鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「いつものパン」があなたを殺すを読んで①

健康一般、認知症、変性疾患の治療に関する重要なヒントが満載

 

「いつものパン」があなたを殺す



原題は「Grain Brain」、直訳すると「穀物脳」。


流石に直訳タイトルでは誰も手に取らないと思われるので、いささか刺激的な邦題になってはいるが、その内容は素晴らしいの一言。訳者は認知症やココナッツオイル、ケトン食などについて旺盛に情報発信されている、白澤卓二先生。

そして著者はデイビッド・パールマター。
グルタチオン点滴の権威である。

今回から数回に分けて、内容を紹介しながら勉強になった点を書いていく。

グルテン過敏症とは

 

グルテン (gluten) は、小麦、大麦、ライ麦などの穀物の胚乳から生成されるタンパク質の一種。胚乳内の貯蔵タンパク質であるグリアジンとグルテニンを、水分の介在下で反応させると結びついてグルテンとなる。弾性を示すため、グルテン前駆体の2種のタンパク質を含む小麦粉を水でこねるとグルテンが生成され生地に粘りがでる。パン生地などが発酵した時に気泡が残るのも、生地がグルテンによって粘りをもっているためである。(Wikipediaより引用)


要は、小麦粉の粘り気の素になるタンパク質のことで、このグルテンに対する過敏症が、アメリカではかなり問題になっているようだ。医師にとってグルテンと聞いて頭に浮かぶのは「セリアック病」だが、ことはセリアック病だけにとても収まらない。

欧米ほどのパン食ではない日本だが、パスタやピザ、その他小麦粉を用いた菓子や料理の多さを考えると、潜在的な患者数はかなりの数になるのではないか。

グルテン過敏及び、恐らく糖質過多がもたらす病気や健康問題として本書で挙げられているのは

  • うつ病
  • 気分障害、不安障害
  • ADHD(注意性多動性障害)
  • 慢性的な頭痛、片頭痛
  • 認知機能障害
  • 集中力低下
  • 不眠
  • 体重過多、肥満
  • トゥーレット症候群
 
などなど。具体的治療例をあげながら説明がなされていく。

グルテンの中毒性とは?


人類が小麦を食するようになって約1万年。もはや小麦の遺伝的組成は1万年前の原型を止めてはいない。

ここ50年ほどの遺伝子工学の発達もあり、以前と比較して40倍のグルテンを含んだ小麦の産生が可能となっているらしい。

グルテンの特徴として

  • 胃で分解され、血液脳関門を通過するポリペプチドとなる。これが脳のオピオイド受容体と結合すると、恍惚状態となる。
  • このポリペプチドはエクソルフィン(外因性モルヒネ様混合物)と名付けられており、ナロキソンで拮抗される。つまり、モルヒネやヘロインと同様の物質である。
 
このような点が挙げられる。問題はその中毒性である。
 
糖質過剰の問題点も、やはりその中毒性にある。以前当ブログでも言及したが、ドパミン報酬系に作用することで、糖質はその中毒性を発揮する。
 
小麦を摂取するということは、糖質とグルテンを同時に摂取することであり、各々の中毒性が相乗効果を発揮することは、容易に想像できる。

食品業界の立場で考えると、グルテンを大量に含んだ食品は消費者に中毒性を惹起するので売れる。その需要を見込んで、遺伝子組み換え作物に投資が為されていったのだろう、と想像する。
 

グルテンの身体への影響は?

 
グルテン過敏症により、小腸に強いダメージが加わって自己免疫異常を来すものが、有名なセリアック病。以下引用。
 
典型的な症状はない。一部の患者は無症候性または栄養欠乏の徴候を示すだけである。重大な消化管症状を示す患者もいる。  セリアックスプルーは,食事に穀類を取り入れた後,乳児期および小児期に発現しうる。小児は,発育不全,無気力,食欲不振,蒼白,全身性低血圧,腹部膨満,筋萎縮を示す。粘土色の悪臭の強い軟便を大量に排泄する。年長の小児は,貧血を呈することや正常に成長しないことがある。  成人では,倦怠感,衰弱,食欲不振が最も多くみられる。時に,軽度および間欠性の下痢を認めることがある。脂肪便は軽度から重度(便中脂肪量7〜50g/日)である。一部の患者で体重減少が認められるが,低体重になるほど減少することはめったにない。これらの患者では,通常,貧血,舌炎,口角炎,アフタ性潰瘍がみられる。ビタミンDおよびCa欠乏症状(例,骨軟化症,骨減少症,骨粗鬆症)を認めることが多い。男女ともに妊孕性が低下することがある。  約10%は,肘,膝,臀部,肩,頭皮の伸筋領域に対称的に分布する強いかゆみを伴う丘疹小水疱性発疹である疱疹状皮膚炎を起こす。この発疹は高グルテン食によって引き起こされることがある。セリアックスプルーは,糖尿病,自己免疫性甲状腺疾患,ダウン症候群にも関連している。(メルクマニュアルより引用)

 免疫系が暴走し消化管に影響を与えると、リーキーガット症候群(腸管壁の浸透異常により、バクテリアや毒素、食物が漏れだしてしまう病気)となるリスクが高まる。

その結果、更に様々な食物アレルギーや、化学物質過敏を来すようになってしまうという悪循環が産まれる。

グルテンの脳への影響は?


グルテンはグルテニンとグリアジンから構成されるが、グルテン過敏症は特にグリアジンに対する抗体値が上昇して起こる。

抗グリアジン抗体は、脳内の特定タンパク質と直接結合することが出来る。その結果炎症性サイトカイン産生が高まる事が知られている。

アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、多発性硬化症、自閉症などで炎症性サイトカインが上昇していることに、グルテン(グリアジン)が関与している可能性は否定できないようだ。実際、セリアック病や原因不明と診断された神経疾患の患者にグルテンフリーの食事を与えると、劇的に症状が改善する例があることが、それを証明していると思われる。

また、免疫系がグルテンに反応すると、フリーラジカルの産生が著しく上昇し、その結果重要な抗酸化物質であるグルタチオンが減ってしまうようだ。

グルタチオンの低下、枯渇はパーキンソン病発症に関わることは以前当ブログでも書いた。
 

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色々な事が繋がっていきますね。

次回に続く。

※注)今回の内容は、ほぼ100%「いつものパンがあなたを殺す」に準拠していますが、ごくわずかに私見を入れています。
 
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