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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

頭痛や肩こり、不眠の背景にある質的な栄養失調について。

 

医学生時代に

 

  女性患者を診たら、妊娠を疑え

 

と教わった記憶がある。"閉経前の女性の様々な悩みの背景に、本人が気づいていない妊娠が隠れている可能性があるので注意せよ"、という戒めである。

 

実際にそのような症例に出くわすことは稀だが(自分の記憶にあるのは1人だけ)、妊娠の可能性に気づかずに放射線検査をオーダーしてしまうかもしれない危険性などを考えると、たしかに重要な教えである。

 

しかし、閉経前の女性の様々な悩みの原因となる「頻度」でいうならば、もっと重要なことがある。それは、

 

  女性患者を診たら、鉄タンパク質欠乏を疑え

 

である。

 

30代女性 主訴は頭痛

 

初診時

 

来院時所見:
現在授乳中。頭痛(+)
肩こり(+)

月に10回程度の頭痛。
鎮痛薬としてロキソニン服用するが効果があるときとないときがある。
高校生の頃から頭痛はあったとのこと。
過去に予防薬を処方されたことはあるが、授乳中であったり、痛みが出現するタイミングが分からず飲んだりはしなかったとの事。

 

これまで採血で貧血を指摘されたことはない。(Ns〇〇記載)

 

頭部CTでSAH(くも膜下出血)含め特記所見なし。

緊張型頭痛と片頭痛が混在。授乳中につき予防薬などは制限される。
呉茱萸湯を勧めるが、乗り気ではないかな。

 

お子さん3人。フェリチンはチェックする。頭痛で数日食事があまり摂れていないとのことで、ご希望あり補液を行う。採血も行う。

 

  • 血色素量(HB):13.1g/dl
  • 尿素窒素:9.7mg/dl
  • アルブミン:4.5g/dl
  • フェリチン定量:47.9ng/ml

 

頭痛の頻度を減らしたいというご希望はある。
フェリチンを100以上に持っていくメリットは大きいだろう、と説明。

 

ご希望があれば鉄剤開始。良かったら連絡を下さい。

 

1週間後

 

連絡あり。フェルム100mg/day開始。

 

2週間後

 

この2週間は、鎮痛剤内服を必要とする程の頭痛はなかったと。
鉄剤による吐き気などもなし。

 

健康診断結果持参。
心電図で低電位、中性脂肪23と低値、尿酸値2.5と低値。
全体的に低活動な身体で新陳代謝や免疫力は低いと思われる。

 

今回は鉄剤2ヶ月処方。次回はコレステロールなど含めた採血を。

 

2ヶ月後

 

頭痛の頻度は週に一回程度。鎮痛剤内服なし。以前は月に10回はロキソニンを飲んでいたとのことなので、頭痛頻度は確実に減っている。寝付きが少し良くなったかな、と。その他の体調面での変化はないようだ。頬に赤みが差している。

 

今日は採血。都合のいい日に結果説明。

 

初診から3ヶ月後

 

採血結果説明。

 

  • 血色素量(HB):13.2g/dl
  • ヘマトクリット:40.4%
  • MCV:92.0fl
  • 尿素窒素:11.5mg/dl
  • クレアチニン:0.57mg/dl
  • フェリチン定量:76.1ng/ml

 

フェリチンは3ヶ月で約30上昇。BUNは2上昇。頑張ってタンパク質摂取を増やすようにしていると。

 

鎮痛剤を飲むことはなくなった。頭痛は週に1~2回感じるが今までより軽く、自制内である。

 

次回採血は半年後かな。経過良好。良かったですね。

 

(引用終了)

 

40代女性 頭痛の訴え

 

初診時

 

小学生の頃から 頭痛ありと。

昨年、卵巣摘出術を受けた。以降、頭痛の頻度が増えた。

 

  • 天候左右性あり
  • 拍動性
  • 片側性
  • 嘔気あり
  • 体動悪化なし
  • 炭水化物多い
  • 鎮痛剤は月に10回以上内服
  • 血圧低い、ただし症状はなし BP100/60
  • 肩こりあり

