患者さんが増えることは、経営者としては喜ぶべきことである。それは疑いない。
今回のブログは、当院の増患対策について。
結論を先に言っておくと極めてシンプルな対策であり、前回記事の流れに沿った内容とも言える。
開業して3年半が経過したが、丸一日診察して多いときで70人前後、半日の日は多くて40人前後、平均して55人/日前後の患者を診ている。認知症の新患は平均して月に35人ほどである。
医者は自分一人で、かつ
「こんにちは、お変わりはありませんでしたね?では、いつものお薬を出しておきます。」
という3分診療とは無縁の外来のため、今の診療スタイルのままだと恐らく一日平均60人あたりで限界を迎えるのではないかと思う。
認知症外来は基本的に予約制だが、切迫した事情があって飛び込んできた方達を無下に返すことは出来ない。*1
飛び込み頭痛の新患5連続に飛び込み認知症が重なったら泣きたくなるが、「頭が痛い」という人に「混んでいるから他所に行って」とはなかなか言えず、「幻覚妄想が酷くて生活が破綻しそう」という認知症家族に「疾患医療センターに行ってね」とも言えない。*2
もちろん「だいぶ待つかもしれませんが・・・」とお伝えはするが、結局は皆さん待たれるので、大急ぎかつ最大限丁寧に診るように心がけている。
再診患者さん達の多くは当院の事情や社会的役割をご理解下さっているので、飛び込みの影響で長時間お待たせしてしまっても「先生も大変だねぇ」と慰めて下さることもしばしば。
ありがたいやら申し訳ないやらである。
www.ninchi-shou.com
傾聴から始まるお付き合い
認知症の相談で飛び込んでくる方達は大体、
- 幻覚妄想が酷いので、なんとかして欲しい
- 遠方に住む家族が帰省して現状を確認して驚いた。明日には戻らないといけないので、どうしても今日中に診て欲しい
- 夜中にごそごそして家族が眠れないので、なんとかして欲しい
- 怒りっぽくて暴力を振るわれるので、なんとかして欲しい
このような切羽詰まった事情を持っている。
治療を行う上で必要な情報は時間をかけて聴くが、そこに高確率で紛れ込んでくるのが前医に対する猛烈な苦情である。
他人の苦情を喜んで聞きたい人間はいないと思うが、「苦情を受けとめなくては新たな付き合いは始まらない」と考えて聞くようにしているうちに、患者さんが段々と落ちついていくことに気づいた。
この「前医の苦情」を丹念に聴き続けてきたことが、当院成長の最大の要因だと言ったら皆さんはどう思うだろうか。
複数の方から聞いたことだが、口コミを頼りに当院に来られる方達の多くが、
「あそこの病院は、とにかく話をよく聴いてくれるから行ってみたら?」
と知人から聞いてやってくるらしい。
新参開業医は自院が生き残るために様々な戦略を描くものだが、とにかく患者を増やしたいのであれば、最重要な戦略とは大量の広告でも何でもなく
「相手の話をとにかく聴く」
これに尽きる。
傾聴して初めて共感が生まれ、共感が相手に伝わると癒やしに繋がる。このような流れを意識しながら、技術を駆使して患者に接するよう努めている。
自分も含めスタッフ全員で傾聴に努め、傾聴から診療上有用な情報を拾い上げ、傾聴にくっついてくる前医の苦情すら飲み込み続け、患者は増え続けている。
面識のない同業者が悪く言われても痛くも痒くもなく、そもそも自分には面識のある同業者がほとんどいない。
これは、普段からしがらみ少なく社交性低く生きている成果である(自慢)。
面識のある同業者が悪く言われても、「へー、あの先生がねぇ、ふむふむ」ぐらいのもので、「人の不利見て我が不利なおそう」ぐらいにしか思わない。
一時期は義憤に近い感情を抱くこともあったが、今では何も感じないか、または憐憫の情を持つかぐらいだ。*3
溜まりに溜まった不満を盛大に吐いた家族は、すっきりして帰る。「よかった。今度の先生には、話を聞いて貰えた」と。
自分がその患者さんにとって「最後の先生」になるのかを決めるのは患者さんである。患者さんに見限られたら自分の至らなさを反省して次に活かす工夫をし続けるのみと考えて、淡々と仕事をこなしている。
いまさら社交的にはなれないが、かといって夜郎自大にもなりたくないので、当院の治療でなかなか良くならないと感じている患者さん達には遠慮せずに積極的に転医して欲しいと普段から思っているし、実際に勧めることもある。
そして、転医を勧める時は
「よかったら、また会いに来て下さいね」
という言葉を添えるようにしている。
もし改善していたら一緒に喜べるし、ついでに改善の秘訣も教えて貰えるだろう。良くならずに戻ってきたとしても、また一緒に歩んでいけばいいだけの話だ。*4