今回紹介するのは、薬物乱用頭痛(medication overuse headache :MOH)に嵌まり、毎日のように市販鎮痛薬のイブを服用していたAさん(女性)である。多い日は一日3錠飲むこともあったそう。
薬物乱用頭痛とは、通常は急性期に使用する頭痛治療薬を乱用することにより、逆に頭痛が増強される、または新規に頭痛が出現するようになった病態のことで、簡単に言うと
【MOH】=【痛み止めの飲み過ぎで、逆に頭痛が悪化している状態】
である。
外来では
- 頭痛が悪化した状態・・・月に15日以上頭痛がある状態
- 痛み止めの飲み過ぎ・・・月に10日以上、鎮痛薬を飲んでいる
上記2点を満たせば、MOHと診断している。
MOHと診断した後に行うのは、以下の3つ。
- 原因薬物の中止
- 薬物中止後に起こる頭痛への対応
- 予防薬の投与
原因薬物の服用中止だけで、半年以内に約70%の症例で改善が認められるも、1年以上の長期予後では約40%が再び薬物乱用に陥るとされるが、それは2と3への対処が足りないことが主な原因と思われる。
片頭痛予防薬としては、ミグシスやデパケン、インデラル、トリプタノールなどがガイドラインで推奨されているが、自分の外来で圧倒的に使用頻度が高いのは漢方薬である。
Aさんは、片頭痛をベースに緊張型頭痛と天気頭痛、月経関連頭痛が合併してMOHとなっていた。このようなMOHをミグシスなどの片頭痛予防薬のみで押さえ込むのは、経験上ほとんど不可能である。
AさんのMOHに対して自分が行った取り組みは以下。
- イブの内服を極力我慢してもらう約束をし(対処1)、
- 冷え症があり嘔気を伴う片頭痛および月経関連頭痛への対処に当帰四逆加呉茱萸生姜湯を、緊張型頭痛にノイロトロピンを定期内服する(対処3)
- 拍動性頭痛の出現時には呉茱萸湯を、拍動性以外の頭痛時には五苓散とナウゼリンを併用する(対処2)
3ヶ月後、この工夫でAさんの頭痛は月に5回に激減し、頭痛でイブを飲むことはなくなった。
ちなみに、緊張型頭痛には近赤外線照射装置(スーパーライザー)を併用しており、これも奏功したと思われる。
30代女性 薬物乱用頭痛
初診時
既往歴)
・BP: 116/64
・HR: 65
・これまでにない激しい頭痛)いいえ
・薬物乱用)あり 最低週に5錠、多いときには連日3錠イブを飲む
・天候左右性)ありあり
・冷え症)あり
・炭水化物依存)なし
・タンパク不足の可能性)なさそう
・過去に貧血の指摘)なし
・肩こり)ありあり
・朝の弱さ)なし
・歯ぎしり)あり
・拍動性)あり
・随伴症状)嘔気・光音刺激・臭い刺激・流涙鼻汁
・前兆)なし
・過去に試して効かなかった薬)イミグラン・アマージ
(経過)
知人の勧めで遠方より来院。20代からの頭痛。
片頭痛薬のトリプタンはアマージとイミグランを既に試し済みだが、いずれも服用直後に発汗と生あくびが強烈に出るため継続困難で脱落。
頭部CTや採血の希望はなし。
病型診断は、片頭痛+緊張型頭痛+月経関連頭痛+天気頭痛によるMOHかな。
(対応)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯+NTをベースにして天気頭痛時には五苓散2P、拍動性頭痛時には五苓散+呉茱萸湯を使い、MOH脱却を狙っていく。出来れば採血もしたいところだが。
両肩と両後頚部にSL(スーパーライザー)。
SL後、「少し楽になった」と。
3週間後
診察前に両肩と両後頚部にSL。
前回受診から3週間。頭痛でイブを飲んだのは1回だけ。生理痛には6~9T飲んだと。
天気頭痛で五苓散2Pが著効。その後1Pを試すもやはり著効。
拍動性頭痛に五苓散+呉茱萸湯を2回試し、いずれも著効。
良い感じ。
次回は直近の健康診断結果持参を。貧血を指摘されたことはないが、経血量はかなり多く生理痛は重いのだと。
4週間後
診察前に両肩と両後頚部にSL。
片頭痛時の呉茱萸湯+五苓散が2回空振りしてイブを追加で飲んだ。
嘔気は必発のようなので、同時にナウゼリンも飲んでもらう。
今まで重かった生理痛が、今回は楽だったと。
これは当帰四逆加呉茱萸生姜湯の効果かな。今年の冬の冷えにも注目。
五苓散、NTには確実な効果を実感出来ている。
初診から3ヶ月後
診察前に両肩と両後頚部にSL。
頭痛の頻度は月5回だった。頭痛でイブを飲むことはなかった。MOHは完全に卒業出来たかな。
今回は、頭痛時の五苓散+ナウゼリンがとても良かったと。メインの頓服は五苓散で良いだろうが、念のために呉茱萸湯も3回分だけ処方しておく。
良かったですね。
(最終処方)
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯2P2X
- ノイロトロピン4T2X
- 呉茱萸湯 拍動性頭痛時に1P
- 五苓散+ナウゼリン 拍動性以外の頭痛時に
www.ninchi-shou.com
www.ninchi-shou.com