鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】栄養の工夫と鉄補充で、頭痛薬を卒業した女性。

頭痛で一番有名なのは、恐らく片頭痛だろう。

 

実際、子供の頃から頭痛持ちの方は「自分の頭痛は片頭痛」と考えていることが殆どである。しかし、よくよく話を聞くと、片頭痛以外の複数の頭痛要素を合併していることが結構ある。

 

複数要素を併せ持つ頭痛を、例えばロキソニンやイブといった鎮痛薬だけで乗り切ろうとしていると、そのうち「痛くなる前に飲んでおこう」という心理が働き出す。

 

そうするうちに、薬物乱用型頭痛*1に繋がっていく。

 

www.ninchi-shou.com

 

 

頭痛の悪循環を断ち切るためには、生活(栄養を含む)を見直す必要がある。

 

ちなみに、「ストレスを避けて~」とか「バランスの良い食事と適度な運動を~」といった生活アドバイスは、残念ながら多くの場合で役に立たない(経験上)。 

40代女性(OK) 片頭痛+緊張型頭痛+天候左右性頭痛+鉄欠乏性頭痛+薬物乱用型頭痛

 

初診時

 

小学生の頃から頭痛もち。

 

昨年、婦人科疾患で卵巣摘出術を受けて以降、頭痛の頻度が増えたとのこと。

 

  • 天候左右性あり
  • 拍動性
  • 片側性
  • 嘔気あり
  • 体動悪化なし
  • 炭水化物多い
  • 鎮痛剤は月に10回以上内服
  • 血圧低い、ただしフラツキなどの症状はなし BP100/60
  • 肩こりあり

 

片頭痛成分はあるが、薬物乱用型頭痛の可能性も考える。
天候左右要素に対しては五苓散を3P3Xで開始。極力鎮痛剤は控えめに。


採血で栄養状態を確認。

 

1週間後(2回目の外来)

 

婦人科的手術後で、現在月経はなし。

 

この1週間は鎮痛薬内服なし。頭痛は3回あったが自制内だったと。


五苓散は効果ありと考えていいだろう。

 

(採血結果)

 

  • 血色素量(HB):13.7g/dl
  • MCV:82.0fl
  • AST(GOT):19IU/l
  • ALT(GPT):11IU/l
  • γ-GTP:17IU/l
  • 中性脂肪(TG):49mg/dl
  • HDL-CHO:104.4mg/dl
  • 尿素窒素:10.1mg/dl
  • LDL-CHO: 161mg/dl
  • フェリチン定量:8.8ng/ml

 

MCVが低くフェリチンも低値。その他、尿素窒素低値からは低タンパクが、AST/ALT乖離からはビタミンB群、特にB6不足が疑われる。

 

タンパク摂取を増やして、精製糖質は控えて下さい。低フェリチンに対してはフェルムを開始。

1ヶ月後(3回目の外来)

 

BP86/51。元々低いらしい。

 

頭痛の頻度は減っているようだ。
先週土日で胃の痛み。今は大丈夫と。

 

フェルム継続。

 

1ヶ月後(4回目の外来)

 

「以前の頭痛を10とすると、現在は5。相当楽になりました」と仰る。


鎮痛剤内服は、一回もなし。

 

五苓散は3P3Xから2P2Xに減量。

 

以前はお酒を飲むと頭痛が出やすかった。最近は飲んでいないが、どうでしょうか?と。改善傾向ではあるので、少し試してみましょうか?念のために、ワインはしばらく避けてみてください。

 

次回はフェリチンチェックを。

 

1ヶ月後(5回目の外来)

 

  • 飲酒で頭痛が誘発されることはなかった
  • 肩こり軽減
  • 2回頭痛があったがいずれも自制内

 

経過良好。本日は採血、次回説明。
五苓散を1回にしてみる?

 

(採血結果)

 

  • 血色素量(HB):14.9g/dl
  • MCV:90.1fl
  • AST(GOT):25IU/l
  • ALT(GPT):23IU/l
  • γ-GTP:15IU/l
  • 中性脂肪(TG):47mg/dl
  • HDL-CHO:101.4mg/dl
  • 尿素窒素:13.3mg/dl
  • LDL-CHO: 138mg/dl
  • フェリチン定量:58.4ng/ml

 

フェリチンは58.4と、初診時8.8から上昇。その他、尿素窒素は13.3に上昇、LDLは138に低下。AST/ALT乖離も解消し、MCVは82→90.1と改善。

 

良い感じである。

 

1ヶ月後(6回目の外来)

 

前の頭痛の状態を10と表現するなら、今は2未満とのこと。

 

「信じられないぐらい嬉しいです!」

 

と。五苓散は飲みきりで終了かな。

 

今回から2ヶ月処方で。

 

2ヶ月後(7回目の外来)

 

先月、久しぶりに頭痛が二日間続いた。しかし、鎮痛剤内服をするほどではなかった。


五苓散は飲みきったが特に変化なしとのことで、このまま終了に。

 

冷え症がお悩み。ご希望あればユベラやペリシット。

 

次回は採血。フェリチンが100をこえていたらフェルムの内服間隔を空けようかな。

 

2ヶ月後(8回目の外来)

 

1ヶ月で2回ほどの頭痛。この2ヶ月で鎮痛剤を飲むことはなかったと。現在特に大きなお困りはないとのこと。

 

今日は採血。次回説明。恐らくフェリチンは100を超えているかな。

 

(採血結果)

 

  • 血色素量(HB):15.4g/dl
  • MCV:93.6fl
  • AST(GOT):22IU/l
  • ALT(GPT):15IU/l
  • γ-GTP:14IU/l
  • 中性脂肪(TG):55mg/dl
  • HDL-CHO:106.5mg/dl
  • 尿素窒素:13.3mg/dl
  • LDL-CHO: 175mg/dl
  • フェリチン定量:138.5ng/ml

 

予想通り、フェリチンは100以上となっていた。閉経しているので、フェルムの内服は週に一回としてみる。その他、LDL-Cは前回より上昇しているが中性脂肪は55と低いので様子見に。また、AST/ALTが再乖離しているが、これも一旦様子見で。


次回も採血。フェリチン100以上をキープできていたら卒業で。

 

3ヶ月後(9回目の外来)

 

3ヶ月間で鎮痛剤服用なし。天候不良時や仕事の疲れがある場合に月に2~3回頭痛を感じることがあるが、いずれも自制内。

 

今日は採血。次回説明。

 

10回目の外来(初診から約1年後)

 

(採血結果)

 

  • 血色素量(HB):14.3g/dl
  • MCV:91.8fl
  • AST(GOT):19IU/l
  • ALT(GPT):15IU/l
  • γ-GTP:18IU/l
  • 中性脂肪(TG):86mg/dl
  • HDL-CHO:88.4mg/dl
  • 尿素窒素:13.4mg/dl
  • LDL-CHO: 144mg/dl
  • フェリチン定量:137.2ng/ml

 

週1回のフェルムでもフェリチン低下はなし。一旦卒業でいいかな。頭痛は鎮痛剤不要の自制内におさまっている。

 

今後は有事受診で。おめでとうございます。

 

(引用終了)

 


Headache flickr photo by neil alejandro shared under a Creative Commons (BY) license

 

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*1:頭痛を抑えるために飲む鎮痛薬が、次の頭痛を呼び込んでしまう悪循環状態。月に10回以上鎮痛薬を飲んでいる、頭痛が月に15回以上起きる、といった方は要注意。