鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】前医でサジを投げられた方に治療介入したところ、半年で家族から「大きく困ることはなくなった」と評価された症例。

「これほど酷い陽性症状の人は、うちでは対応出来ません。紹介状を書くので別の病院に行って下さい」

 

ベテラン脳神経内科医にサジを投げられ途方に暮れていたご家族。

 

どのように介入し、改善していったかの一部始終を紹介する。状態変化に寄与したと思われる薬剤は赤文字で強調しておくのでご参考頂けたら幸い。

 

80代後半女性 アルツハイマー型認知症+正常圧水頭症

 

初診時

 

(既往歴)

脳梗塞

(現病歴)

3年前頃から、テレビで報道されている殺人事件や気象異常が、さも自分に降りかかってくるかのようなことを言うようになった。

 

Aクリニックを受診し、「レビー小体型認知症+正常圧水頭症」の診断を受けた。タップテスト目的でB病院に入院となるも、強い陽性症状のため1週間の入院予定のところを3日で退院させられた。

 

その後、Aクリニックを本人が怖がり行かなくなったため、Cクリニックに転医。Cクリニックの紹介で再度タップテスト目的でD病院に紹介入院となったが、窓ガラスを割って外に出ようとしたため退院させられた。

 

お困り事は、昼夜逆転・帰宅願望・被害妄想・易怒性亢進・取り繕い、など。 Cクリニックの神経内科医師に

 

「うちではもう無理」

 

と言われて困っていたところ、知り合いのケアマネージャーから当院への転医を勧められた。

 

ぱっと見のアルツハイマー感は満載。

 

(診察所見)

HDS-R:14.5

遅延再生:3

立方体模写:可

時計描画テスト:10時10分不可 デジタル表記

IADL:1

改訂クリクトン尺度:36

Zarit:8

GDS:7

保続:なし

取り繕い:あり

病識:なしなし

迷子:なし

DLB中核症状:2/4 調子の波が大きい

rigid:なし

幻視:なし

FTD中核症状:2/6

語義失語:なし

頭部CT所見:猛烈な海馬萎縮だが、右>左左右差軽度 DESH+++

介護保険:要介護3

胃切除:なし

歩行障害:車いす 自宅では介助すり足歩行

排尿障害:頻尿

易怒性:あり

過度の傾眠:あり

 

(診断) ATD:〇

DLB:

FTLD:

その他:NPH

 

(考察)

ATD>DLB+iNPHか。DLB的エピソードはあるが、海馬萎縮は水頭症の影響を考慮してもかなりのレベル。タップテストは正確に行われたかどうか不明。家族の希望としては穏やかさと夜間睡眠確保

 

H2ブロッカーのガスターは中止して、PPIのランソプラゾールに切り替える。睡眠対策と思われるヒルナミンも止める。代わりに、夕方にチアプリド37.5mg。眠前ロゼレムは効いていないようなので止めてニトラゼパム7.5mgに変更。

 

リバスタッチは以前18mgまで使ったことがあり、現在は9mg。半分カットして4.5mgに。いずれ中止かな。

 

クロピドグレル、シルニジピン、ジャヌビア、フロセミド、メトグルコ、メマリー20mgは今回は維持。 次回で夜間対策の効果を確認後、チアプリドを増量の方向で調整かな。

 

状況が落ち着いてチャンスがあれば、再度タップテストを検討するかな。

 

正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症合併例

 

2週間後

 

前回処方変更で意欲や活動性が向上。これはヒルナミンを止めたことが大きいかな。

 

ただし、3日前までは夜間睡眠含め上手くいっていたのだが、3日前にご主人が眠前に養命酒を飲ませたところ興奮。以降、寝なくなってしまったと。

 

診察時の様子は前回と大きく変化なく当方のことも覚えていた。 アルコールに敏感ということか。これは一つの薬剤過敏と考えるかな。レビー感は感じないが気をつけておく。

 

