〇〇にハサミは持たせるな。
チェックツールによる簡易診断、即、投薬の危険性について。

(いらすとかにて作成)
昨年、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤先生*1が、認知症の簡易診断「TOP-Q」について鹿児島で講演された。
www.qlifepro.com
以下、上記リンクより抜粋引用。
TOP-Qは、2項目の問診と3つの観察点から2~3分で実施できる認知症診断法。問診2項目は時事計算・誕生日記憶と山口式キツネ・ハト模倣テストからなる。時事計算は、ほぼ50年前、ほぼ5年後に起きる事象などを尋ねる(例:50年前の東京オリンピックの時、5年後の東京オリンピックの時、それぞれ何歳?)。誕生日は相手の誕生日を尋ねるもの。山口式キツネ・ハト模倣テストは、群馬大学大学院保健学研究科教授の山口晴保氏が考案した影絵のキツネ、ハトの形を医師が手で作り、それを真似させるもの。キツネの形は重度認知症ではほぼできないことが多く、ハトについては軽度認知症でも多くが間違え、軽度認知障害(MCI)でも約半数が間違えるといわれている。
「TOP-Qは、日常の忙しい診療の中で簡便に使えるツールとして有用」という内容であった。
診断の要点を押さえた良いツールだと思ったが、同時に「このツールのみで認知症と診断して、ホイホイ抗認知症薬を処方する医者が出てくるのでは?」という懸念も抱いた。
そして、その心配は的中した。
80代女性 他院で認知症の診断を受けたが・・・
以下、あるクリニックの外来で行われたことを、ご本人と娘さんの証言を基に再現する。
(再現開始)
以前ご主人が通院していた自宅近くのクリニックに、過去のご主人の診療情報を貰いに行った奥さん(以下Aさん)。
そこで、医者から突然、
「前の東京オリンピックの時、あなたは幾つだった?次の東京オリンピックの時は幾つになるの?」
と聞かれた。突然の質問に動揺したAさんは、しどろもどろになった。そこに続けて
「じゃあ、手をまっすぐ前に出してみて目をつぶって。ハイ。次は手で狐のマークをつくってみて。」
と指示され、マゴマゴして娘さんの方を振り返ったところ、
「ああ、やっぱりアナタは認知症ですね。このテストは認知症を検出する優れたテストで、しっかりしたエビデンスがあります。お薬出しときますから飲んでくださいね。飲まないと、いずれ寝たきりになりますよ。ハイ、1ヶ月分。」
と、抗認知症薬を処方された。
(再現終了)
( ゚д゚)ポカーンであるが、コレ本当の話。
娘さんは「流石にこれはない!」と思い、当院に連絡してお母さんを連れて来られた。
当院での診察結果は、以下。
- 長谷川式テストは30点満点の30点
- 礼節を保ち、語義失語もなく、パーキンソニズムもなし
- 透視立方体模写と時計描画テストは完璧
- 頭部CTで海馬の萎縮は目立たず、わずかにシルビウス裂拡大はあるものの、正常圧水頭症を疑うようなすり足歩行や頻尿などもなし
- 年齢からくる衰えの自覚はあるものの、日常生活は自立し夫の介護をしている
どう大げさに見積もっても、認知症とは診断しようがなかった。
幸いにも、以前からその医者に対する不信感はあったようで、出された抗認知症薬は飲んでいなかった。*2
当方からは、
- 出された抗認知症薬は飲まないように
- 今後そのクリニックには近づかないように*3
ということをお伝えしたところ、「あんなことがあるんですね。恐い思いをしました(笑)」と笑ってご帰宅された。
- TOP-Qには、〇〇のようなエビデンスがある!
- 抗認知症薬には、〇〇のようなエビデンスがある!
他人のエビデンスを盲信するあまり、目の前の患者さんが見えなくなってはマズイでしょうに。
しかも今回のケースでは、「自分のお困り事」で相談に来たわけではない人に対して、つまり「患者さん」ですらない人に対しての所行である。
想像を絶するお医者さんが、世の中にはいるもんです。皆さん、気をつけましょう。