あるクリニックの、ある一日。
トップバッターは高血圧症をフォローしている80代後半の元気な女性Sさん。コロナワクチン2回目を接種した2週間後に、人生最悪の倦怠感が出現した。
血液検査で白血球とCRP高値を確認。入院してもらうか悩むも、その後1日単位の経過観察で事なきを得、すっかり元通りになってくれた。
70代後半の女性Fさんは、左眼瞼下垂で来院し、未破裂脳動脈瘤など除外した後に糖尿病性の動眼神経麻痺と診断した方。左星状神経節と茎乳突孔、及び左顔面神経頬骨枝へのスーパーライザー照射を3ヶ月続けて完治した。今後は、糖尿病その他生活習慣病のフォローアップを続けていく。
6年経過を追ってきた70代前半女性Nさんは、当初はアルツハイマーにしか見えなかったのだが、その後脱抑制行動が目立ち始めた時点で「前頭側頭型認知症?」と診断を変更しかけたが、程なくして片側性運動障害及びパーキンソニズムが出現したため、以降は大脳皮質基底核変性症として観ている。
一時期はこちらの魂が縮み上がるほどの凄まじい咆哮をあげていたNさんだが、今は穏やかな日が続いている。施設入所までは今しばらくの時間があるだろう。
不眠でフォローしている90代男性のYさん。認知症の妻が入所し、数十年来の不眠が改善に向かうかと思いきや、むしろ不安定になったようだ。苦行だったはずの介護が、いつの間にか生きがいになっていたのだろうか。
頭痛でフォローしていた40代女性のOさんは、様々なストレスを被るうちに失声症を発症した。色々と工夫しているが、彼女の慢性脳過敏状態を解除するには恐らく三環系抗うつ薬と抗てんかん薬使用がカギになると考えている。使用を本人が了承してくれるかどうかは分からないが。今のところ、アタラックスP点滴が最もOさんをリラックスさせているように見える。
大腿骨頚部骨折で入院していたアルツハイマーの70代後半女性Tさんは、退院後の初外来だった。入院時の珍妙な経緯については、以前、ブログで書いたことがある。
退院処方を確認したところ、実生活では到底継続不可能な糖尿病治療薬の種類、用法だったため、ごっそり改変して朝のみとした。生活しているのはTさんであり、糖尿病さんではない。
脳卒中で半身麻痺が後遺したため施設に入居している60代男性Nさんは、コロナに怯えた施設管理者から外出禁止を申し渡されデイケアに行けなくなった。結果、足腰が萎えて歩行機能が低下してしまったのだが、このような、法的根拠のない無自覚な自由の侵害は日本中・世界中で起きているのだろうと思うと気が滅入る。
片頭痛でフォローしている30代女性のTさん。月経時期に連日襲ってくる片頭痛に悩んでいたが、前回お勧めした「月経開始と同時に眠前にナラトリプタンを連日飲む」という用法が上手くいったと喜んでいた。
70代男性のEさんはステージ4の担ガン患者さん。昨年、怪我で皮膚科を受診したらなぜか診察を断られ、当院に飛び込んでこられた。広範囲に表皮剥離を起こしていた片側前腕を湿潤療法で治療したところ、約2週間で完治した。
それから色々と相談を受けるようになった。
あるときEさんは、「もう長いこと、両下肢がしびれて痛み階段の上り下りも出来ない」とぼやいた。かかりつけ医で下肢静脈血栓症を指摘され抗凝固薬を飲んでいるが、何も変わらないとのことだった。
脈波検査を行ったところCAVI11.3と高度動脈硬化を示し、ABIは右0.49で左は測定不能という結果だったので、プロルベイン1日6カプセル飲むようお勧めしたところ、1ヶ月後には階段昇降が可能となり、5ヶ月後には杖もいらなくなった。Eさんの変貌を目の当たりにした奧さんもプロルベインを飲み始めたところ、長年の左手のしびれがほぼ消失した。良いことが連鎖していくのを見るのは嬉しい。
かかりつけ医で大量の薬が処方されていた、陽気で多弁な70代男性のIさん。薬は全て中止して、眠前にクラシエの抑肝散加陳皮半夏だけ処方したところ、良眠出来るようになり日中もかなり落ちついた。ちなみに、前医では全く気づかれていなかったようだが、Iさんは意味性認知症だった。
被害妄想が強いアルツハイマーの60代女性Nさんは、全く病識がないため治療的な話が出来ずに苦戦している。1年間外来で宥め賺して給食サービス導入だけには納得してくれたが、今後どうなっていくか。勿論、薬もサプリも飲んでくれない。
60代のアルツハイマー男性Tさんは穏やかな方で、リバスチグミンパッチ4.5mgを勧めたところスンナリ受け入れてくれた。結果、自発性の向上と妻への気遣いの言葉が頻繁に聞かれるようになり、奧さんにも喜んで貰えた。
