紹介、飛び込みを含め当院を訪れる特発性正常圧水頭症の方は多い。
今回ご紹介するのは、これまでどこに行っても「年のせいですかね〜」と言われて困っていた方である。と言っても、まだ73歳の方なのだが。
73歳男性 特発性正常圧水頭症
初診時
(記録より引用開始)
(現病歴)
2年前に、運転中に頭が真っ白になった。以降、段々と物忘れが進行。
その前から、跛行が目立つようになり、トイレも近くなってきていた。現在フリバスとベシケア内服中。
(診察所見)
HDS-R:19
遅延再生:4
立方体模写:OK
時計描画:まずまず
クリクトン尺度:15
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア1.5
ピックスコア:1
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:iNPH
基底核には右側に陳旧性scarが散見される。
incomplete-DESH typeのiNPHかな。物忘れ、歩行障害、失禁と3徴揃ってきている印象。右下肢をぶんまわす様な跛行。右下肢に麻痺を来すような脳出血や脳梗塞痕は、少なくとも大脳半球左側には認めない。また、整形外科でも腰部脊柱管狭窄症は否定されている。
まずはTAPテスト(髄液排除試験)入院を勧めた。TAP前の歩行の様子はこちら。
DESHとは?
Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus
の略で、「くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症」のことである。
頭部CTやMRIでDESHを呈している方であれば、シャント手術で症状改善が大いに期待できる。
|
難病情報センターより引用 |
特発性正常圧水頭症の検査
TAPテスト入院
Evan’s index=0.31>0.30
上図の様にL4/5で腰椎穿刺し、初圧5cmH2O、終圧0cmH2Oで排液30mlを得た。
(TAP前リハビリ評価)
- Time Up and Go Test 13.11秒
- 起き上がりテスト 2.64秒
- Berg Balance Test 48/56
- MMSE 18/30
- Trail Making Test 117秒
- FAB 5/18
- IADL 3
- Vitality Index 10
- Zarit 2
- GDS 5
(TAP後リハビリ評価)
- Time Up and Go Test 11.89s秒(改善)
- 起き上がりテスト 2.71s秒
- Berg Balance Test 50/56(改善)
- MMSE 23/30(改善)
- Trail Making 73秒(改善)
- FAB 8/18(改善)
ご本人、ご家族共に実感できるTAPの効果。リハビリ評価でも多項目において改善あり。ご本人曰く、
とのこと。
TAP後の歩行の様子はこちら。
2週間後の外来
入室時の歩行の様子は、初診時とあまり変わらない。「自宅退院後数日でTAPテストの効果は薄らいでしまった」と残念そうに仰った。
手術希望あり。LPシャントの予定を組む。
特発性正常圧水頭症の治療
LPシャント手術入院
入院翌日に、LPシャント術(腰椎腹腔短絡術)を施行。
当院では局所麻酔で行っている。個人差はあるが、所要時間は30分〜90分の間ぐらいである。
下記に示すのは、以前勤めていた施設での全身麻酔下LPシャント術。手術の流れは大体同じです。
退院日のご様子
ぶんまわし気味の歩行はかなり改善し、歩行の安定性が得られた。次回外来を予約して退院。
そして長期経過観察が始まる
初めは退院1ヶ月後、その次は3ヶ月後、半年後と外来にお越し頂き、頭部CTやリハビリ評価を行う。
その後は毎年一回お越し頂く形で、長期経過をみていく。
- シャントシステムの圧設定がいつの間にか変わっていないか?
- いつの間にかシャントが閉塞していないか?もしくは転倒などの際にチューブが断裂していないか
- 正常圧水頭症以外の認知症疾患を合併してこないかどうか
このような視点を持ちながら、その後のお付き合いが続いていく。
特に③は重要。認知症発症の最大のリスクが「加齢(年をとること)」である以上、水頭症以外の認知症合併もいずれ起きてくる可能性がある、という認識でいた方がよいと考えるからである。
www.ninchi-shou.com