 

片頭痛成分はあるが、「月に10回以上鎮痛剤を内服する」ということから、薬物乱用タイプの可能性も一応は考える。

 

天候左右性を重視して、五苓散3包3Xで対策開始。極力鎮痛剤は控えめに。採血でフェリチンもチェック。

 

1週間後

 

この1週間は鎮痛薬内服なし、頭痛は3回あったが自制内と。
五苓散効果あり。

 

 

  • 赤血球数: 512×10^4/μl
  • 血色素量(HB):13.7g/dl
  • MCV:82.0fl
  • MCH: 26.8pg
  • AST(GOT):19IU/l
  • ALT(GPT):11IU/l
  • γ-GTP:17IU/l
  • 総 蛋 白:7.3g/dl
  • 中性脂肪(TG):49mg/dl
  • HDL-CHO:104.4mg/dl
  • 尿素窒素:10.1mg/dl
  • クレアチニン:0.68mg/dl
  • 血清鉄(Fe):73μg/dl
  • LDL-CHO: 161mg/dl
  • フェリチン定量:8.8ng/ml

 

フェリチン低値。MCV82と基準ギリギリ。鉄欠乏を伴う貧血と判断。フェルム開始。

その他、AST>ALTの数値乖離及び尿素窒素10という結果から、ビタミンB群(特にB6)及びタンパク摂取不足(分解不足)が考えられ、併せて指導。

 

1ヶ月後

 

血圧は86/51、元々低いとのこと。

 

頭痛は相当落ち着いているようだ。
先週土日で胃の痛み。今は大丈夫と。

 

フェルム継続。

 

1ヶ月後

 

初診時10だった頭痛が、現在は5。相当楽になりました、と仰る。
今月の鎮痛剤内服は、一回もなし。

 

五苓散は2包2Xに減量。以前はお酒を飲むと頭痛が出やすかった。最近は飲んでいないが、どうでしょうか?と。

改善傾向ではあるので、少し試してみましょうか?ワインはしばらく避けてみてください。

 

次回は採血。

 

初診から3ヶ月後

 

飲酒で頭痛が誘発されることはなかったと。最近は肩こりも軽減してきた。
2回頭痛があったがいずれも自制内と。

 

経過良好。本日は採血、次回説明。
五苓散を1回にしてみる?

  • 赤血球数: 505×10^4/μl
  • 血色素量(HB):14.9g/dl
  • MCV:90.1fl
  • MCH: 29.5pg
  • AST(GOT):25IU/l
  • ALT(GPT):23IU/l
  • γ-GTP:15IU/l
  • 総 蛋 白:7.0g/dl
  • 中性脂肪(TG):47mg/dl
  • HDL-CHO:101.4mg/dl
  • 尿素窒素:13.3mg/dl
  • クレアチニン:0.65mg/dl
  • 血清鉄(Fe):104μg/dl
  • LDL-CHO: 138mg/dl
  • フェリチン定量:58.4ng/ml

 

フェリチンは3ヶ月前より50上昇、尿素窒素は3上昇。総蛋白は0.3減少だが、AST≒ALTとなっており、タンパク代謝効率は上昇したと考える。MCVは90まで上昇し、HBも14.9に上昇しており、貧血状態からは脱却した。また、LDLコレステロールは161→138に低下。

 

総じて順調。

 

(引用終了)

 

薬よりも重要なのは、栄養の「質」

 

当院には、今回提示したような方達が毎日のように訪れる。その方達の多くに、ある共通点がある。それは、「質的な栄養失調」。

 

質的な栄養失調というとピンと来ない方が多いかもしれないが、これが現代の様々な病気の引き金になっている、と最近は考えられるようになってきている。その中には、認知症のような変性疾患も含まれる。

 

「栄養失調なんて、何十年前の、どこの国の話だ?」と驚かれるかもしれない。では、次の様な食生活をどう考えるだろうか?

