鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】抗認知症薬ドネペジルによる発汗過多と血圧低下。

 

今日も今日とてドネペジルの減量に励んでいるが、今回紹介するのは、過量のドネペジルで易怒性亢進・発汗過多血圧低下を来していた80代後半の女性。

 

コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン)の過量投与による易怒性亢進や消化器症状は有名だが、発汗過多や血圧低下、また徐脈や呼吸抑制といった致命的な副作用は、どれほど気づかれていることか。

 

易怒性亢進の影に隠れて見逃されていることは、実はかなりあるのかもしれない。

 

80代後半女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時

 

(現病歴)

2年前からもの忘れが気になり〇〇病院を受診。ATDの診断でドネペジル3mgが開始となったが、改善なく10mgまで増量された。

 

最近はちょっとしたことで夫婦げんかになる。同伴したご主人は90歳を越えているが、お元気でしっかりしている。

 

診察なしで1年間同じ処方が続いたことに不信感を頂いた家族がもの忘れの進行を訴えたところ、主治医の「そうですか」という返答とともにメマリーが開始となり、20mgまで増量されるも良い変化はなし。

 

夜が眠れず大量に汗をかくと。日中も臥床傾向。
〇〇病院には当院受診のことを告げて来院。

 

(診察所見)
HDS-R:10.5
遅延再生:1
立方体模写:不可
時計描画テスト:不可
IADL:1
改訂クリクトン尺度:25
Zarit:24
GDS:2
保続:なし
取り繕い:ありあり
病識:なしなし
迷子:なし
DLB中核症状: 0/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 4/6
語義失語:なし
頭部CT所見:円蓋部萎縮 海馬萎縮は目立たず
介護保険:要介護2 月水金デイサービス 
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:頻尿
易怒性:時に
過度の傾眠:時に

(診断)
ATD:〇
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

この数年で立て続けに姉妹を亡くし、一気に衰えたのだと。

 

診察中は成人したお孫さんが横に付き添い声掛けをし続けている。家族受け入れはかなり良さそう。ひ孫ちゃんもいるのだと。

 

取り繕いで社交的な印象はあり明るさは持ち合わせているが病識なし。ATDでいいだろう。ご希望あり当院引っ越し。

 

ドネペジル10mgを5mgに減量。朝のメマリー20mgは夕方に回し、睡眠対策を兼ねさせる。


sBP100と血圧はかなり低いが、ドネペジル過剰の影響は?アムロジピン2.5mgはひとまず中止。

 

眠剤はエチゾラムからレンドルミンに変更。バイアスピリンは処方理由不明で恐らく不要だが一旦残す。

 

寝汗が凄いらしいが、これもドネペジル過剰の影響を考える。次回は食欲を確認して人参養栄湯の検討を。ドネペジルは最終的には中止かな。

 

お財布が許せばフェルガード100Mを推奨。

 

2週間後

 

夜がよく眠れるようになった。汗をかいて6回ぐらい着替えていたのが3回になって洗濯回数が減ったと。食欲はあり水分もとれているとのことで、人参養栄湯は見送る。

 

デイでの血圧は、まだsBPで100ぐらいと。アムロジピンはこのまま中止でいいだろう。


ドネペジル5mgへの減量で意欲や活気の低下はきたしていない。更に3mgに減らそう。

 

当方の顔は覚えていてくれた。同伴ご家族も皆笑顔。
足背浮腫はメドマーで対応を。

 

次回は1ヶ月後。

 

1ヶ月後

 

先日、久しぶりに茶碗を洗っていた。活気低下なく良い感じ。易怒性もない

 

ご主人は今ぐらいで良いと考えている。
ドネペジルは1.5mgに減量。以降は維持かな。2ヶ月後に採血を。

 

1ヶ月後

 

ドネペジル1.5mgへの減量で意欲や活気の低下はなかったと。夜間睡眠良好で寝汗はなくなった。食欲も良好と。


デイは週3回、楽しく行けている。茶碗拭き、味噌汁作りなど。それ以外の日は横になったりのんびり。

 

2日分処方に余裕を持たせる。


今回は維持。来年以降でメマリー減量に取り組むかどうか。少なくとも悪影響はなさそう。次回は採血。

 

1ヶ月後

 

著変無く経過中。

 

一回だけ便の排泄失敗があった。
もの探し、しまい込みは増えたかなと。家族の表情には余裕あり。


今日は採血。

 

1ヶ月後

 

「ダメになった・よくわからない、という発言が増えた。娘さん達が帰ろうとすると寂しそうなのだと。今朝は尿失禁があったと。

 

家族は食事量を心配しているが、デイでは全量摂取出来ている。
ご主人が心配故か、よく口を出し口論になると。父にもっと余裕が欲しいと娘さん達。

 

(採血結果)


血小板数:1.4×10^4/μl

前回採血でPLTのみ極低値だが紫斑や皮下血腫などなにもなし。緊急通報もなかった。

 

(採血1ヶ月後フォロー)


血小板数:189x10^3/uL

念のための当院採血では正常値。エラーだったのか、それとも、EDTA偽性血小板減少症だったのか。

 

1ヶ月後

 

尿便失禁で下着を汚すことが増えた。
パッドは付けたがらないと。下着一式全部、リハパンに変更してみたらどうですか?

