるはずのアリセプトにすら過敏性を示す方もいる。

 

では何故、薬剤過敏性を特徴に持つレビー小体型認知症に対するアリセプトの添付文書が、アルツハイマー型認知症に対するそれよりも厳しくなっているのか。

 

国内第三相試験で、プラセボと比較して有意差が出たのが10mgだけだったから

 

という理由からである。

 

以下はエーザイの製品情報概要から抜粋。

 

  (結果1)MMSEスコアの最終時の変化量のプラセボ群との差は、5mg群、10mg群それぞれ0.8点、1.6点であり、10mg群でプラセボ群と比較して有意な改善が認められた

 

  (結果2)幻覚、認知機能変動を評価するNPI-2スコアの最終時の変化量のプラセボ群との差は、5mg群、10mg群それぞれ0.4点、-0.7点であり、両群ともにプラセボ群との間に有意差は認められなかった。なお、最終時におけるベースラインからの平均変化量は、プラセボ群で−2.1±0.6点、5mg群で−1.8±0.6点、10mgで−2.8±0.5点であった。

 

主要項目は認知機能をMMSEで、精神症状をNPI-2で評価。

副次項目は精神症状NPI-10で、介護者負担度をZarit介護者負担尺度とNPI-Dで評価しているのだが、この中で有意改善があったのは10mg群におけるMMSEのみ。

 

ひとまずMMSEのみだが有意差が出たのが10mg群だったから、添付文書でも10mgまで上げさせるような記載になったと思われる。「10mgでやっと効くのだから、みんな10mgまで増量しなさい」ということなのだろう。

 

ところで、認知機能の変動を評価するNPI-2で有意差がつかなかったのは、かなり重要なポイントだと思う。これは、アリセプトに認知機能の変動を改善させる効果は認められなかったということである。

 

レビー小体型認知症の傾眠傾向や低活動性せん妄は有名な症状だが、認知機能が変動している状況でMMSEを行って、果たして正確に評価が出来るのだろうか?

 

被検者全てがしっかりと覚醒している状況で行われたMMSEなのだろうか?何故10mg群だけ、しかもMMSEのみ有意差が出たのであろうか?

 

疑問は尽きないが、未だにエーザイからは納得のいく説明は聞けていない。

 

もし23mg製剤が発売されたら、自分なら使うだろうか?

 

今のところ、まず使うことはないだろうと思っている。

 

高用量製剤が発売される背景には

 

「アセチルコリンがどんどん減っていくのであれば、どんどん足してあげたらいいんじゃないの? 」

 

という、いわゆる「足し算診療」の発想があるように思う。

 

その他には、成分含有量が多いほど薬価も高くなるし、また後発品発売で失いつつある軽度~中等度のアルツハイマー型認知症の抗認知症薬市場を、今度は高度アルツハイマー型認知症の領域で再獲得したいという考えもあるのだろう。

 

「足し算診療」では早晩頭打ちになるという現実は、現場の多くの医師が感じていることだと思う。

 

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一旦引いてみることが大事なのだが、そのような薬の使い方を製薬メーカーが積極的に勧めるはずがないことを考えると、やはり最適な用量については自分で考え、患者さんをよく観察して決めなければと思う次第。