養命酒服用以降増悪した陽性症状対策で、夕のチアプリドを37.5mgから50mgに増量。ニトラゼパムはそのまま。朝にもチアプリドを25mg入れる。

 

先月のHbA1cは6.5と優秀。80歳を超えているのでメトホルミンは中止でいいかな。メマリーは維持。リバスタッチは前回9mgから4.5mgに減量したが有害事象はなし。2.25mgに減量して終了に持っていくかな。

 

ジャヌビアとクロピドグレルは維持。 これで、完全引っ越し完了。 ご家族は2週間おきの通院をご希望。目標は夜間睡眠と易怒性減退。

 

2週間後

 

14日間でぐっすり眠れたのは3日間だったと。 朝にチアプリドを入れることで、昼まで寝てしまう? チアプリド+ニトラゼパムは撤退。

 

夕方トラゾドン25mg+眠前ルネスタ+ベタニスで夜間睡眠と頻尿対策。利尿剤中止でむしろ排尿量が増えている? リバスタッチは今回で終了。

 

【訪リハ報告書】

服薬調整にてパズルや画に意欲的に取り組むようになっている。膝折れは以前より少なくなっていると家族報告。外出の機会は増えてきている。 リハ観察では良さげだが、家族満足度とは乖離があるようだ。

 

2週間後

 

良くも悪くも変化なしと。

 

「ここではない何処かに帰りたい」という帰宅願望の強さに困っていると。 真面目に悩んで返事をせずに、スポーツ感覚で瞬発力をもって応えましょう。すぐに忘れることも利用しながら。

 

トラゾドンを25mgから50mgに、ベタニスも25mgから50mgにそれぞれ増量する。朝にメイラックスを入れて不安対策。 娘さんを妹と誤認している。お孫さんのことは認識している。

 

2週間後

 

Barre試験で右上肢やや下垂か。ただし、軽度右麻痺は以前から指摘はされている。頭部CTで新鮮な所見は認めない。

 

1週間ほど前からの右への体幹傾斜が気になるとのこと。夜間睡眠はとても良くなった。朝までぐっすりでトイレにもいかない。ただし日中傾眠が気にはなる。

 

デイは週2回から3回に増やしたが、デイでもウトウトしているとのこと。メイラックスによる過鎮静かな。立位保持困難でトイレ介助が大変と。

 

メイラックスを1mgから0.5mgに減量して、他とは別包でお渡しして、不安が高まったときには2包1mgを使えるようにしておく。これでも日中傾眠なら、次回はトラゾドンを37.5mgに減量する。

 

諸々整ったら、再度タップテストにチャレンジしたい。家族希望次第だが。

 

2週間後

 

夜間睡眠は良好、今のままでOKと。

 

メイラックス減量分包で調子を見ながら服薬させることで日中傾眠は改善した。デイではメイラックスは使用していない。

 

  • じいちゃんがお酒を飲んで帰ってくるから家に戻らないと
  • 屋根から物が落ちてくる(火事のニュースの影響?)
  • 水が来るから窓から飛び降りて逃げて!

 

などの妄想あり。 夕方以降の生家への帰宅願望にクラシエ抑肝散加陳皮半夏開始。次回は採血。

 

初診から3ヶ月後

 

夜間睡眠については、今ぐらいでちょうど良いとのこと。

 

この3日ほどは帰宅願望なく落ち着いている。夕方の抑肝散加陳皮半夏は好感触なのかな。 連休中、普段は仕事に出かけている家族が家にいることに混乱していたと。

 

ご主人と離れると妄想が出るが、こじらせてはいない。 「死にたい」と言うことがあるようだが、深刻感はないようだ。とりなし、声掛けで対応を。

 

デイは週3回。デイ以外の日に抑肝散で落ち着きが得られるかを試してみる。 最悪の時期を10とすると、今は5ぐらいだと。目指すは3、4。 次回は採血結果説明。

 

