鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

薬物乱用頭痛について。

 外来で頭痛の患者さんを診ていると、薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache:MOH)に結構な頻度で遭遇する。

 

MOHとは、頭痛患者*1が鎮痛剤を不適切に乱用することにより、頭痛が増強、または次の頭痛を呼び込んでしまう病態のことである。

 

国際頭痛分類による最新の定義(ICHD-3β)は以下。

 

  • A.以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛は 1 ヵ月に 15 日以上存在する
  • B.1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を 3 ヵ月を超えて定期的に乱用している
  • C.ほかに最適な ICHD-3 の診断がない

 

概ね「何らかの頭痛薬を月に10~15日以上飲んでいる」方であれば、薬物乱用型頭痛の要素ありと見做して対処している。

16歳女性(HN) 片頭痛+天候左右性頭痛で薬物乱用頭痛

 

初診時

 

小学校6年生の頃から片頭痛が始まった。

 

一時期は〇〇脳神経外科でマクサルト、ナイキサン、セレニカ400mgを内服するも、マクサルトやナイキサンの効果はよくわからず、予防薬のセレニカは猛烈な嘔気を催したとのことで、この5ヶ月ほど通院は途絶えていた。

 

現在、毎日のようにイブを内服。そこそこ効くとのころ。初期は天候左右性があったようだが、今は薬物乱用要素で天候左右要素がマスクされているのだろう。

 

頭部CTは特記所見なし。呉茱萸湯開始。散剤は苦手とのことだが、頑張ってオブラートで飲んで下さいね。次回は採血結果説明。

 

1ヶ月後

 

呉茱萸湯で、ひどい頭痛は激減しているようだ。毎日のようにイブを飲んでいたが、今は頭痛の自覚はあっても鎮痛剤を飲むほどではないとのことで使用せずに済んでいる。

 

(採血結果)

 

  • 血色素量(HB):13.6g/dl
  • MCV:84.0fl
  • AST(GOT):11IU/l
  • ALT(GPT):8IU/l
  • γ-GTP:13IU/l
  • 中性脂肪(TG): 216mg/dl
  • 尿素窒素:8.9mg/dl
  • フェリチン定量:36.3ng/ml
  • ビタミンB12:268pg/ml

 

尿素窒素低値を改善すべく高タンパク食、TG高値を是正すべく低炭水化物を意識した食事で頑張れば、現在十分とは言えないフェリチンやB12の数値もいずれは上がってくるかな。ここは、現時点ではサプリや処方による介入は不要だろう。

 

次回は2ヶ月後。良かったですね。

 

(引用終了)

 

頭痛薬の工夫について

 

薬物乱用型頭痛から抜け出すためには、薬物の乱用を止める、つまり鎮痛剤の回数を減らすことが重要である。しかし、代替案なく「鎮痛薬を減らして」と言われても、なかなか患者さん達は納得できない。

 

このような時、自分は呉茱萸湯か五苓散を使うことが多い。

 

  • 元々が片頭痛持ちで、それを拗らせてしまった方であれば呉茱萸湯
  • 露骨に天気の影響を受ける人であれば五苓散


大まかには、このように使い分けている。五苓散は一回2包で頓服で使うことも多い。高齢者では、釣藤散の出番が多くなる印象である。

 

www.ninchi-shou.com

 

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頭痛の頻度を減らすための予防薬としては、漢方以外にはミグシス(Ca拮抗薬)やプロプラノロール(βブロッカー)、デパケン(抗てんかん薬)、トリプタノール(抗うつ薬)などがあるが、いずれも以下の様な副作用に注意が必要な薬剤であるため、出来れば使わずに済めばそれに越したことはない。*2

 

  • ミグシス→抑うつ
  • プロプラノロール→低血圧、多彩な薬物相互作用
  • デパケン→眠気、妊娠時の高い催奇形性
  • トリプタノール→眠気、ふらつき

 

頭痛が頻発する方の、食事の工夫

 

その他、明らかな糖質過剰摂取が確認出来たら、その是正(≒糖質制限)について話をする。

 

片頭痛の発作が頻繁に出ている方は、

 

  • 赤ワイン(アルコール、ポリフェノール、チラミン)
  • ベーコンやソーセージ(亜硝酸化合物)
  • チョコレートやチーズ、ココア(チラミン)

 

これらの摂取は控えた方がよいと、頭痛の教科書には書かれている。()内の成分が刺激となって、頭痛を惹起するという理由からである。

 

しかし、外来でみている限りでは、これらの害よりも糖質過剰摂取の害の方が影響が大きいように感じることが多い。

 

ご飯やパン、麺類といった主食を減らし、相対的に脂質タンパク質摂取を増やした方達の頭痛が改善していく様子をみると、上記の様な"頭痛を惹起すると言われる刺激物"は、あくまでも炭水化物の日常的摂取が前提にあっての刺激物であり、その前提を外してみたら刺激物にはならない可能性があるのでは?と思えてくる。

 

実際に、これまでワインを飲むと頭痛が必発だった女性患者さんが、糖質制限高タンパク食をしばらく続けて頭痛が激減し、久しぶりに赤ワインを飲んでも頭痛が全く出なかった、という事例を経験したことがある。

 

同様のことは、いわゆる「チャイニーズレストラン・シンドローム*3」にも当てはまるかもしれない。

 

ということで、自分の頭痛外来での栄養指導の優先順位は、「糖質制限>>>従来の刺激物」となっている。

 

その他、頭痛患者さん(特に女性)の採血で低フェリチンが確認出来たら鉄補充をお勧めしている。低フェリチンの基準はおおよそ30未満としている。

 

これらの栄養指導により、短期間で頭痛が激減する方は結構いる。薬の工夫は重要だが、中長期的にみて、また薬を少なくする工夫の一環として、栄養面での是正が最も重要であることは言うまでもない。

 


Bad Day. flickr photo by Nina A. J. G. shared under a Creative Commons (BY-ND) license

*1:「以前から頭痛疾患をもつ患者」という点が重要。片頭痛や肩こり由来の緊張型頭痛などの、薬物乱用に至る前提としての頭痛の存在が必須であって、元々何もない人が鎮痛薬を飲み過ぎて薬物乱用型頭痛になるということではない。

*2:すべての片頭痛予防薬を、初診時に処方するお医者さんを知っている。様子を見ながら徐々に減らしていくのだそうだが、この話を聞いたときにはのけぞった記憶がある。

*3:中華料理店で頻繁に使われるうま味調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムが、頭痛や発汗、顔面紅潮などの症状を惹起する、という説。