 

  • 食事は三食きちんと食べている。ただ、朝はバタバタしているのでパンとコーヒーだけということは多いが、せめて主食だけは摂るようにしている。
  • 基本的には、主食と副食をバランス良く食べるように心がけている。ダイエットのため低脂肪を心がけているので、油はあまり摂らない。肉を意識して食べることは少ない。卵はコレステロールが心配なので、一日一個以上は食べない。昼はパスタランチをよく食べている。デザートは別腹。甘いものは大好き。
  • 仕事でストレスがたまっているときは、ついつい間食が増える。清涼飲料水は必ず机の上に置いている。仕事で夜勤や残業をする時は、カフェイン含有のエナジードリンクを飲んで頑張っている。

 

自分は、上記の様な食生活では「質的栄養失調」に陥りやすいと考えている。

 

このような食生活を送る女性(男性も)は多いだろうし、それで問題のない人もいる。しかし、問題があっても自分では気づかない、もしくは病院でも気づかれない人も、相当数いる。

 

たとえ現時点では問題(症状)がなくても、上記のような生活を続けていると、いつの間にか高血圧症や糖尿病などの生活習慣病や、慢性的な頭痛と肩こり、不眠症などに繋がっていく可能性がある。

 

不調を感じて病院を受診すると、頭痛を訴えれば鎮痛剤が、眠れないと訴えれば睡眠薬が、抑うつ気分を訴えれば抗うつ薬が処方される。たまに食生活が顧みられることがあっても、「バランス良く食べましょう」と言われて終わることが多い。

 

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これらの処方で一時しのぎが出来たとしても、食生活を変えることが出来なければ症状は慢性化していく。

 

ちなみに、「慢性頭痛の治療ガイドライン2013」では、鉄やタンパク質摂取の評価、そしてその摂取の重要性については一行も触れられていないので、現在のスタンダードな頭痛診療では栄養面は考慮されていないと思われる。

 

栄養を重視するようになる以前の自分は、緊張型頭痛の人にはノイロトロピンやテルネリン、葛根湯などを、そして強い片頭痛発作が出る方にはトリプタン製剤の内服を勧め、片頭痛の頻度が多い方にはミグシスや呉茱萸湯を勧め、といった診療を行っていた。また、生活指導としては肩こり体操や、チーズやワインなどの刺激物は避けて、といったことを伝えるぐらいであった。

 

それが頭痛診療というものだと思っていたし、またそれなりの効果を挙げていたようにも思う。しかし、いつの間にか来なくなる人達も多かった。

 

そのうちに治っていてくれて病院から足が遠のいたのであればよい。しかし実際には、そのようなことはあまりないと思われる。自分の診療に不満で他の病院に移っていったのか、もしくは市販の鎮痛薬で紛らしていたか、どちらかだろうと思う。

 

勿論、これまでの頭痛診療の手法には今でもお世話になっているのだが、結局は頭痛の原因にアプローチしない限りは、いつまでも対症療法の繰り返しであるということに気づいてからは、頭痛患者さんの初診時には必ず食事に関する質問を行うようにした結果、

 

  • 炭水化物摂取過多
  • タンパク質摂取不足

 

この2点が慢性的な頭痛患者さん達の多くに共通していることが分かった。そして、栄養評価のために採血をするようになって確認出来たのが、

 

  • 鉄欠乏≒フェリチン低下
  • タンパク質欠乏≒BUN低値、トランスアミナーゼ低値

 

この2点である。

 

勿論、ビタミンやミネラルを調べだしたら、更に様々な欠乏やバランス不良を見いだせるのであろう。しかし、そこまでルーチンで調べることを保険診療で行うつもりは今のところない。ただし、ビタミンB群の不足は大抵はタンパク質摂取不足とセットのようなものであるので、B50のようなサプリメントによる補充を、ひとまずお勧めはするようにしている。

 

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そして今は、うつ病や発達障害、認知症の方達にも鉄欠乏、タンパク欠乏が多く見られることに気づくようになった。

 

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この気づきは現在、自分の診療守備範囲を拡げることに繋がっており、また治療成績向上にも役立っている。

 

 


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☆このような食事が多い方、要注意です。