「物忘れの相談に行ったら、初診でこのような処方が出ました。大丈夫でしょうか?」
ある患者さんとそのご家族が、相談に来られた。
その時見せて頂いたお薬手帳が以下。
いわゆる、「添付文書の増量規定に則った、メマリーの機械的増量」である。
添付文書は以下。
上記処方箋は、この添付文書通りの処方である。
この処方の仕方は、何かマズイの?
この方を診察した医師の診断はアルツハイマー型認知症。
メマリーはアルツハイマー型認知症に適応のある薬剤なので、診断に基づいて処方したということである。
だが、自分の見立てではこの方の診断はレビー小体型認知症。
- 明瞭な幻視
- 日中の傾眠傾向
- 調子の波が大きい
- 風邪薬で眠くなりやすい
このような訴えや症状を聞いて、「ああ、アルツハイマー型認知症ですね!」とはし難い。少なくとも、積極的に【アルツハイマー型認知症>レビー小体型認知症】とする要素はないと思う。
そもそも何故当院を受診したかというと、
- 家族から見て、アルツハイマー型認知症の要素をあまり感じなかった(勉強している家族であった)
- 受診初日で抗認知症薬が2種類処方されたが、果たして本当に大丈夫なのか心配になった
- 薬の効果や副作用についての説明が一切無かったことで不安になった
このような理由からであった。
処方を受けて数日で来院されたので、今のところメマリーは最小量5mgのまま。特に変化は感じていないとのことであった
ご本人とご家族には
「レビー小体型認知症の可能性が高いと思う。薬剤過敏があるかもしれないので、1週間ごとの増量で副作用が出ることがあるかもしれない。おかしいと感じたら、増量前の量に戻すように。当院からかかりつけ医に情報提供書を郵送しておきます。」
このように説明し、幻視対策には抑肝散を処方して初回診療を終了した。
ちなみに、レビー小体型認知症だからレミニールやメマリーを絶対に使わない、という訳ではない。用量用法に四苦八苦しながら、皆恐らく様々な工夫をしていると思う。しかし、少なくともレビー小体型認知症と診断したうえで初回から2剤併用、しかも機械的増量をすることは通常ないと思う(思いたい)。
誰しも間違う可能性があるからこそ、機械的増量は止めた方がいいのではないだろうか?
自分の場合、他の認知症の可能性を除外した後でアルツハイマー型認知症の可能性を考えるようにしている。
それなりの自信をもってアルツハイマーと診断した場合でも、添付文書通りの機械的増量を行うことはまずしない。
何故なら、自分の診断が間違っている可能性はゼロではないからである。
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添付文書はあくまでも「医師が正確に診断している」という前提で作られたものだが、診断が正しくても添付文書に従うと危ないことがある。これは結構厄介だ。
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医師が正確に診断しているかどうかは、一般の方には中々分からないものである。医師にしても、自分の診断が合っているのかどうか不安になることは多々ある(自分の場合)。
生前に病理組織で確定診断を付けられない以上、認知症の診断は常に間違う可能性がある。そして診断するのが人間である以上、間違う可能性があるのは当然である。
二重に間違う可能性があるのに、「正確な診断」を前提とした添付文書に則った増量規定を医師に強いることには無理があるのではないだろうか。*1
そして、その無理を通したときに被害を被るのは、医者ではなく患者さんや家族なのである。