 

今回から一包化。リスミーも試す。
夕食後と就寝前も一包化し、日付をいれていただくよう薬局へ依頼。

 

初診から半年後

 

  • HDSR:12.5
  • 透視立方体:不可
  • 時計描画:時計逆回転

 

リハパン導入は難しい。「一時的にでいいのでご主人も同じものを履くことで促してみては?」と提案するも、ご主人は拒否(苦笑)


トイレドア付近に手すりをつけたところ、トイレ内での失敗は激減したと。

 

先日、風邪で近医を受診しカロナールのみ処方された。飲んではいないと。痰絡みの咳が出る。麻黄附子細辛湯+ムコダインで対処。

 

リスミーで良眠。切り替える。

 

1週間後

 

起床時の腰の痛みを訴えるとのことで、予定より大分早く来院。

 

L4/5で右椎間孔の狭小化あり。痛みの箇所と一致するかな。右膝は加齢相応か。


大腿背面への放散痛はなし。湿布対応が無難かな。

 

感冒は改善傾向につき、もうしばらく服薬希望あり麻黄附子細辛湯+ムコダインを処方。

 

3週間後

 

先日一度だけ、トイレに下着を流してしまい、溢れて大変だった。朝10時のことだった。

 

トイレ内に、専用の汚物入れ設置をしてみましょうか。

 

1ヶ月後

 

今回は、トイレ排泄関連の失敗はなかったようだ。


前回お伝えした、トイレ前におむつが入る程度の大きさの汚物入れを置くという提案は導入頂けた。なんなら、中にわざと下着を入れておけば、いざという時に汚物入れと認識してくれるかもしれないとお伝えした。

 

処方は維持。

 

1ヶ月後

 

著変無く経過中。

 

デイは週4回、楽しく行けている。起床時に汚れた下着をベッド下に隠すことがあるが、ベッド汚染まではないと。

 

ご主人は自分の時間が持てるようになり楽になったと。
この時間を利用して、自分の為に良い習慣をいくつか設けていきましょう。

 

次回は採血結果説明。

 

1ヶ月後

 

著変無く経過中。

 

最初の一歩が出にくいが、まあ落ち着いている。
採血でEDTA偽性血小板減少症以外所見なし。

 

処方維持。

 

1ヶ月後

 

左膝にスーパーライザー(SL)。

 

何度も顔を洗い、タオルを使うと。敢えてタオルを多めに購入し、専用のラウンドリーボックスに入れて、毎日ではなく週に2回洗濯するようにして、そのタオルはリハビリ目的で本人にたたんでもらっては?

 

基本技のオウム返しを練習して、同じ事を聞かれ続ける煩わしさをやわらげていきましょう。

 

処方維持。次回はHDSR。

 

初診から1年後

 

  • HDSR:16.5(0)
  • 透視立方体:不可
  • ダブルペンタゴン:OK
  • 時計描画:数字12個はOK 中心偏倚 10時10分不可

 

頭部CTは著変なし。
初診時より6点上昇。1年で考えると良い経過。

 

今度、初めてショートステイを試す予定。問題を起こさないか心配ではあるが父を休ませたいと娘さんの希望。


帰ってきたら一家総出で迎える予定だと。

 

1ヶ月後

 

ショートステイは2回、すんなり利用できた。総出で帰りを迎えた家族は拍子抜けだったようだ。良かったですね。

 

処方維持。前歯がいつの間にか抜けていた。その隣の歯もぐらぐらしている。歯科受診を勧めた。

 

1ヶ月後

 

「娘たちが付いてきてくれて嬉しい。幸せです。」

 

抜歯予定ありと。1本だが、歯科医はバイアスピリンを止めたいと。


休薬の必要はないが、元々処方根拠に乏しい薬でもあり、1週間休薬は問題なしでいいだろう。

 

次回は頚部エコーを。その結果で継続の是非を判定する。

 

初診から1年3ヶ月後

 

(右)
mean-IMT 0.79mm max 0.86mm
PSV)CCA 44.0cm/s  ICA 39.1cm/s VA 26.7cm/s

(左)
mean-IMT 0.97mm max 1.04,mm
PSV)CCA 39.6cm/s  ICA 71.0cm/s VA 35.7cm/s

 

頚部エコーでmean-IMT肥厚はなく局所肥厚のみ。抗血小板薬積極適応とはし難い。


バイアスピリンをバファリンに変更。1年後に再検し変化がなければ終了でいいかな。

 

「減薬でこんなに変わるとは思っていなかった。良い一年だった。」と、娘さん達から感謝の言葉を頂いたが、母親に続き、90代の父親も一緒に診て欲しいとご希望あり。

 

4つの病院に通いそれぞれから薬が結構な数処方されているので、当院でまとめて減らせそうな薬は減らして欲しいというご要望。

 

次回はご主人診察の予約も併せて。

 

(前医処方)

 

  1. ドネペジル(10) 1T1XM
  2. メマリーOD(20)1T1XM
  3. アムロジピン(2.5)1T1XM
  4. トリノシン細粒 2g2XMA
  5. エチゾラム(0.5) 1T1Xvds

 

(最終処方)

 

  1. ドネペジル(3) 0.5T1XM
  2. バファリン81 1T1XM
  3. メマリーOD(20) 1T1XA
  4. リスミー(1) 1T1Xvds

 

 

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ドネペジル 発汗 寝汗 副作用

Photo by Hans Reniers on Unsplash