【訪リハ報告書】 トイレや入浴時に介助量が増。覚醒や反応は以前よりやや減だと。これはメイラックスの影響があるかな。

 

 2週間後

 

帰宅願望は減ってきた。今は最悪時期の4/10ぐらいでかなり楽になった。

 

デイに行かない日の抑肝散内服で、夕方以降落ち着いた。一度飲ませ忘れたら興奮気味の帰宅願望が出て慌てたと。 入浴を夜から夕方に変えたことで、覚醒の良い時間帯での介助となり楽できている。

 

(採血結果)

  • HbA1c(NGSP):6.2
  • フェリチン定量:25.4ng/ml

 

HbA1cは上等。フェリチン補充はおいおいと。お茶碗を子ども茶碗に代えてみましょう。これでジャヌビアを卒業出来るかもしれません。

 

2週間後

 

大きな波のない2週間だったようだ。 食事は自己摂取で始まり、途中で介助。 茶碗は前回アドバイス通り子ども茶碗に代えた。手に持つことがなく箸が使いにくそうなのでスプーンにしたと。

 

体温調整障害で寒がり。ご家族は扇風機やクーラーを使えず困っている。 敢えて着てもらい扇風機を使ってみて。汗をかけるのかを観察してみましょう。

 

今回は処方維持。

 

2週間後

 

食事時になると鼻汁が出る。覚醒もイマイチ。 副交感モードに強く入ってしまうのか。

 

臭いや音で覚醒させてから食事に入ることが出来たらいいですね。 次回からは〇〇内科の痔疾関連薬剤を引き受ける。 帰宅願望は相変わらずだが、悪化はないと。メイラックスは鎮静的に働いている。

 

どのタイミングで、夕のメマリーやトラゾドンを減量するか。

 

【訪リハ報告書】 歩行は5m程度で前傾すくみ足となる。DLB化?

 

3週間後 

 

夕方に夕焼けが家の中に差し込んできた様子をみて「家事だー、逃げろー」と、寝る前まで言い続けていた。

 

大雨や殺人のニュースは極力見せないようにしている。テレビは消して懐メロを流しましょう。 

 

2週間後

 

日中目を瞑っていることが増えたとのこと。

 

タイミングはここかな。メマリーを15mgに減量。 眠前のベタニスを夕食後に回す。メイラックスを減らすと帰宅願望が増えそうな気がする。 

 

介入から半年後

 

メマリー減量で日中傾眠が減って、コミュニケーションが取りやすくなった。

 

今日の診察時も久しぶりに「先生、またきたよ。ありがとうね、お陰様で。」などと言ってくれた。

 

初診時を10としたら、今は3ぐらい。これまでで最も良い状態だと。「大きく困ることがなくなったので、今を維持したい」とお孫さんと娘さんは口を揃えて仰る。

 

1ヶ月処方を提案したが、これまで通り2週間をご希望。

 

(前医処方)

  1. シルニジピン(10)1T1X朝
  2. クロピドグレル(75)1T1X朝
  3. ジャヌビア(50)1T1X朝
  4. フロセミド(20)1T1X朝
  5. メトグルコ(250)1T1X朝
  6. メマリーOD 20mg夕
  7. ロゼレム(8)1T1X眠前
  8. ファモチジンOD(20)1T1X眠前
  9. ヒルナミン(5)1T1X眠前
  10. リバスタッチ9mg

  

(最終処方)

  1. シルニジピン(10)1T1X朝
  2. クロピドグレル(75)1T1X朝
  3. ジャヌビア(50)1T1X朝
  4. メイラックス(1)0.5T1X朝
  5. ランソプラゾールOD(15)1T1X夕
  6. トラゾドン(25)1T1X夕
  7. ベタニス(50)1T1X夕
  8. メマリーOD 15mg夕
  9. ルネスタ(2)1T1X眠前
  10. クラシエ抑肝散加陳皮半夏1P(デイサービスのない日の日中に)

 

 (引用終了)

 

 

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