頭部外傷から10年が経過し、「たんこぶがドンドン大きくなってきた」と30代男性が飛び込みで来院した。頭部CTから推測するに、10年前の外傷で皮下に一部異物が残存し、異物周囲に少しずつ膿瘍が形成されていったのではないかと考えた。発赤腫脹熱感あり除去は必要と考えたので、形成外科に紹介した。
道路をフラフラ歩いているところを保護され入院になったとKさんのケアマネージャーから連絡が入った。急ぎ入院先に情報提供書を作成する。Kさんは60代男性で前頭側頭型認知症(ピック病)。
60代女性のSさんがグルタチオン点滴のため来院。東京の有名な病院でパーキンソン病と診断されたのだが、出される薬で悉く具合が悪くなっていた。当方の診断はレビー小体病。大量の処方薬を減薬調整し現在は小康を得ている。自罰的な考え方と、べき思考の癖を改善させるべく、根気よく促し続けている。
他院より転医してきた双極性障害の70代女性Tさんは、1年の経過でHDS-Rが24点から満点になった。前医より引きついだセレネースの減薬がポイントだったと思う。経過中に躁転した時は焦ったが、デパケンR200mgで何とか凌げた。
Tさんはすり足歩行で、頭部CTでも明瞭な水頭症画像所見を認めるのだが、タップテストを促すも拒否され続けている。仕方なし。諦めず年に1回は促し続けよう。
80代もの忘れの男性の家族から、「本人が行きたがらないから・・・」と予約キャンセルの電話があった。事前に、「無理に連れてくるのは禁物」と伝えてあったのでよかった。ご縁があれば会えるだろう。
コロナワクチン1回目接種後に大変な頭痛に見舞われた40代女性のMさんは、五苓散+葛根加朮附湯を2週間連投し、やっと落ちついてきた。
70代男性で「頭がジンジンする」と3年間訴え続けているFさん。一時はウインタミン20mgで軽快するも、最近は増悪傾向。コントミンに変更・増量したが、これでダメなら次の一手はデパケンかなと考えている。
レビー小体型認知症の70代女性Nさんは、一時は幻視で大変だったものの、投入したメマンチンが効を奏し今は穏やかな日々を過ごしている。同居する夫に対する認識は薄らぎ続けるも、「私にとって大切な人」という事実は揺らがない。
6年経過を観てきたNさんが亡くなられたことを、娘さんが報告に来てくれた。尿路感染で入院してからは、さほど長患いすることなく旅だっていった。Nさん在りし日のことを語らい、今後は娘さん自身の健康への配慮をお願いし、最後は初診時に撮影したNさんの写真をプレゼントし別れた。
80代のNさん夫婦は、奧さんはアルツハイマーでご主人は水頭症の術後、というカップル。奧さんは残薬がまだ3ヶ月経っても消費しきれないという暢気者だが、のほほんとした雰囲気が愛らしい。
20代女性のUさん。コロナワクチン1回目接種の1週間後から始まった、割れんばかりの頭痛が3日続いているとのこと。「3回目は絶対打ちません!」とのことだったが、2回目は頑張って打つのだろうか。
施設スタッフが、3人の患者の代理で来院。3人とも90歳を超えている。世の超高齢者全員が自力で穏やかな老後を手に入れている訳ではなく、周囲には奮闘する介護者が必ずいる。難しいことは幾らでもあるが、覚悟を持って携わっている介護者には、こちらも出来るだけのことをしたい。
認知症ではないが、認知機能の衰えた80代男性Oさんは、近所の女性に恋文を送りストーキングして警察から厳重注意を受けた。老境の恋の難しさを想う。Oさんには奧さんがいるのだが、奧さんにこのことは勿論秘密である。
診療終了時間ギリギリで、2週間前から両上肢の脱力が出現・進行しているという30代男性が飛び込みでやってきた。ギランバレーを疑ったが、独居だったので呼吸困難が出現した場合を想定して紹介入院の手続きを急ぎ取った。
最後は、アルツハイマーのIさんの娘さんの家族相談。現在入院中のIさんが、病院から胃瘻を勧められているとのこと。
胃瘻すなわち寝たきりのイメージを持っているようだったが、認知症進行ないしは脳卒中による嚥下障害での胃瘻ではないので、ひとまず造設して経口訓練を頑張ってみてはどうですか、と説明した。
こうして、あるクリニックのある一日が終わった。
そして、次の一日が始まる。
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