当院(厚地脳神経外科病院)では、iNPH(特発性正常圧水頭症)に対してはLPシャント術を第一選択で行っている。
脊柱管内と腹腔内をチューブで繋ぎ、余分な髄液を背中からお腹の中に逃がしてあげるのがLPシャント術。
「お腹の中に水が逃げたら、お腹がタプタプになりませんか?」
とたまに聞かれるのだが、元々お腹の中は少量の腹水が作られては吸収されているので(腸がこすれて傷つかないように)、大丈夫。
当院では局所麻酔で行っており、重大な合併症が起きるリスクは低い手術ではあるが、腹腔側チューブ逸脱をたまに経験することがある。
腹腔内(お腹の中)は、常に腸が動いて圧力がかかっている状態であり、この圧力の影響で、チューブが徐々にお腹の外に押し出されてしまうことを、「腹腔側チューブ逸脱」と呼ぶ。今回、久しぶりに経験したのでご紹介してみる。
73歳女性 特発性正常圧水頭症
初診時
他院からiNPH疑いで紹介。
HDSR:21
遅延再生:5
立方体模写:やや難
時計描画:やや難
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:1.5
rigid:なし
ピックスコア:0.5
頭部CT左右差:なし
クリクトン尺度:16
介護保険:なし
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:iNPH
DESHあり。基底核には梗塞痕。表情はさえない。歩行はワイドベースではないが緩慢。ここI年〜半年での症状進行。
現在は独居でADLは何とかなってはいるが、転びやすいと。カードの暗証番号を忘れると。
TAPテスト入院
2泊3日のTAPテスト入院において、前後での目立った改善はなかった。
TAPテスト2週間後の外来
自覚的に転びにくくなったと。娘さんから見て、活気が上がってきたと。
TAP陽性と判断し、LPシャント手術を行うこととした。術後の腹部レントゲン写真はこちら。特に問題はなかった。
術後3ヶ月目に変化が・・!
認知面と運動面は、シャント術前と比較して改善。特にFAB(前頭葉機能評価)は10/18から15/18と大きく改善していた。しかし、腹部レントゲンと腹部CTで、腹腔側チューブが逸脱していることが判明。
恐らくまだわずかに腹腔内との交通はあるのだろうが、このままだといずれ水頭症増悪を来してくると思われたので、再手術を行うこととした。
局所麻酔下に腹部の傷をもう一度開いて、とぐろを巻いているチューブを解きほぐし、再度腹腔内に挿入し固定。問題なく手術は終了し、患者さんも無事に退院された。
LPシャント術における、腹腔側チューブ固定の工夫(川原法)
当院では、川原法(鹿児島大学脳神経外科の川原 隆医師が考案した、腹腔側チューブ逸脱を防ぐ方法)を導入して以降、腹腔側チューブ逸脱は無くなった。
報告により様々だが、およそ10%前後の頻度で、術後に腹腔側チューブの逸脱が起きると言われている。今回は川原法を導入して数年経過しての、初めてのチューブ逸脱例となった。
しかし、これまでの方法と比較して圧倒的に少ないことには変わりない。簡便で優れた工夫と言える。川原法にご興味のある方は、こちらからどうぞ。
(Surgical technique for preventing subcutaneous migration of distal lumboperitoneal shunt catheters,Innovative Neurosurgery,Volume 1, Issue 3-4 Dec 2013より抜粋引用)
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